経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

広域ネットワークを生かし地域金融機関の真価を発揮する―京都銀行

京都銀行頭取 土井伸宏(どい・のぶひろ)

2016年1月に導入されたマイナス金利政策によって、地方銀行の経営環境は厳しさを増している。地銀同士の再編や連携の動きが目立つ中で、京都銀行は地域経済の成長に向けた使命を全うすべく、現状維持にとどまらない成長路線を志向する。

京都銀行頭取 土井伸宏(どい・のぶひろ)
京都銀行頭取 土井伸宏(どい・のぶひろ)1956年京都府生まれ。滋賀大学経済学部卒業。80年京都銀行入行。2015年6月に取締役頭取就任。20年藍綬褒章受章。

課題解決を軸としたソリューション営業の展開

── 新型コロナウイルス感染症が急拡大する中、2020年2月に危機対応の融資を開始されました。

土井 京都はインバウンドの恩恵を受け、市内の主要ホテルでは宿泊者数の半分を外国人観光客が占めていました。また、中国をはじめとする海外とつながりの強い地元企業も多く、海外との人の往来や取引がストップしたときの影響を考えると、早急に資金繰り支援を行う必要がありました。

 そこで、いち早く独自商品「新型コロナウイルス対応特別融資」の取り組みを開始し、休日拠点の体制も拡充し、一丸となったサポートを行った結果、融資実績は約1万4千件、約5450億円となっています(20年11月30日時点)。

 また、6月に本部横断型組織「コロナサポートチーム」を創設し、資金面だけでなく、売り上げや集客の回復、経営改善など本業に関するお客さまの課題にスピーディーに応えられる体制を整えました。

 コロナサポートチームには売り上げや集客に関する悩みと同じくらいの割合で事業承継や事業再構築に関する相談が寄せられています。京都府全体で廃業される事業先は前年対比で2割増というデータもあり、コロナ禍が経営者の決断を早めている面も否めません。長年事業を営んでこられた経営者がコロナ禍で「心が折れる」ことは残念ですし、地域経済にとって大きな損失になります。

 4月から始まっている新中期経営計画で「課題解決型営業の完全定着」を掲げる当行にとっては、コンサルティング営業の真価を正に発揮する局面です。20年ほど前から積極的に取り組んできたM&Aや事業承継のノウハウなどを生かし、お客さまの課題解決に向けた取り組みを強化していきます。

── 新中計の「全従業員の満足度向上」という言葉が目を引きます。

土井 地域金融機関を取り巻く環境は大きく変化しています。令和時代の経営を考えるとき、過去からの延長線上に成長・発展という未来があるとは限りません。従来からの既成概念にとらわれることなく、新たな成長段階に入ったことを認識したうえでスタートする必要があると感じ、新中計を「Phase Change 2020」と名付けました。

 また、新中計の策定においては、新たな試みとして全従業員から「ありたい姿」を集約しました。そのプロセスで、地域への貢献意欲に溢れる行員の強い思いを再確認でき、その思いを実現することが地域・お客さまの満足度向上につながると考えています。そうしたことから、「全従業員の満足度向上」と「地域・お客さまの満足度向上」を掲げ、その両輪の好循環を根底に据えました。

── マイナス金利政策が続く中、今後の生き残り策は。

土井 日銀の異次元金融緩和政策のスタートから7年が経過し、マイナス金利政策も導入後5年が経ちます。金融機関を取り巻く環境は厳しさを増しており、私たちも例外ではありません。預金や融資に関する業務が中心であることは変わりませんが、それにとどまらず、地域・お客さまのニーズにいかに応えるかが重要になってきます。

 新中計でも、事業領域を銀行業から総合金融ソリューション業へ展開していくことをメーンテーマの一つに掲げ、質の高いコンサルティングの提供を通じて収益力の強化を目指しています。

見直される地銀の存在意義 地域活性化に向けた覚悟

── 広域ネットワーク活用に向けた店舗戦略は。

土井 現在、多くの金融機関が店舗の削減を進めています。しかし、地域経済の発展に貢献することが第一である地域金融機関にとっては、お客さまとの接点となる拠点は不可欠である、と私たちは考えています。

 拠点を削減することはコストカットですので一時的に収益は改善するかもしれませんが、長期的に見ればお客さまや商圏を失うことになります。確かに人口の極端な減少などによるやむを得ない統廃合はあると思いますが、それだけではいけないというのが私の考え方です。

 とはいえ、収益環境も変化し、オンラインサービスも充実していますので、今まで以上に店舗運営の効率化を図りながら、多様化・高度化する顧客ニーズに対応するためコンサルティング機能を充実させる必要があります。

 9月に大阪市内と兵庫県明石市内に新設した2カ所の法人特化拠点は、効率運営とコンサルティング機能充実を実現した形態です。阪神地区の未開拓エリアへの拠点展開として、店頭窓口やATMを置かず、1拠点に4人の営業人員のみとすることでコストを極小化し、コンサルティングに特化したスタイルになっています。拠点設置後3カ月ほどですが、腰を据えてじっくりと営業できますので、新たなお客さまからも安心感をもって相談を頂いております。

 私たちはこの20年間で、近畿2府3県、愛知県、東京都に単独で174カ店の広域ネットワークを構築しました。エリアを越えたマッチング、M&Aなど広域ネットワークを生かしたコンサルティングを通じて、お客さまの期待に応え続ける銀行でありたいと考えています。

── 政府は地銀の統合に積極的で、全国で再編が進んでいます。

土井 確かに統合により規模は拡大しますが、統合後に目指す姿が明確でなければ、単なる延命になりかねません。もちろん、私たちは単独経営を続けていきます。