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愛する人の面影を身近に 遺灰からダイヤモンドを作る「Eterneva」

Eterneva Adell Archer CEO

記事作成=hackjpn

大切な存在を失す痛みは、決してなくなるものではない。

故人を追悼するとなると、葬儀の計画や墓石の選定などを行わなければいけないが、現代ではお墓が用意できず、納骨を選ぶ人が増加している。

今回紹介するのは、それぞれの宗教、宗派の考えを尊重しながも、故人を思う気持ちを大切に過去のしきたりにこだわらない「自分だけの供養スタイル」を提供するスタートアップだ。

愛する人の面影を身近に置いておける

Eternevaは、火葬された人やペットの灰や髪の毛からダイヤモンドを製造するD2Cブランドを構築している。

愛する人の髪の毛や遺灰からダイヤモンドを作るという、宝飾品市場と葬儀市場を組み合わせた珍しい事業である。大切な人の一部をジュエリーとして身近に置いておきたいという人々の共感を得ているようだ。

CEO兼共同創業者のAdelle Archer(アデル・アーチャー)氏によると、きっかけは友人の死だった。アーチャー氏の親しい友人が膵臓がんと診断され、47歳の若さでこの世を去ったが、近親者がおらず、火葬された遺灰をアーチャー氏に残していったのだ。

当時、アーチャー氏は人工的なダイヤモンドを開発するスタートアップに取り組んでおり、科学者から遺灰に含まれる炭素からダイヤモンドを作れるというアドバイスをもらった。

亡くした友人は輝きに満ちた人であったため、その人を称えて追悼するためのより良い選択肢として、大切な人の一部を身に着けることができるダイヤモンド製作を開始した。その経験から、企業のストーリーに顧客が共感するD2C型ビジネスが生まれたのである。

Eterneva Adell Archer CEO
CEOのAdell Archer氏(出典:https://eterneva.com/ )

愛する人を称えるための方法

創業以来、Eternevaはこれまでに1000人以上の顧客のために約1500個のダイヤモンドを製作した。無色だけでなく、黒、黄色、青、緑、オレンジなど、あらゆる色に対応している。

ビジネスモデルはこうだ。顧客にスターターキットを送付し、ダイヤモンドの基となる遺灰を送り返してもらう。他の不純物から炭素を抽出し、純度を高めるための黒鉛化作業を行う。専用機械による結晶化の後に品質検査を得た上でサイズや色をカスタマイズする加工作業に入る。

ダイヤモンドは2999ドルから(約33万円)の価格設定で、サイズや色によって値段が上がっていく仕組みだ。制作過程は約7〜9カ月の期間で、ビデオや写真で各段階のプロセスを顧客と共有できるようになっている。

また、今後は宝石デザイナーに大切な人の話をすることで、その人の人生を表す細やかなカスタムデザインができるよう目指している。多くの人々が従来の葬式を望まなくなっている現代でこそ、商品にはカスタム性と意味合いが求められるのであろう。ちなみに、同社の事業の約40%をペットが占めているということだ。

この分野において、多くの事業は人生の終活計画などに取り組んでいるが、Eternevaは顧客の悲しみが癒えるプロセスを支援し、心のあり方を変化させるダイヤモンドを制作することで、人大切な人の死を乗り越えて人々が前進する支援を行うプラットフォーム構築を目指している。

お守りのように身に着ければ、見守ってくれるような気持になるだろうし、故人の存在を側に感じながら、寄り添いあうようにこれからも一緒に歩んでいくとができる。

アーチャー氏は自身の事業を、悲しむ人々に向けての「輝きと癒しをもたらし、愛する人を称える美しい方法」だと話す。また、アーチャー氏はForbesの“30under30”に選ばれた若手起業家である。

大切な人との繋がりを維持するためのユニークな方法

Eternavaは非常に感情的で困難な時間を、他の誰にも真似できないような方法で、人々が人生を歩み続ける手助けをしている。

同社は創業以来3桁成長を継続しており、2020年には収益が2倍以上になったこともあるという。累計売上は約4億5千万円である。

ビジネスの観点から分析すると、Eternevaは宝飾品市場と葬儀市場を組み合わせているため、専門の機械が必要であり、“死”というレアな領域を扱うため、競争優位性は優れていると言えるだろう。また、高齢化により成長可能性が高まるうえ、葬儀のパーソナライゼーションという伝統への挑戦により、若い層を中心に社会への影響を与えられるだろう。

既存の大手企業による参入リスクもあるため、今後は流通をいかに抑えて規模拡大に挑戦していくかがポイントになってくる。

ジュエリーであれば、愛する人といつも一緒にいることができる。大切な故人の面影を身につけながら、故人を思うことが、悲しみの向こうに抱く感謝、そして新たに踏み出す一歩のきっかけになるのではないだろうか。

これからの人生もともに歩んでいく、という思いをのせたジュエリーは、多くの人に輝きと癒しを与えるだろう。