経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

DXをバズワードにしないために抑えておきたい「DXスパイラル」とは?

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連載 窪田望の「DX経営戦略論」(第4回)

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バズワードの構造

ウェブの世界は革新的な言葉に溢れている。しかし、その革新的な言葉たちの中には、数年後には消えてなくなってしまうものもある。Web2.0を今唱える人はどのくらいいるだろうか。恐らくいないだろう。流行っては消えていく言葉も多い。数年後には、このDXもバズワードの1種だったと評価されてしまう可能性もあるだろう。

そもそもDXという言葉の流行は海外カンファレンスでは、3年前くらいからよく目にするようになっていた。日本の「最新」は海外の2、3年遅れでやってくるという話はよく聞くが、その意味で、DXは今にしてようやく上陸したということも出来るかもしれない。

このDXという言葉は、使っていると、なんとなく気持ちよくなる。その意味では、数年後にはバズワードとしてまとめられている可能性は十分ある。こんなことに思いを馳せると、ドットインストール(https://dotinstall.com/)の田口元氏が以前、Web2.0全盛時代にその定義を聞かれたときに、こんな風に解説していたのを思い出す。

田口氏は「イケメン、みたいなもの」と表現していた。なんとなくすげえ、そういう感覚でしかない、という皮肉が込もった表現だったが、その鋭さは2021年の現在にも突き刺さる。

DXで本質的に大切にしないといけないもの

では、結局、何を大切にしないといけないのか。前回は、Tの時代について扱ったが、では深ぼるべき「縦」は何にするべきなのか。これは、実は少し逆説的なようだが、顧客の痛みである。前回は、顧客からの要望を全て聞くと、サービスは鈍るという話をした。そのために、今回は顧客の痛みを軸にせよ、という話は意外に映るかもしれない。

しかし、尖るためには、「顧客の痛みとは何か」についてキチンと考える必要がある。このことを説明するには、現在顧客が置かれている環境について解説する必要がある。

顧客は、現在、情報過多な社会に生きている。情報過多な時代、あらゆるサービスやモノは陳腐化しやすくコモディティー化している。似たような商品がいっぱいあると、その商品を高い金額で買う理由はなくなる。そのため、企業は価格競争に陥り、消費者は安くいいものが手に入るのが当たり前になる。

ビタミン剤ではなく痛み止め

では、そんな時代にどのようなサービスが求められているのか。消費者は、ビタミン剤ではなく、痛み止めを求めている。あったらいいな、という程度の欲望喚起では、足りない。ないと困る、とか、ないと死ぬ、みたいな存在になる必要がある。多くのDX戦略はここを見誤ってしまう。

AIの技術は日進月歩であり、常に新しいものが生まれている。そのため、そういったものを取り入れたくなる。しかし、新しいものを顧客は買うわけではない。あくまでも痛みを解消してくれるものにお金を払うのだ。

そのサービスはビタミン剤になっていないか、は、改めて注意する必要があるだろう。

有効なDX戦略とはなにか。

例えば、AIの使い方もここに注意することで大きく変わるだろう。痛み止めのサービスになっていれば、そのサービスのコアとしてのAIは学習データを与えれば与えるほど、汎化性能を高めてくれるわけなので、継続的な差別化が実現出来る。データを集めるコストは一定だとすると、ユーザーに対する価値提供は、指数関数的に伸びるわけなので、強力な参入障壁を築けるようになる。

一方でダメなDX戦略は極端にプロダクトアウトだ。なんか凄そう、というものをくっつけたものは大抵の場合、単なる二番煎じで何もすごくはなかったりする。また、時間が立てば立つほど強くなる構造を持っていなかったり、そもそも顧客理解の解像度が低かったりする。

最低のDXスパイラル

そうすると、いないかもしれない顧客に対して、ブレブレなおもてなしをすることになる。デジタルは基本的にコピーが得意なので、そのおもてなしを伸長させることになる。この結果、何が起きるか。より多くの人に、ダメなおもてなしを広げ、深めていくことになる。ダメなおもてなしを深めても、よりダメなおもてなしになるだけだ。

DXは渦のような特徴がある。やればやるほど、どんどん悪くなるか、どんどんよくなるか。そのどちらか一方であると考えておいた方が良い。どんどんよくなることを選びたければ、DXスパイラルを意識し、「最初の設計」に命を注ぐことをお勧めする。

つまり、DXのセンターピンには顧客理解、という要素が欠かせない。顧客理解をした上で、ユーザーの体験をどのように設計するか。そこに気を配り、考えていく必要があるだろう。

筆者プロフィール:

(くぼた・のぞむ)株式会社Creator’s NEXT、CEO & Founder。米国NY州生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。15歳の時に初めてプログラミング開発を行い、ユーザージェネレーテッドメディアを構築。スペイン・香港・シンガポール・ルクセンブルクでデジタルマーケティングについての登壇、ハッカソン優勝等実績多数。グッドデザイン賞受賞、KVeCS 2018 Grand Finaleで優勝しニューヨーク招聘、IE-KMD MEDIATECH VENTURE DAY TOKYOで優勝しスペイン招聘される。2019年、2020年には3万7000名の中から日本一のウェブ解析士(Best of Best)として2年連続で選出。東京大学工学系研究科技術経営戦略学専攻グローバル消費インテリジェンス寄附講座/松尾研究室(GCI 2019 Winter)を修了。マサチューセッツ工科大学の「MIT Sloan & MIT CSAIL Artificial Intelligence: Implications for Business Strategy Program」修了。グローバルマーケティングにおけるスケーラビリティーの実装に強みがあり、マーケティングやA/Bテストに関する教科書の執筆や、のべ3000名以上のマーケティング担当者の前での登壇・育成に携わる。
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