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医療分野で情報技術活用を目指すHIMSSとは

HIMSS

閉鎖的になりがちな医療の世界に、エンジニアの原理を持ち込むことを目的として米国で設立されたHIMSS。その活動と今後の展開について、HIMSSジャパンのカントリーマネージャーに就任した戸田光太郎氏に話を聞いた。

医療分野にエンジニアの原理を持ちこむHIMSS

―― HIMSSとは何ですか? そもそもどう読めば良いのですか?

戸田 笑。ややこしくて、すみません。HIMSSは短縮形で、正式名称はさらにややこしくなりますが、Healthcare Information and Management Systems Societyを略したものです。直訳すると「医療情報管理システム学会」となります。ますます分からなくてなりますが、一般的に世界では「ヒムス」と呼ばれています。

―― ヒムス、ですね。

戸田 はい。実は非常に古い組織でアメリカでは広く知られているNPOです。元々は1961年に病院管理システム協会(HMSS: Hospital Management Systems Society)としてエドワード・J・ガーナとハロルド・E・スモーリーの二人のアメリカ人によって共同設立されました。医者とエンジニアの組み合わせですね。

 閉鎖的になりがちな医療の分野に合理的なエンジニアの原理を持ち込んでいこうとした協会で、やがて1980年代にアメリカでは「I」が加わりました。つまり、InformationことITの要素が加わって、HIMSSは現在、情報技術と医療の管理システムを最大限活用することを目指しております。

―― アメリカに本社があるのですか?

戸田 はい。申し上げましたように1961年、病院管理システム協会として設立され、本部はイリノイ州シカゴにあります。品質、安全性、費用対効果、アクセスの面で医療を改善することに専念するアメリカの非営利組織です。最近はコロナによって世界的にデジタル化が推進されました。

 もう一つは認知症の問題ですね、これにも取り組んでいます。HIMSSシカゴ本部のウルフCEOが、認知症を「世界的に広がるシルバー・ツナミ」と表現していた事に衝撃を受けました。世界中で高齢化社会となり、認知症は大きな問題です。去年、私の父が亡くなりましたが、最後は息子の私のことも認識出来ない状態でした。

―― アメリカ以外での展開は?

戸田 ロンドンにはHIMSSのインターナショナル部門があります。インターナショナルのマネージング・ディレクターのブルース・スタインバーグというアメリカ人がいるんですが、生粋のアメリカ人です。

 長く英国に住んでいる彼が、日本で基調講演を致しました。HIMSSは非営利のグローバル・ボイスで、ITによって健康の形を刷新するアドバイザー、その分野の第一人者です。スマートフォンが一般化した今こそ、ITによって、より良い医療を広く全ての方々にあまねく広めて行くことが可能となってきました。

 HIMSSは幅広く深い専門知識と能力によって、高度で安全、効率的な健康やヘルスケアや治療結果をお届けする事をお手伝い致します。まあ、ここに集約されていると思います。このブルースと私は同じロンドンのグローバル・メディア会社(MTV EUROPE)に勤めていて、その縁で加わりました。ロンドンは世界のHIMSSを見ていますが、アジアにはシンガポールにアジア太平洋本部があります。

HIMSS
情報技術と医療の管理システムを最大限活用することを目指す

日本の医療テクノロジーに期待

―― アメリカと英国とアジアが中心になるのですか?

戸田 350人の従業員という少数精鋭の専門家集団によって、HIMSSは北アメリカ、アジア太平洋地区、欧州各国、中東で活動しております。日本でもいよいよ活動を広げようとしているところです。

―― ヒムスは日本では知られてないのでは?

戸田 ほとんど知られておりませんが、HIMSS Japanを立ち上げようという、海外でのHIMSSの活動をご存知のお医者様方が手弁当で集まってくださり、HIMSS Japanコミュニティを構成してくださっております。

 まず、委員長が京都大学医学部附属病院 医療情報企画部の黒田知宏教授。 中央大学ビジネススクールの真野俊樹教授。聖マリアンナ医科大学の山本真士理事。医療法人鉄蕉会の中後 淳情報管理部長。昭和大学精神医学講座の須藤英隼先生。聖路加国際病院嶋田 元ヘルニアセンター 長 医長。という日本のヘルスケア専門家の錚々たる皆様が、ご参加されております。そして事務局長がロサンゼルスにいるタッシル恵子です。会議はリモートで行なっております。

―― どういう思想に裏打ちされているのでしょうか?

戸田 1961年スタートの根本理念は変わりませんが、ITの登場で、我々HIMSSのヴィジョンは『どこの国の誰もが持つ、その潜在的な健康を十全に実現させること』にいよいよ固まりました。そして我々の使命は『ITを通じて地球規模で健康を改善させること』に尽きます。

 そしてこれはHIMSS Japanにご参加されている先生方がおっしゃっている事なのですが、日本の医療テクノロジーはかなり世界でも先端を走っているものがあるのに知られていないという事です。かつての日本企業は車メーカーから家電メーカー、カメラなど精密機器と非常にアグレッシブに世界中に輸出しておりましたが、ここ25年は韓国、中国、アメリカに負けています。

 しかし、医療分野にはまだまだ海外でも勝負出来る重要なものがあります。特に高齢化社会では世界の最先端を行く日本ならではのトイレ、ベッド、ロボットも開発されています。世界的なシルバー津波が押し寄せてきた時に再び日本企業が活躍出来し、貢献出来ると思います。

 一つ心配なのはここ四半世紀の海外市場への一種の沈黙を経て、日本企業が内向きになっている事です。海外の言語に変換して売り込まなくても、そこそこ大きな日本の国内市場で満足してしまっている。海外の最先端企業を日本に紹介していくのもHIMSSの一つの使命ですが、日本の緻密な製品などで「どこの国の誰もが持つ権利のある、潜在的な健康・医療的恩恵を十全に実現させる」ことに寄与できれば幸いです。

HIMSS
HIMSSのIT医療セミナーの様子

世界的に活動を拡大させるHIMSS

―― 日本での計画はある程度理解出来ました。世界レベルでHIMSSは何を目指していますか?

戸田 世界レベルで言いますと、7万8千人の個人会員がいます。また、2万人のHealth 2.0の個人会員がいて、7万5千人のイベント参加者がいます。さらに、2万人のボランティアと650の法人会員と60万人のオンライン学習者、そして45万3千人のSNSのフォロワーと10万人のヴァーチャル学習者がいます。加えて、470の非営利団体と475の協力法人が存在するなど大きな動きとなっています。

 これを日本で展開するとなると、ここには英語という言葉の壁がありますが、それはさて置き、われわれHIMSSは全世界的には5つの柱というものを考えています。

 まず、①メンバーシップの価値:HIMSS会員に提供される価値の強化。世界中のベスト・プラクティスを、より広くメンバーと共有します。②第一人者の自覚:ヘルステック分野の第一人者としての自覚を持ち、同分野を更に前進させて参ります。③成熟したモデルの形成:HIMSS採用モデルの幅と範囲を広げて行きます。EMRAMいわゆる電子医療記録導入モデルを超えた位置までも視野に入れております。④イノベーション:新機軸のイノベーション中心のご提供を通じて、関わりを拡大させて行きます。⑤国際的な展開:健康改革のグローバルな第一人者として国際的に足跡を拡大させていきます。

 まあ、今の段階では、ヒムスというIT医療のNPOがあるのだ、と覚えておいて頂ければ十分です。