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日本の5G出遅れ巻き返しの切り札はミリ波と自営

5G

米韓中などと比べて周回遅れとも酷評される日本の5Gだが、本当の勝負はこれからだ。米中韓の5Gは、実は未完成であり、最大20Gbpsとも言われる超高速通信の世界はまだ実現していない。5Gの本命である「ミリ波」の活用、そして産業分野での用途開拓を推進する「ローカル5G」が、日本の巻き返しの切り札となる。文=ライター/坂井 航(『経済界』2021年10月号より加筆・転載)

諸外国に出遅れた日本の5G

 日本では2020年3月末にNTTドコモ、au、ソフトバンクが5Gのサービスを開始した。19年4月開始の米・韓から1年遅れ、欧州諸国や中国からは約半年遅れのスタートだった。その差はいまだ大きく、5Gエリアの展開でも契約者数でも、日本はそれら〝先進国〟に後れをとっている。

 例えば韓国は昨年秋に5Gの人口カバー率90%超を達成し、契約数は21年4月に1500万件を突破した。対する日本は、23年3月末に人口カバー率98%(総務省基地局整備計画、楽天を加えた4社合計)を目標とする。5G契約数も、NTTドコモが21年7月に500万をようやく超えたばかりだが、日本の5Gは大丈夫なのだろうか。

本命のミリ波を後回しした先進国と積極展開の日本

 数字だけを見ると「日本の5Gは遅れている」との声にもうなずかざるを得ない。だが、勝敗が決まったとするのは早計だ。5Gの本領が発揮される高い周波数帯である「ミリ波」の活用で、日本が挽回する余地は残されている。

 5Gでは、4Gでも使われてきた低帯域、中帯域に加え、ミリ波の高帯域の電波を使う。それぞれ特性が異なり、低い周帯域ほど遠くまで届きやすく、遮蔽物に妨げられにくい。テレビCMなどで〝プラチナバンド〟と宣伝されていた帯域は、低帯域に含まれる。

 他方、高帯域のミリ波の電波は直進性が強く遮蔽物に弱い。遠くへ届きにくいためこれまで使われてこなかったが、その分、帯域幅を広く使えるという利点がある。道路に例えると、プラチナバンドは狭い一般道路であり、ミリ波は車線の多い高速道路。大型車も含めて大量の車両(=データ)を一気に通せる。最大20Gbpsとも言われる5Gの超高速通信は、このミリ波を使いこなすことで初めて可能になる。

 だが、5Gを先行導入した国はいずれも中帯域をメインに5Gエリアを展開しており、扱い難いミリ波は後回しにしてきた。これと異なる方針を貫くのが日本だ。

 中帯域と合わせて当初からミリ波を積極展開しており、全キャリアがミリ波による商用5Gを導入した最初の国となった。

 ミリ波の弱点を克服するための技術開発も進めている。直進性の強い高帯域を有効活用するには、多数の小型基地局を設置して死角を無くす、電波を反射させてビルの狭間にも届けるといった方策だ。NTTドコモはガラスメーカーのAGCと共同でビルの窓ガラスから電波を放出するガラスアンテナを開発。また、電波の反射板や中継器を駆使してミリ波活用で先行しようとしている。

 ミリ波の活用にめどがつけば、一般ユーザー向けに超高速通信サービスが展開できるうえ、製造業や医療などの産業分野での5G応用にも弾みがつく。製造現場や診療所で撮影した高精細映像を5Gで伝送して遠隔作業支援や遠隔医療に活用する、映像をAIに分析させるなどの応用法が検討されている。また、5Gのもう1つの特徴である低遅延通信を生かした機械の遠隔制御・操縦などのアプリケーション開発も本格化する。

逆襲の芽となるローカル5G

 この産業応用の観点で、日本にはもう1つ逆襲の芽がある。「ローカル5G」だ。通信キャリア以外の一般企業・自治体等が自営型の5Gシステムを構築・運用できる制度である。総務省はこれを5G推進の起爆剤とするべく、世界に先駆けて「ローカル5G免許制度」の整備を進めた。2019年末に試験的な制度を開始。20年12月から、業界関係者が驚くほどに潤沢な周波数帯域を配分し、ローカル5Gを本格スタートさせた。

 これには、携帯電話事業を持たないNTT東西やケーブルテレビ事業者、NECや富士通、DMG森精機等の製造業、東京都ら自治体も参画。既に50超の企業・自治体が免許を取得している。

 4Gまでの携帯電話サービスは一般消費者向けのモバイルインターネットがメインだったが、5Gではその方針を大きく転換し、事業者向けの産業用途での開拓を主眼に据えている。通信キャリアが全国展開する〝公衆5G〟だけでなく、事業者が自ら5Gを展開できる〝自営5G〟制度が整ったことは、5Gが本来目指す方向性を追求するための後押しとなる。

 昨年から全国でローカル5Gの検証・トライアルが行われており、今年から来年には商用導入に移行する企業・自治体も出てくる。

真の勝者は6Gで決まる

 この流れは、5Gの次の規格である6Gの開発競争にも影響する。

 6Gの実用化は30年頃だが、その技術開発は既に始まっている。特に5Gの技術開発と標準化で覇権を争った米中は積極的だ。5G関連特許数などで中国の後塵を拝した米国には、6G競争で先行し、その状況をリセットしたい思惑もある。対中国で米国と協力関係を結ぶ日本にとっても、5Gの出遅れを挽回する好機だ。

 そこで注目されるのが、5Gと6Gの連続性である。携帯電話システムは約10年周期で世代交代するが、1世代の間にも技術は大きく進化する。5Gも完成形にはまだ遠く、現在も技術開発は継続中だ。20年代後半に実用化される「5G evolution(拡張版5G)」の技術は、将来的に6Gのベースとなる。例えば、拡張版5Gではミリ波よりさらに高い90GHz帯までの電波が使われ、6Gでは100GHz帯以上にも広がる見込みだ。

 また、産業用途を開拓するという方向性も5Gから6Gへと受け継がれていく。ドコモの担当者は「移動通信の技術自体は10年単位で代わるが、それを使うサービスは20年単位で代わる。産業向けの活用は5Gで立ち上がり、6Gで高度化、成熟していく」と話す(図表参照)。

 つまり、5Gの本命であるミリ波活用と、ローカル5Gを軸とした産業用途の開拓で成果を上げることは、日本が5Gで巻き返し、さらに6Gで存在感を発揮するための最低条件とも言える。日本の通信業界はこれから、まさに正念場を迎える。