経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

社会に緊張感のある今こそリーダーはリスクを恐れず決断を―堀場製作所

堀場製作所会長兼グループCEO 堀場 厚(ほりば・あつし)

分析・計測関連機器の分野で世界トップシェアの製品を数多く生み出し、グローバル市場に大きな影響力を持つ堀場製作所。今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受け、どう事業に取り組んでいるのか。堀場厚会長に聞いた。

堀場製作所会長兼グループCEO 堀場 厚(ほりば・あつし)
堀場製作所会長兼グループCEO 堀場 厚(ほりば・あつし)

危機への柔軟な対応力で社会への責任を果たす

── コロナ禍を踏まえた御社の現状はいかがですか。

堀場 新型コロナウイルスの影響は大きく、B2Cの分野をはじめ、多くの企業が痛みを避けて通れない現状にあります。当社も長期にわたって展開するプロジェクトやカスタム製品が多く、2020年はコロナ禍で営業活動が制限されたため、21年以降の受注減が見込まれています。

 当社は自動車計測、環境・プロセス、医用、半導体、科学という5つの分野で専門性を持ち、大量生産でなく一流の技術を一流の顧客に届ける、いわば伝統産業のような業態です。全従業員約8千人のうち日本人は約3千人で、生産の8割は協力会社で働く約9千人の方々に支えられています。

 半導体の分野では世界シェア6割を占める製品もあり、仮に何らかの理由でこの製品を生産できなくなった場合、関連する世界の半導体製造が止まることになります。このようにお客さまに対しても、協力会社に対しても、大きな社会的責任があるので、協力会社の経営継続に向け、今後も厳しい状況が続いた場合の対策を一生懸命考えています。

── 従業員の働き方はどのように変わりましたか?

堀場 当社では06年から在宅勤務制度をスタートし、19年からは対象を国内グループの全社員に拡充したテレワーク制度を導入しました。この導入については当初、私はやや懐疑的でしたが、一人一人をマネジメントできる点や効率の良さに次第に有用性を感じるようになりました。現在も多くの従業員が利用しています。

 もっとも、オンラインがベースとなる在宅勤務はフェイス・トゥ・フェイスとのハイブリッドで行うことが大切です。私は毎月、会議のために海外出張をしていましたが、これは対面で会話や食事をすることで得られる情報があるからです。コロナ禍に限らず、厳しい状況でも強い会社とは、各部署、個人が一律でないことを理解し、カスタマイズしながらシステマチックに推進できる力を持っているのではないでしょうか。

コロナ禍では思い切ったリーダーシップと決断が必要

── 企業のリスクマネジメントについてはどうお考えですか。

堀場 企業経営におけるリスクマネジメントとは、先を見越してコントロールできる範疇で何ができるかを考えることです。ただし、経営はリスクそのものですから、回避してばかりでは、会社はジリ貧になっていきます。例えば、企業買収において200億円の資金があったとして、全額で買収すれば余力がなくなります。100億円で買収した後、運営のために残り100億円を投入することがリスクマネジメントです。

 そもそもリスクを回避して買収しなければ失敗をすることはありませんが、それでは企業の競争力は落ちるばかりです。日本の国際競争力が落ちている理由は、このリスクを回避しすぎるところにあります。中国やアジア諸国の企業は、買収案件がすべて成功しているわけではありませんが、積極的にリスクテイクをしています。

── コロナ禍の今、企業のトップはどんなリーダーシップを発揮すべきでしょうか。

堀場 現場に緊張感がある今は、変革への抵抗が最も少ない時期です。だからこそ、トップはリーダーシップを発揮して徹底的に思い切ったことをするべきであり、その決断はトップにしかできないものです。

 例えば、社内の体質改善や組織改革。組織、製品群、オペレーションのすべてに付いたぜい肉を、一気に筋肉質に変えるべきです。当社では半導体工場がフル稼働して他の事業をけん引していますが、中には厳しい部門もあるので思い切った経費削減に取り組んだところ、予想以上の効果がありました。

 もちろん、必ずしも効果が表れる保証はありません。病気がちの人に無理やり手術をしたら体力が持たないですよね。これを見極めるのもトップの仕事で、成功すれば会社はより強くなります。あらゆる業種で寡占化が進む中、こうした時期に動ける企業が市場を取っていくのではないでしょうか。

── 今後の展望については。

堀場 今はバイオ、メディカル、自動車の電動化や自動運転といった新しいジャンルにチャレンジできる好機です。当社でも産業技術総合研究所が代表機関として進める新型コロナウイルス抗体検査キットの装置開発を進めています。HORIBAグループ全体としてはしばらく厳しい局面もあるとは思いますが、創業以来こだわってきた「ほんまもん」の精神で事業に取り組んでいきます。

会社概要
設立 1953年1月
資本金 120億1,100万円(2019.12.31)
売上高 2002億4,100万円
所在地 京都市南区
従業員数 8,288人
事業内容 自動車計測機器、環境用計測機器、科学計測機器、医用計測機器、半導体用計測機器の製造販売。分析・計測に関する周辺機器の製造販売。分析・計測に関する工事
https://www.horiba.com/JP/