経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

日米におけるCVCの成功事例と失敗事例

日本イメージ

ここ数年、国内外で増え続けているCVC(Corporate Venture Capital)についてその成功事例と失敗事例について述べていく。

CVCの成功事例

日本での成功事例

日本でも近年数多くの大手企業がCVCファンドを設立しているが、その中でも成功したCVCファンドの一例として、まずKDDIの「KDDI Open Innovation Fund」(以下KOIF)を紹介する。

KOIFは独立系ベンチャーキャピタル(VC)のグローバル・ブレインと共同で投資額200億円で設立された。KDDIがCVCを立ち上げるのは3回目だが、これまでの2件は投資枠が50億円規模にとどまっていた。KOIFの主なポートフォリオは、中高生向けスマホ学習塾「アオイゼミ」、米国の大手テック系メディアの「Venture Beat」、スマホVRサービスを提供する「ハコスコ」など、幅広い分野にある。運用期間は2028年3月までの10年としている。

KDDIがCVCで成功している秘訣は、ズバリ、「ベンチャーファースト」に尽きる。すぐにKDDIとのシナジー効果を求めるのではなく、基盤を提供し、まずは出資先のベンチャー企業の成長を第一に優先するのだ。

特に、若いSEED期の企業とタイアップして、6カ月から一年ほどの長いスパンをかけて事業を共創し、そのベンチャー企業と何をやっていくかを考え、その中で事業をよりスキーム化し、共同して事業を行えそうになれば、CVCから資金を支援している。その結果、スタートアップ企業との連携に熱心な大企業のランキングである「イノベーティブ大企業ランキング」で1位を獲得している。

CVCを活かしての買収において重要なことは、投資先スタートアップの経営者の信頼関係を構築し、協力することが欠かせない。経営陣がコミットし、10年ぐらいの中長期で取り組む姿勢が重要である。

アメリカでの成功事例

アメリカでのCVC成功事例としては、Google Venturesがあげられる。Google Venturesは、2009年にGoogleの経営企画部門から独立したCVCで、これまでに642社に投資を行い、121社をエグジットさせている。

コンシューマ向けのインターネットサービス、ソフトウェア、ハードウェア、バイオ、ヘルスケア等、多岐に渡る分野において、Googleの幅広い関心に合致する新興企業に投資しており、その数400社以上にのぼる。代表的なポートフォリオとしては、米国の配車サービス「UBER」、ソフトウェア配布と広告ネットワークを手がける「Open Candy」や、ウェブ上の動画を分析して、学生の英語学習を支援する「English Centralなどがある。

Google Venturesが成功しているのはその投資基準にある。Google Ventures の元パートナーであり、Androidの共同開発者であるRich Minerは投資基準を説明している。

1つ目は「People First」である。確かに、CVCにとってテクノロジーを持った人は必要である。しかし、そのテクノロジーのバックグラウンドを鑑みずとも、共に働ける人であることを優先するのが投資する際に重要だという。2つ目は、「Focus on three Ds: Design, design, design.」だ。これは、デザイナーがプロであろうがなかろうが、創業者がプロダクトやUIに対してのデザインを正確に把握していることが前提条件であるという事だ。他にもモバイルの強さや、深刻な問題に直面した時の対応力の高さなどを基準に掲げている。

このような基準で投資先を選別し、まずCVCファンドで少額出資をした後に、スタートアップを買収して新サービスを育てている。

CVCの失敗事例

成功するCVCがある一方、CVCをうまく活用できずに終わってしまった企業の事例も紹介しておく。企業へのITアウトソーシングサービス(コールセンターサービス、デジタルマーケティングサービス、EC、BPO、データ分析等)を展開するトランス・コスモス株式会社は、キャピタルゲインを目的として、2005年にCVC事業を展開した。しかし2008年のリーマンショックによる経済環境の急激な悪化により、業績が低迷し、翌年の2009年に経営体質の強化に経営資源を集中するために撤退した。

グラフコンサルティング会社のPwCアドバイザリーの調査によると、国内事業会社がスタートアップへの投資を目的に設立したCVCの約3割が「自社のファンドの運用が順調ではない」と感じているということが分かった。近年のCVCの台頭は著しいものの、積極的にスタートアップの買収を検討している国内CVCは全体の2割に満たない。

CVC設立直後は、大半の管理者は「自社のCVCが概ね順調である」と考えている。しかし、CVCファンドの運用期間別に回答者を分けたところ、運用開始1年未満の回答者の80%以上が「順調である」と回答している。しかし、運用期間が長ければ長い程その割合が低下し、運用期間が3年以上となると、順調であるとの回答は55%にまでとどまっている。

つまり、CVCファンド設立直後は多くの管理者が「順調」と考えているが、数年後は多くの課題に悩まされて、CVC運用の困難に直面することになる。

まとめ

CVC事業を成功させるためには、1度や2度の失敗で撤退するのではなく、辛抱強く中長期の目線で取り組む事が重要である。

現に、リーマンショック後、ベンチャーの事業環境が一気に厳しくなり、投資を撤退・縮小するVCもいた中で、投資を止めずに安値で有望ベンチャーに投資し続けたVCは、その後のアベノミクスによる株価上昇、景気の回復で大きな収益を獲得した。経済環境の厳しい時期にも、ノウハウやネットワークを蓄積・維持してプレゼンスを保ってきたVCは、現在大きなメリットを享受している。

一度失ってしまったノウハウやネットワーク、プレゼンスを再び得るのは簡単ではない。続けることが重要なのだ。先行企業によるCVC事業の成功事例からノウハウを体得し、国内企業のCVCに対する知見を深める事が重要であると考える。