経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

改めて抑えておきたい!DXとIT化の違いとは?

窪田望

連載 窪田望の「DX経営戦略論」(第1回)

ビジネス用語として最近耳にすることが増えた「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。しかし、その意味を本当に理解し、経営に役立てている企業は未だ限られている。本連載では、クリエイターズネクスト社長の窪田望氏が、企業経営者が本気で取り組むべき、実践で役立つDXについて解説していく。

DXという言葉はいつ、どのように生まれたか

DXとはデジタルトランスフォーメーションのことである。この言葉は、多くのメディアや官公庁発表、企業のIR情報などで散見されるようになってきた。しかし、何しろカタカナである。馴染みのある言葉ではないことから、その定義も曖昧に、使用用途も不適切に使われることも増えてきた。経営者が集うメディアである経済界の連載企画第一稿としては、まずはこの定義から話を進めていこうと考えている。

そもそも、DXという言葉は最近の言葉だと考えてはいないだろうか。

実はその言葉を作ったのはスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授。彼が初めてDXについて触れたのは、2004年である。意外ではないだろうか。そして、その定義は「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」(注1)というものだった。

この定義で考えると、IT化との違いは見えにくくなる。しかし、経済産業省は「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」(注2)の中で以下のような定義を明確に示した。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

この定義の特徴としては、DXの主人公を明確に企業として定義したことや、ビジネスモデルの変革まで踏み込んでいることである。

確かに2004年当初に求められていたデジタルトランスフォーメーションと現在で求められる定義は違うのには納得感がある。DXのXはトランスフォーメーションのXであり、時代の進化に応じて常に変革が求められている。

そのため、先にIT化とDXの違いについての違いを解説すると、当初はあまり差はなかったが、現在ではビジネスモデルや組織、企業文化の変革まで含まれている点に大きな差がある。

つまり、DXは企業の経営戦略として非常に重要な部分を担うのだ。ここで、本記事で論じるDXとは経済産業省の定義を参考にして考えていく。

実はDX とは言えない事例

そう考えると、実はDXと言っているものの、経済産業省の定義するDXとは違うと言える事例が存在する。例えば、個別最適化の悪手が代表例だ。「うちにはこの機能が必要」「うちのオペレーションにはこれが必要」という言葉を聞いたことはないだろうか。

そもそも、非効率な処理方法なのにも関わらず、その処理方法に慣れているオペレーターが社内に存在し、かつ、その人の発言権が大きいとき、全てのリニューアルプロジェクトは悪夢になる。なぜならその人にとって「最も使いやすいインターフェイス」は現在のレガシーシステムであり、新しく作られる何かでは決してないからだ。

世界であらゆる業界で導入されるスタンダードなSaaSなどは、あらゆるケーススタディーを元に、最適な体験を作るためにわざとあらゆる機能を削っていたりする。しかし、うちの都合だけを全面に押し出すことで、その会社の本来悪かった部分をシステムが引き継いでしまうなんてことが現実にはある。

例えば、契約書に捺印をする際に、「我が社では社長以外の役員は社長に対してお辞儀をするように傾けて捺印をする」という文化があったとする。これを実装しようとすると、個別最適化になる。確かに今のオペレーションはIT化できるが、DXとは業務そのものの変革を含むわけなので、「そもそも捺印っているの?」というところから考え直す必要がある。

「なんちゃってDX」は現状維持を前提にして、現状をIT化しようとするが、本来DXはプロセスそのものをダイナミックに変革することを前提としているのだ。

DXについて注目をする経営者、なぜか失敗するプロジェクト

では、デジタルトランスフォーメーションという言葉が2004年からどのくらいの検索需要を持っていたのだろうか。調べてみると、以下のグラフのようになる。昨今、2004年から2021年までの17年間を比べても最近特に注目を浴びていることがよくわかる。

キーワードプランナー

このようにDXには、国も全力で推進しようとしているし、明らかな昇りのエスカレーターである。このようなことから、DXについて反対をする経営者は時代の流れと逆のポジションを取ることになる。

そのため、多くの経営者はその熱意の差こそあれ、基本的にDXに対して、賛成の立場を取る。しかし、マイケル・ウェイドの書いた「DX実行戦略」の中では恐ろしい事実が書かれている。「DXの実行を任された者は見事に失敗する」と。

なぜなのか。1つは、変革についての根本的な誤解があるとマイケルは指摘する。変革を一過性の革命か何かのように捉えているからだ。蝶の幼虫のように一回かぎりの変身を意味すると誤解しているが、実際にはリーダーにとって最も重要でかつ終わりのないタスクだというのだ。

それは、DXの発端が2004年に生まれたことから考えるとわかりやすいのではないだろうか。ITの進化はめざましく、常に新しい技術が発展している。その進化のスピードを自社の競争力の源泉に組み込むことが出来た企業と、その進化を他社に手放した企業とでは、今後大きな差が開くことになるだろう。

では、経営者としてはDXの実行は誰に任せればいいのか。DXの実行を任された者は見事に失敗すると専門家は予言すると言うのに。そこについては次回詳細に解説をする。次回のテーマは「DX推進で経営者が担うべき役割とは」についてだ。お楽しみに。

(注1) https://www8.informatik.umu.se/~acroon/Publikationer%20Anna/Stolterman.pdf スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授「Information technology and the good life」

(注2)デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドラインhttps://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf

筆者プロフィール:

(くぼた・のぞむ)株式会社Creator’s NEXT、CEO & Founder。米国NY州生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。15歳の時に初めてプログラミング開発を行い、ユーザージェネレーテッドメディアを構築。スペイン・香港・シンガポール・ルクセンブルクでデジタルマーケティングについての登壇、ハッカソン優勝等実績多数。グッドデザイン賞受賞、KVeCS 2018 Grand Finaleで優勝しニューヨーク招聘、IE-KMD MEDIATECH VENTURE DAY TOKYOで優勝しスペイン招聘される。2019年、2020年には3万7000名の中から日本一のウェブ解析士(Best of Best)として2年連続で選出。東京大学工学系研究科技術経営戦略学専攻グローバル消費インテリジェンス寄附講座/松尾研究室(GCI 2019 Winter)を修了。マサチューセッツ工科大学の「MIT Sloan & MIT CSAIL Artificial Intelligence: Implications for Business Strategy Program」修了。グローバルマーケティングにおけるスケーラビリティーの実装に強みがあり、マーケティングやA/Bテストに関する教科書の執筆や、のべ3000名以上のマーケティング担当者の前での登壇・育成に携わる。
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