経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

日本一富裕層に詳しい税理士が説く「資産の残し方」(第1回)

芦田敏之・ネイチャー代表

特別対談「富裕層の今」 芦田敏之(税理士法人ネイチャー国際資産税代表)×佐藤有美(経済界社長)

事業に成功して富裕層となった企業経営者たちにとって、資産運用と防衛は大きな関心事だ。本シリーズでは、景気変動や税制改正などに直面しても、着実に資産を増やして繁栄を継続させるためのノウハウを、「日本一富裕層に詳しい税理士」と呼ばれる芦田敏之氏(ネイチャー国際資産税代表税理士)が伝授していく。【AD】

芦田敏之氏プロフィール

芦田敏之・ネイチャー代表
(あしだ としゆき)1978年生まれ。神奈川県出身。2005年、税理士試験合格。2006年、税理士登録。2012年、税理士法人ネイチャー国際資産税を設立。現在は代表税理士を務める傍ら、英国国立ウェールズ大学経営大学院に在学中。(MBA取得予定)。資産規模100億円を超えるクライアントの案件を数多く抱え「日本一富裕層に詳しい税理士」として活躍する。

佐藤有美氏プロフィール

佐藤有美
(さとう・ゆみ)1960年生まれ。東京都出身。1969年以後東京・杉並区で育つ。装道着物学院にて着物コンサルタントの資格を習得し、和装小物や呉服販売を手がける。結婚、出産、子育て、離婚を経験した後、経済界に入社。2001年に創業者、佐藤正忠から事業承継し、経済界社長に就任。

銀行が積極的に資金を貸し出す真の富裕層とは?

佐藤 新型コロナウィルスの流行で、富裕層の資産運用に何か影響はありますか?

芦田 富裕層が投資行動を変えたというより、外部環境のほうが変化しています。商業ビルではテナントの解約が続出していますし、銀行もお金を貸す人を選ぶようになりました。あと、富裕層と一口に言ってもカテゴリーがたくさんあるので、どの層を対象にするかでも話は違ってきますね。

佐藤 では、まず富裕層のカテゴライズからお願いします。

芦田 富裕層でマジョリティを占めているのが、企業経営者です。さらに、経営者でも最近IPOなどをした経営者と、ずっと未上場で利益を積み上げている会社の経営者では性質が異なります。若い起業家などは、長年利益を積み上げてきたわけではないので、基本的にIPOでもしないと富裕層にはなれません。

 あとは、芸能人やスポーツ選手などにもお金持ちはいますが、富裕層と呼べるレベルの人はほとんどいません。芸能人は高級時計を付けたり高級車を頻繁に乗り換えたりして、結局お金が残っていない方が多いです。派手な生活をしている社長も同じですね。一方、会社は儲かっているけど、質素な生活をしているような人のほうが本当の富裕層だったりします。お金持ちにもいろいろいるので、ワンパッケージにくるむことはできないです。

佐藤 真の富裕層は、どんな資産を好んで持つのでしょうか?

芦田 やはり不動産の比率が高いですね。日本は相続税が高いので、実物資産への投資が有利になるのがその理由です。日本の銀行は有価証券系にリスク資金を貸し出さない一方、不動産やそれ以外のオルタナティブ投資には出す傾向があるので。

佐藤 コロナの影響で、富裕層も不動産を取得しにくくなったりしてはいませんか?

芦田 銀行も顧客を選んでいるので、事業が安定しているお金を持ちの社長には、銀行はむしろバンバン貸しています。だから、佐藤社長みたいな人は心配ないのですが。

佐藤(笑)。

芦田 かたや、銀行はIPOしたばかりの若手経営者などには、そこまで貸したがりません。最近になって上場したAIやフィンテックやRPAなどの事業を展開している企業も、ふたを開けると大抵は赤字です。将来への期待値で上場していますが、普通なら市場から退出しなければならないような会社も中にはあります。

相続対策をしなければ富裕層の資産は減る一方

佐藤 すると本当の富裕層はますます資産形成に有利になって、格差が開いていくということでしょうか。

芦田 そうなります。資産形成に一番有利なのは、たとえば自分で事業を興したのではなく、50年以上続いている企業の2代目3代目社長などです。その人が有能かどうかに関係なく、長年の積み重ねが財務諸表にドンと乗っているという実績が大きい。ただ、日本は相続税が55%もかかってくるので、事業承継の際に税務対策をしないと相続のたびに資産が減っていくことになります。逆に、相続対策をしっかりやって、事業を引き継いでいける経営者資産はどんどん増えていきます。

佐藤 何もしなければ資産が縮小する一方だということですね。

芦田 いきなり縮むわけではなく、相続の度に減って、またなだらかに増えて、また減るを繰り返すイメージですね。

佐藤 いろんなケースはあるとは思いますが、芦田さんが注目する相続対策のポイントはなんでしょうか?

芦田 たとえば、一人の相続に関しては遺留分(遺産のうち相続人が最低限取得できることが保障されている割合)の問題があるので、子どもをたくさんつくって相続対策を何もしないのは大きなリスクになります。でも、子供がいなければ、誰が事業で引き継ぐかで揉める可能性がある。相続プランニングで遺留分を上手く回避しながら、本命の相続者に事業を引き継いでいく必要があります。

税制改正の次のトレンドはどうなるか?

佐藤 海外不動産も富裕層には人気があるのでしょうか?

