経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

社員を幸福に導く人材育成が会社のさらなる成長を支える―天昇電気工業

天昇電気工業社長 石川忠彦(いしかわ・ただひこ)

2013年の社長就任以来、プラスチック加工製品の企画・製造・販売を手掛ける天昇電気工業。同社の変革に取り組み、着実な成長へと導いてきた石川忠彦社長には、ポストコロナに向けた確かな戦略があった。

天昇電気工業社長 石川忠彦(いしかわ・ただひこ)
天昇電気工業社長 石川忠彦(いしかわ・ただひこ)

コロナ禍の今だからこそ未来に向け新卒採用を拡大

 「新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、上場企業でも新卒採用を控えようという動きが増えています。しかし当社はこのタイミングこそ好機と捉えて、新卒の採用を大幅に拡大する方針です」と話すのは、天昇電気工業の石川忠彦社長。

 同社はコロナ禍の影響を受けながらも、2020年3月期は増収増益と好調な業績を上げている。もっとも、主たる顧客である自動車メーカーの業績不振の影響で苦戦を強いられたのも事実。それでも採用拡大に動くのはコロナ後を見据えた戦略があるからだ。

 「当社の売り上げは受託製造販売の割合が大きいのですが、取引先の動向に左右されやすく不安定な面もある。そこで自社製品の開発・販売により注力するために、自社商品プロジェクトを立ち上げました」

 これは若手社員が中心となり、オリジナル製品を開発し販売するというメーカーに勤める者にとってはまさに理想的な仕事のスタイルだ。石川社長がプロジェクトトップとなり、社員の提案を即時に決裁する。

 「新しいことを手掛けるには、社員自らが勉強しなければなりません。いろいろな場所に視察に行き、文献に当たり、考えて仮説を導き出す。この一連の流れで知見を身に付けることこそ最高の人材育成だと考えています」

 石川社長は、新卒社員を含む若手社員を、このプロジェクトを通して大きく成長させようと目論んでいる。

 また、同社は中途採用にも積極的だ。約500人の社員のうち約3分の1の150人程度が中途採用だ。実は石川社長の就任前までは「純血主義」を貫いていたという。「メーカーにありがちな、中途採用や社内の異動もない閉塞的な会社でした。その体質を改善してきたのです」。

 この動きの背景には石川社長の就任当時の「シャープ・ショック」があった。売り上げの大半を占めていたシャープの経営不振に伴い、同社の売り上げも激減したのだ。

 「顧客だけでなく、社内制度の隅々に至るまで全てを見直す必要がありました」

 純血型の組織は協調性が高い一方で、打たれ弱い。外部の血を入れることで、これまで培ってきた同社の技術と外から見た視点による気付きを融合するハイブリッド化を目指し、組織を進化させたのである。

 「当時は社員の誰しも会社がつぶれるかもしれない、と感じていたでしょう。大きな改革でしたが、会社を守り、生き残るため、全社員が私の考えを理解し、そして共に戦ってくれたことが、現在の姿につながっています」

天昇電気工業社長 石川忠彦(いしかわ・ただひこ)

社員が幸福になるために人材育成の投資は惜しまない

 石川社長は「人の三井」の三井物産出身。社員を大切にする、社員を育てる、という点に関しては人後に落ちない。

 「メーカーの財産は技術ですが、技術も人につくのです。物やお金は代わりがありますが、人は簡単には代えられない。だから育成や教育は会社として最も投資すべき分野です」

 とはいえ、いかに大切な社員でも決して甘やかすことはない。社員の評価は公平かつ公正に、シビアに行う。ここにも仕掛けが施されている。

 「人事評価のフィードバックの場を、上司と部下のケンカの場にしろ、と言っています」

 評価に納得できない社員が、言いたいことも言えずに引き下がり、やけ酒を飲んで上司の悪口を言うだけでは何も生まれない。お互いに口から泡を飛ばしながら罵倒し合うことが最高のコミュニケーションとなり、社員のモチベーションも上がる、というのが石川社長の持論だ。

 「ビジネスである以上は勝たなければいけません。勝つことで報酬を得て、自分も家族も幸せになることができます。私は全社員が真に幸福になるためには何でもやります。中には厳しい言葉もあるでしょうが、シャープ・ショックを一緒に乗り越えてきた社員は皆、私の真意を理解してくれています」

 1度は倒産寸前というどん底を経験し、そこからはい上がり現在の好業績の会社を築いてきた。怖いもの知らずの社員たちは、コロナ禍何するものぞと自社製品の販売強化を進めている。特に、医療機関で感染症医療廃棄物の専用容器「ミッペール」と、雨水貯水槽「テンレイン・スクラム」は、コロナと大雨という直近の社会的課題を解決する製品として実績を上げている。

 「若手は確実に力を付けています。新卒や中途採用の社員も含め、人への投資を惜しまないことで、ポストコロナの時代にさらに大きな成長を遂げてみせます」

会社概要
設立 1936年
資本金 12億800万円
売上高 183億5,100万円
(2020年3月期)
従業員数 560人(連結)
事業内容 プラスチック成形加工
https://www.tensho-plastic.co.jp/

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