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「次の総選挙まで野党をいかにまとめるかが私の結果責任」―安住 淳 (衆議院議員)

安住淳

インタビュー

国会の争点は決して新型コロナウイルスの問題だけではない。総務省の接待や許認可、相変わらずの政治とカネ、五輪、外交……。政治課題はヤマほどあるが、新型コロナ問題とどう比重を取っていくかという難しさがある。その国会を切り盛りしている野党第一党国対委員長で、野党共闘のまとめ役でもあるのが安住淳氏。今後の新型コロナへの対応と任期が10月に迫ってきた衆議院の解散・総選挙を控える中での戦略などを聞いた。(『経済界』2021年7月号より加筆・転載)

安住 淳 ・衆議院議員プロフィール

安住淳
(あずみ・じゅん)1962年生まれ。宮城県出身。85年早稲田大学社会科学部卒業後、日本放送協会(NHK)入社。政治部記者として、総理官邸、自民党、文部省、自治省政治改革などを担当。NHK退社後、96年第41回衆議院総選挙に出馬し初当選。民主党選挙対策委員長、防衛副大臣、財務大臣、政府税制調査会会長などを歴任。19年立憲民主党に入党。国会対策委員長を務める

最初にやるべきことをやらなかった菅内閣

―― 新型コロナ下での国会運営について国対委員長として感じていることは。

安住 国会議員を25年やっていますけど、感染症が全国でまん延する状況での国会などもちろん初めてのこと。たとえコロナ以外の政治テーマがあったとしても、野党がとことん攻めて審議拒否にいたるとか、与党が強行採決にいたるとか、こういう激突型の国会が国民に理解されるはずはないですよね。

そういうどんよりとした、いわば曇り空の下で手探りのまま国会をやっているという空気が1年以上続いています。われわれもやりたい問題はたくさんあります。桜を見る会や総務省問題、アキタフーズからの献金問題など、もっと踏み込んでやりたいことは多くありました。しかし、それをやったときの反動の怖さがある。

一方、与党も外交や社会保障の分野で、争点化しそうな法案は出してこない。お互い手探りの中で、新型コロナ以外で大きな波紋を広げたくないという議員心理も働いています。そういう中でアクセルとブレーキの踏み方はとても難しいです。

―― ただ、新型コロナに隠れて素通りさせてはいけない政治課題もたくさんあった。

安住 国民が不利益を被ることもやはり起きています。難しいとはいえ、攻めるところは攻める姿勢で、総務省問題についてもかなり攻めました。結果的にはトップ、ナンバーツーが退官せざるを得ない状況になっているし、桜を見る会も結果的には秘書が書類送検されて刑事罰にまで及んでいますから一定の成果はあったと思います。

ただ、それでわれわれの支持率が上がるわけでもなく、自民党の支持率が下がるわけでもない。とはいえ、菅内閣を見ているとコロナの対応を少しでも間違うと支持率が一気に20ポイント下がったりする。つまり、国民のみなさんはコロナをうまくさばけるか、その一点を見ていると思うんです。不正があれば追及してもらうのは当然だけど、大事なことは忘れないでくださいよというプレッシャーを感じています。

―― 政権の新型コロナ対策はどこが問題か。

安住 去年9月に安倍前総理が途中退陣して菅内閣になったあの時期にこそ、感染者が激増する冬への準備をしなきゃいけなかった。菅総理が就任してやったのはハンコ廃止、デジタル庁構想、携帯料金値下げ、GoToキャンペーンに東京も加えてどんどんやろうとアクセルを踏んだ。ところが11月から感染者が激増し、ワクチンや病院の整備も後回しになった。内閣スタートの1カ月にやるべきことをやらなかったのがすべてだったと思います。