芦田 以前は海外不動産を持つことで、所得税を節税できたので人気だったのですが、今は税制改正でそのメリットがなくなってしまいました。われわれはよく、「ICT方式」で考えてくださいとお客様には言っていて、Iはインカムゲイン、Cはキャピタルゲイン、Tはタックスゲインを表します。少し前まで海外不動産は個人所得が圧縮できて、タックスゲインの観点から効果があったんです。

企業経営ではよくPEST(ポリティクス、エコノミー、ソサイエティ、テクノロジー)の変化に敏感になることが重要だと言われていますが、資産運用も同じく、ポリティクスで税制変更などがあると必要な策が変わってしまいます。海外不動産に関しては、法人が保有する不動産に対しても節税のメリットがなくなっていく方向に行くと見ています。

佐藤 その根拠は何でしょうか?

芦田 課税庁としては、自然な成り行きで納税額が減るのは良しとしても、課税の減額を目的とした取引は嫌がりますからね。保険業界で起きたバレンタインショック(2019年2月14日に国税庁が発表した、返戻率が50%以上の保険商品を対象とした税制改正。こうした保険商品を、節税目的で利用する経営者が多かった)はまさにそれです。良い会社でビジネスが安定している会社なら本来は保険を掛ける必要はないのですが、利益を圧縮するために入る保険商品に関しては課税方法が見直されました。

佐藤 制度とのいたちごっこは今後も続くと思いますが、次にターゲットとなりそうなのは?

芦田 次にあると予想しているのが、相続と贈与の一体課税です。具体的にどのような制度になるかはわかりませんが、税制改正は基本的に施行前の取引は対象にならないので、早めに対策しておいたほうが良いと思います。海外ではその方向で制度を作っている国が多いです。

不動産、実物資産投資がなぜ有利なのか

佐藤 今後は不動産よりも、有価証券などを中心にポートフォリオを組むトレンドになるんでしょうか。

芦田 それはないです。今なら不動産でもコインランドリー投資でも、実物資産なら何でも基本的に所得税の圧縮が効きますから。

佐藤 そういえば、コインランドリー投資を最近よく見かけるようになりましたよね。

芦田 コインランドリーのビジネス自体に魅力があるというよりは、中小企業経営強化税制のB類型という特別な税制を使えるのがメリットです。ケースによっては、最大55%かかる税金を0%にすることもできます。

あと、投資家の目線で言うならば、たとえば自分の資産全てを1つの企業に投資する人はいないと思いますが、中小企業の経営者は全財産を自分の会社に投資していたりします。でも、普通に考えたら1つの企業や産業がずっと続くかは微妙ですし、資産を分散してさまざまな収益源を確保する方が賢明です。企業経営者個人のポートフォリオも考え方は同じです。

佐藤 投資を全くしないことは、一か所に全額ベットするぐらいリスキーなんでしょうね。

芦田 そうです。自分の会社の業績がめちゃくちゃ利幅が高くても、それが恒久的に続く業界はほとんど存在しません。ですから、オーナー経営者は絶対にいろんなものに投資したほうがいいです。

佐藤 不動産投資で気を付けるべき点はどこですか?

芦田 基本的に、日本では不動産投資や実物資産投資の勝率は凄く高いです。その理由の1つは、仮にリーマンショックのようなことがあっても狼狽売りしなくていいから、ということがあります。

佐藤 売ろうにもすぐ売れないですしね。

芦田 プロの投資家の多くは、含み損がある程度まで来たらロスカットしなければなりませんが、個人投資の良いところはロングで保有できるところです。さらに、日本の借り入れ金利は世界で一番条件が良い。海外で借りたら金利4~5%するところが、日本では1パーセント以下で借りられたりします。

資産をすぐ売らなければならないとなると、キャピタルゲイン次第でリターンが変わってしまいますが、個人投資家は長期で保有して、その間に入ってくるリターンがあるため、毎年キャピタルゲインのリスクは減っていきます。さらに、購入時に既に相続効果が実現化しているという点もメリットです。資産を現金で持つのではなく、不動産を購入して節税した部分が含み益のようなものになるからです。

有価証券への投資がなぜ負けやすいかと言えば、ボラティリティがあるためロングで保有できる人が通常はほとんどいないからです。日本の証券会社のビジネスモデルは、「利益が出たら売りましょう、損失が出ても取り返せるから買いましょう」と、短期で売買させるスタンスですし。

タックスマネージメントは経営者の重要な仕事

佐藤 経営者であれば、株価が気になって仕事に集中できなくなるかもしれませんね。

芦田 あと、法人税とか所得税の話で言うと、日本の税制はすべての資産を一か所にベットする人たちに55%の相続税をかけているわけですが、タックスマネージメントをこれだけ気にしないのは日本の経営者だけです。名経営者と言われる人でも、経費にはうるさいけれど税金に関しては「払うものは払え」みたいな考えの人が多い。

でも、欧米では経営者にとってタックスマネージメントは大事な仕事と捉えられています。合法的に節税するのは権利だから全部やるべき、という考え方です。それをやらなければ株主から預かっている資金を無駄に減らしているということで、経営者失格の烙印を押されてしまいます。正直なところ、タックスマネージメントの面で日本の経営者は遅れています。

佐藤 富裕層の資産防衛の観点から、最後に一言アドバイスをください。

芦田 日本の税制は相続税と所得税を中心に世界で類を見ないほど高いので、ここをウォッチしていかないと、今は富裕層である経営者の方も繁栄を継続することは難しいです。それは、ライバル企業との戦いにおいても重要です。自社は何もせず、ライバル企業だけが対策によって純資産を残したまま事業承継に成功すれば、競争力で一気に差が開いてしまいます。その意味でも、日本の税制を考えながら戦略的な経営をしていった方が良いと思います。