経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

ヘルスケアをリードする強み オープンイノベーションで世界へ―シスメックス

シスメックス会長兼社長 CEO 家次 恒(いえつぐ・ひさし)

血液中に含まれる成分を検査するヘマトロジー(血球計数)、血液凝固、尿検査(尿沈査)の3分野で世界ナンバーワンのシェアを誇るシスメックス。病気の診断や治療に欠かせない検査領域で人々の健康を守るメードインジャパンの力がここにある。

シスメックス会長兼社長 CEO 家次 恒(いえつぐ・ひさし)
シスメックス会長兼社長 CEO 家次 恒(いえつぐ・ひさし)

検査機器、試薬、ソフトまでワンストップで提供

 ITプラットフォーマーのGAFA各社が揃って投資を加速するなど、近年は異業種からの参入が相次ぎ注目を集めるヘルスケア業界。シスメックスは1968年の設立以来、血液や尿などを用いた検体検査の分野における高い技術力を武器に業界をリードし、グローバルアライアンスによって、世界中の人々の健康に貢献してきた。

 中でも、血球計数検査に用いる検査機器は1秒間に10万個の血球を計測できる精度と効率性を有し、世界で50%以上のシェアを誇っている。こうした高い技術力を持つ検査機器に加えて、検査に用いる試薬やソフトウェアまで一貫して提供できるのも同社の強みだ。91年からは顧客への直接販売を中心にした販路の開拓に取り組み、現在は世界190の国や地域へ製品を提供している。

 さらに、世界各国で使用される製品とカスタマーサポートセンターをネットワークで結ぶことで、オンラインで機器の使用状況の確認や遠隔メンテナンスを行うことのできる環境を構築。何らかのトラブルが発生した際に、担当者が現場に駆け付ける時間とコストを削減している。この充実のサポート体制について家次社長は、「人々の命に大きく関わる事業領域なので、ダウンタイムをどれだけ短くするかを重要視しています」と語る。

 2020年初頭に新型コロナウイルスの世界的な感染が確認されて以降は、感染拡大および感染者の重症化防止に貢献すべく、国内で初めて新型コロナウイルス検査キット(RT−PCR法)の薬事承認を取得し、医療機関への提供を開始。

 抗原検査の分野でも製造販売の承認を早期に取得することができた背景には、02年に流行したSARSでの研究経験が生かされている。

 20年6月には、神戸市からの要請に応じて市内にある人工島・ポートアイランドの「神戸医療産業都市」にPCR検査機関を設置し、神戸市内の検査体制拡充に協力してきた。こうした官民のコラボレーションによる新型コロナ対策は、他の自治体からも注目を集めている。

 現在はさらなる検査精度と効率の向上に取り組んでおり、家次社長は「ウィズコロナに備え、空港での対応や劇場など日常における感染症対策に役立てるのではないか」と、今後の可能性に期待を込める。

 また、社内の感染対策にも細心の注意を払っている。新型コロナの感染が拡大する以前と比較して、オフィス内の人数を半減させるべく在宅勤務制度およびその利用対象者を拡充。他にも、勤務先に縛られず、自宅から最寄りの拠点に出社できるようにするなど、スマートな働き方への試行錯誤を続けている。

 海外拠点とのミーティングにもオンライン会議を活用するなど、新たな勤務形態を推進する家次社長は、「リモートワークが一般化することを前提とし、生産性をどう上げていくのか、そしてグローバルな競争の中でどのように成果を出していくのか、具体的な形にしていかなければならない」と話す。

関西地域の力を結集し新たな可能性を世界へ

 近年、注目を集めるゲノム医療の分野でも同社は高い開発力を誇る。18年には、がんゲノムプロファイリング検査用システムとして国内で初めて「OncoGuide NCCオンコパネルシステム」の製造販売承認を取得。19年6月に保険適用が決まり、多くのがん患者にとってより正確な診断が可能になる新たな診断法として期待が集まっている。

 そんな同社が本社を置く神戸の地が縁となって、実現したアライアンスがある。国産初の手術支援ロボットとして注目を集める「hinotori サージカルロボットシステム」は、共に神戸市内に本社を構えるシスメックスと川崎重工業、両社が出資し設立したメディカロイドの3社で開発した。

 世界の手術支援ロボットの市場規模は、20年の5500憶円から25年には1兆1500億円まで成長するという予測がある。これまで手術支援ロボットといえば、米国インテュイティブサージカル社の「ダヴィンチ」が世界シェア7割を占めてきたが、この牙城を神戸発の「hinotori サージカルロボットシステム」がどこまで崩せるか、大きな注目を集めている。

 家次社長は「関西には江戸時代から大阪道修町を中心に製薬メーカーが数多く発展してきた歴史があります。さらに、京都大学、大阪大学、神戸大学を中心に医療分野のアカデミアも充実しており、ヘルスケア産業は大きな強みになっています」と、関西の地の特徴を強調する。

 「これからのヘルスケア事業は自社のみで完結させるのでなく、ITなどの異業種やスタートアップ企業なども巻き込んだオープンイノベーションで、それぞれが持つ特徴を融合させながら新しいものを創り出していくことが必須」という言葉通り、シスメックスは今後もさまざまな力を結集し、関西から日本経済をけん引していく。

会社概要
設立 1968年2月
資本金 128億7,774万円(2020年3月)
売上高 3,019億円
所在地 兵庫県神戸市中央区
従業員数 連結9,231人
事業内容 臨床検査機器、検査用試薬ならびに関連ソフトウェアなどの開発・製造・販売・輸出入
https://www.sysmex.co.jp/