―― 当時の報道は政権交代一色だったが、野党はどんな動きをしていたか。

安住 欧米諸国は冬場を早く迎えて感染者が増えていたから、警鐘を鳴らしていたんです。GoToはいったん止めて、クルーズ船を借りて専門病院を作ったらいいのでは、とか。あの時、政権は感染者が少ないのでタカをくくっていた部分もあったと思う。変異種のへの字もなかった。ハンコ廃止などには国民も好感を持っていましたが、感染者が増え出して、GoToやめたのも12月28日と遅かった。1月の緊急事態宣言も知事たちに言われなきゃやらなかった。新型コロナへの対応が常に後手に回っているという印象が拭えないです。

―― 安住さんたちが政権を担っていた当時の東日本大震災のときには与野党協力して当たったが。

安住 感染症法や特措法に関して言えば、与野党で合意してスピード成立させられたと思います。ただ、それを一番嫌がっていたのは霞が関です。霞が関は自分たちがやりたいことをやって、それを守ってくれる自民党は良いけど、自分たちの頭ごなしに政治が決めることには猛烈に抵抗します。だから霞が関がやろうとしていた、特措法の中の刑事罰を取り下げるのも大変だったんです。

自民党の長期政権で何が一番ダメかというと、官僚が情報を独占し、官邸の権力者だけを見て政策決定をしていることです。しかし、今回の感染症は、厚労省の言う通りやっていたらワクチンはなかなかこないし、地方の知事さんにも突き上げられる始末。菅内閣は政策決定について自信をなくしているんじゃないでしょうか。

―― 今後、国会では新型コロナについてはどんな追及をするか。

安住 コロナを国会論戦のど真ん中において、特にワクチン接種やPCR検査の実施がなぜこんなに遅いのか、民間と公立病院の連携がなぜうまくいかないのか、といった論戦を挑んで行くことになります。

安住淳
「官僚が情報を独占し、官邸の権力者だけを見て政策決定をしているのが大きな問題です」

解散風を早めの時期に吹かせた意図とは

―― 安住さんは3月に早くも不信任案提出の可能性に触れた。普通なら国会終盤に出るような話なのに、なぜそんな早い時期に?

安住 選挙を控えた年は、身内から造反がでるのが一番怖いんです。例えば野党グループを形成している一角が崩れたりすると、選挙には大きなダメージになる。任期満了の年の通常国会で不信任案を出すのは当たり前ですが、それを終盤ではなく予算通過のめどが立った時に言ったのは、共産党と国民民主党を背負っているからです。次の総選挙まで野党をいかにまとめて行けるかが、私の結果責任だと思っています。

―― 総選挙が近いという空気をつくって野党の結束を図ったと。

安住 解散風を吹かせたのは、自民党の中をいろいろ探るためでもありました。分かったのは、自民党にとって菅総理で選挙をやるかどうかは、本音では非常に悩ましい話になっているということです。4月の終わりから単独のポスターは選挙区に貼れず、2連ポスターしか貼れなくなります。人気のある総理だったら、みんなツーショットを撮りたがる。菅総理とのポスター撮りをどれくらいの自民党議員が望んでいるのかが分かると思い、ポスターを撮る直前に不信任案のことを言ったんです。

すると、やはり半分くらいしか菅総理とのポスターは貼っておらず、代わりに河野太郎大臣などでした。ということは、菅総理のまま選挙をやれば内部は混乱する可能性がある。二階俊博幹事長が「もし野党が不信任案を出したら解散するぞ」と言い切りましたが、それはわれわれに言っているのではなく、自民党内に言っているんです。党内へ「総選挙がいつあるか分からないぞ」と警告を鳴らして引き締めるためです。自民党内には補選の結果なども含めた危機感があります。

―― 要するに、不信任発言は総選挙につながる駆け引きだった。

安住 やはり一番大事なのは選挙に勝つことです。今は野党の支持率が低いと言われますけど、簡単な話、国政に勝ってしまえばいいんです。支持率40%の自民党に対して立憲の支持率が5%だったとしても、野党が共闘したら勝てるんです。補選もそれを実証しました。共産党などもそうですが、国民や民間労組も含めて束ねて、自民党を倒そうという運動をちゃんとやって総選挙をやりきれるか。野党にとって大事なのは、100の理屈より1つの結果なんです。

