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【企画特集】日本全国・世界を市場に活躍する山陽の有力企業

瀬戸内海沿岸を中心に鉄鋼、石油化学、造船、自動車などの大規模集積が進み、戦後の日本経済を支えてきた山陽地区。オイルショックやリーマンショック、円高などでたびたび打撃を受け、大きく落ち込んだ時期もあったが自動車産業が牽引する形で大きく成長してきた。今回は山陽地区を地盤に独自の技術で挑戦し続けている企業にスポットを当てた。

個人消費は横ばいながら自動車関連は復調へ

中国5県の日銀5支店が5月11日に発表した5月の金融経済月報によると、広島と岡山は前月から景気判断を引き下げた。

新型コロナウイルスの感染が再拡大しており飲食、宿泊、小売業などのサービス業が大苦戦を強いられていることが主な要因だ。両県は5月16日から6月20日まで緊急事態宣言が発出されており、外出、移動、催事・施設利用の自粛、警戒ムードが強く、高齢者の利用が多い百貨店では来客数が大幅に減少。スーパーやドラッグストアなどは巣ごもり需要で比較的好調を維持しているものの、昨年のような買い溜めなどの行動はなくなった。

それでも家電や乗用車販売は横ばいを堅持しているが、宿泊業の落ち込みは深刻だ。市内のホテルや旅館など、観光産業が主産業である地域への打撃はより厳しいものがある。

中国財務局が4月下旬に発表した管内経済情勢報告では、1月との比較で「厳しい状況にあるものの、持ち直しの動きが続いている」と指摘する。

ここで注目されるのは「生産活動」が持ち直していることだ。化学、鉄鋼、業務用機械は、企業の設備投資が弱含みの中で、自動車向けを中心に需要が持ち直し、電機機械ではスマートフォンや車載向け機器が好調で関係する工場の操業率が上がっている。

生産活動の好況感が示す指数である鉱工業生産指数を見ると、2020年の中国地方の指数は前年を10・4%下回る91・2%となったが、21年2月の同指数は97・1%までに回復、コロナ感染症拡大前の水準まであと一息だ。牽引したのは世界的に需要が回復してきた輸送機械(自動車・部品)部門だ。

全体的に見れば個人消費は業態別に明暗が分かれ、総じて苦戦を強いられているものの、自動車を中心とした製造業がリードする形で明るい兆しが見えている。

マツダの営業利益が急回復ゼロ予想から一転黒字へ

中国地区を代表するマツダ(本社・広島県)。昨年3月から数カ月、一部の工場で操業停止を含む生産調整を強いられた上に、世界的な半導体不足という悪条件も重なり、減産を余儀なくされた。

ところが現在、復調は確実なものになりつつある。5月14日、同社は21年3月期連結決算を発表、本業の稼ぎを示す営業収益は従来のゼロ予想から一転、88億円の黒字となった。

米・豪向けの販売が好調だったことや固定費削減、それに円安も追い風になった。ただ残念ながら最終損益は316億円の赤字に沈んだ。21年度については世界販売台数を全地域で増やし、営業利益は650億円を計画する。この目標を達成すればコロナ禍以前の水準に戻る。

広島で生まれ育ったマツダは、戦後の焼け野原から奇跡的な復興を遂げた地域の特性が色濃く反映された、地元を代表する象徴的な存在だ。

同社の幹部は次のように言う。

「マツダには誰もが無理だと思うこと、難しいと思うことに敢えて挑む不屈のチャレンジ精神があります。どんな困難や大きな壁に当たっても決して諦めず夢を追い掛ける。それが広島の、そしてマツダの精神です。新しい技術は挑戦からしか生まれません。マツダはその信念をもって車をつくり続けています」

さらには「マツダのチャレンジ精神はチームワークによって発揮されます。組織が一丸となって創意工夫することで困難を乗り越え、お客さまのニーズに沿った車づくりを進めています。この『One Mazda』ともいうべき文化醸成にはマツダ本社のユニークな敷地条件も貢献しています」と語る。

敷地条件とは他の多くの自動車メーカーが、開発、生産、営業の各部門が地域に分かれている中、同社はほとんどが広島県内に集約されているので部門の垣根を超えたコミュニケーションが活発になるメリットがある。

マツダが1月から販売開始したEV車「MX-30 EV MODEL」

急拡大したテレワークやDXがもたらす地方の可能性

世界中に販路が広がるマツダだが、事業を通じた地域社会への貢献も忘れていない。具体的には自動車産学官連携推進会議を通じて中国経済産業局や広島県、広島市などの官公庁、公益財団法人ひろしま産業振興機構、さらには広島大学とも連携。自動車産業の地場企業への貢献、それに地域活性化、地域創生活動などに取り組んでいる。

同社は15年に「2030年産学官連携ビジョン」を策定しているが、今後はその実現に向け、地場企業支援の新しい枠組みの創出や次世代の自動車社会の検討、さらには社会への啓発活動などを積極的に進めていく。

「地域経済の発展に貢献できるよう『人と共に創る』マツダの独自性を大切に、地域の皆さまと共に歩んでいきます」(マツダ幹部)

コロナ禍の収束が見えない中、企業経営は難しさを増しているが、逆手にとって業績を伸ばしている企業も少なくない。既存事業の延長線上で新規事業を立ち上げたり、デジタル化を加速して業務効率の改善を進め、営業改革でDXに舵を切り新たなマーケットに挑戦する経営者もいる。

またテレワークの急拡大は、通信環境の発展と相まって仕事をする場が限定されないという新しい働き方の形を生み出した。地理的なハンディキャップが少なくなっていけば、住環境に恵まれている地方に人が集まるかもしれない。山陽地区には伝統ある製造業が集積しており、最新技術との融合で大きく発展する可能性を秘めている。

山陽の有力企業