―― 前々回の参院選では、安住さんは地元の宮城で野党4党の統一候補を実現して共闘の流れを作った。

安住 選挙はどこかで突破口を開くことが重要です。宮城も連合、社民党を全部固めてパッケージを作っておいて、でも最後は共産党の8万票がないと勝ちきれない。だから共産党の志位和夫委員長が宮城に入った時を狙って交渉しました。政治は段取り7分、仕事3分。段取りができない人は国も回せません。

―― その総選挙では、野党は連携して何を訴えるか。

安住 今度の選挙は菅総理や河野太郎大臣が新型コロナ、特に変異株の制圧ができるかどうかにかかっています。国民のみなさんがわれわれ立憲や野党に聞きたいのは、今の政権と違う具体的な提案ですよね。今になっても医療関係者の接種が進んでいません。もっとワクチン接種を医療従事者に集中させて体制の整備をすべきです。そうしないと今年10月になっても、まだ65歳以下の層はワクチンが打てない可能性が高い。

それからPCR検査を、駅でも空港でもどこでも誰でも自由に受けられるように予算を使います。今、検査数は東京で1万程度ですが、これを10万も20万もできるような公約を作りたいと思います。

ワクチンを突破口に世界の枠組みが変わる

―― 経済政策についてはどうか。

安住 新型コロナはいずれ収束して行きます。その後の行動変容に、日本のような重厚長大な産業構造がシフトチェンジできるかどうかが問題です。

例えばカーボンニュートラルもその着眼点自体は良いけれど、劇的に推進するためにもっとやらなきゃいけないことがたくさんあります。ガソリン自動車を否定しないといけないし、再生可能エネルギーをもっと普及させるなら、発送電の分離を徹底的にやって、誰でもいつでも自由に参入できるようにしなければなりません。まずは霞が関の規制を外し、自由に参入できる経済環境をつくることが大事だと思います。

―― 今後、政治は新型コロナとどう向き合っていくべきか。

安住 コロナは人類の試練だから、国内政治だけでは片付かない。こういうときこそ国際協調路線を導けるかどうかが重要ではないでしょうか。今の世界における富の偏在、力の差がそのままワクチン接種のスピードに出てしまっている。世界の貧しい人たちにも行き渡るようにできるか。こういうときにこそ、米中も日本も、本当に富を持っている国や人たちが何をやるべきか。金持ちの国はもっとお金を出して、ファイザーはワクチンを貧しい国や人たちに配れと言い切れる人が、次の世界のリーダーだと感じますね。

―― 世界の枠組みからリーダーに至るまで、政治の理念を根底から大きく変えるきっかけになる。

安住 ビル・ゲイツも言っていますが、感染症を征服するには富の偏在を埋めることが必要です。どの国がワクチンを取って、それを世界で共有しようという動きが出てくるか。資本主義であろうと共産主義であろうと、そういう国のリーダーが世界秩序を作る先人になると思います。

新型コロナは危機ですが、政治家にとっては先駆者になる大きなチャンスでもある。今の世界の貧富の差などの問題を変えるには、ワクチンが突破口になるのではないかと思っています。大きな話でピンとくるかどうか分かりませんが、そういう話を枝野幸男・立憲民主党代表は訴えてもいいんじゃないでしょうか。

安住氏が立憲に入党し国対委員長に就いた2019年の秋、自民党幹部は私にこう安住評を語った。「やりにくい。押したり引いたりしながら裏をかかれる」。したたかに現実主義を貫く姿勢は野党結集のためには不可欠だ。幹事長や選対委員長ではないが、国会運営を通じて国民民主、共産、社民と選挙につながって行くようなパイプを構築してきた。民主党政権時代に安住氏と一時対立していた小沢一郎氏は「彼は大したもの。現実の政治を知って動いている」と話している。解散・総選挙に向けて安住氏の一挙一動は注目だ。(鈴木哲夫)