経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

DX推進を阻害する「自分たちの業界は特殊だから病」

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連載 窪田望の「DX経営戦略論」(第5回)

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DXを推進しようという話になるとよく登場する言い訳が自分たちの業界は特殊だからという言葉だ。業界の構造が複雑だったり、商品自体が複雑だったり、多くのステークホルダーが存在していたりする。そんな時に、DXを推進しようとしても、そのゴールを設定することや、具体的な施策を考えることが難しくなったりしてしまうこともあるだろう。しかし、多くの場合、この言葉は言い訳にすぎない。なぜか。

特殊性を他の業界にも通用する言語で語りきれていない

特殊だという言葉は、普遍的なマニュアルを用意できていないこととイコールである。自分たちの活動を、言語化し、マニュアル化することで、価値の再現性は生まれ、組織の安定性は生まれる。

しかし、特殊という言葉には、この努力を放棄しても良さそうな雰囲気がある。特殊だからそんなことはできないのだ、という諦めを非常に賢そうに表現することができる。ただ、これはマネジメントの敗退でしかない。

加速するブラックボックス化

こういうマネジメントの敗退が前提になると、各個人はチームへの貢献ではなく、自分自身のための活動に意味を見出すことになる。組織ではなく個人事業主の集まりのようになり、ノウハウは伝承されず、サイロ化されてしまう。

その結果、生まれるのは組織の中で加速するブラックボックス化だ。この負の遺産も「うちは特殊」と言ってしまえば、軽く片付けることができる。しかし、特殊なままではいけないことは明らかだ。

特殊な業界であればあるほど、DXを早く進めることに意味がある

一般に、特殊な業界であればあるほど、DXを進めることで見返りがある。難しければ難しいほど、同じことを競合も感じているはずだからだ。そのため、コスパが良いのはむしろ特殊な業界なのである。

問題はこれに気づくのが御社だったら良いのだが、競合が感じ行動をし始めた時の話だ。印刷会社の空き稼働に目をつけたラクスルが瞬く間に上場していったように、DXを推進する企業は何も「いつもの競合」だけではない。全く新しい分野からの参入もありうる。

「うちの業界は特殊だから」この言葉を言う社員が多いとしたら、赤信号だ。

では、その赤信号から脱却するために、あなたの会社は今何の未来技術を取り入れているだろうか?多くの企業では、その質問に対して、答えることができないのではないだろうか?それは競合からの攻撃に無防備であることを意味する。

ビジネス環境が劇的に変わる中で、その環境変化に鈍感な企業は死滅する。DXについて、どのような感覚を持ち、対応するのか。その行動力が求められている。

筆者プロフィール:

(くぼた・のぞむ)株式会社Creator’s NEXT、CEO & Founder。米国NY州生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。15歳の時に初めてプログラミング開発を行い、ユーザージェネレーテッドメディアを構築。スペイン・香港・シンガポール・ルクセンブルクでデジタルマーケティングについての登壇、ハッカソン優勝等実績多数。グッドデザイン賞受賞、KVeCS 2018 Grand Finaleで優勝しニューヨーク招聘、IE-KMD MEDIATECH VENTURE DAY TOKYOで優勝しスペイン招聘される。2019年、2020年には3万7000名の中から日本一のウェブ解析士(Best of Best)として2年連続で選出。東京大学工学系研究科技術経営戦略学専攻グローバル消費インテリジェンス寄附講座/松尾研究室(GCI 2019 Winter)を修了。マサチューセッツ工科大学の「MIT Sloan & MIT CSAIL Artificial Intelligence: Implications for Business Strategy Program」修了。グローバルマーケティングにおけるスケーラビリティーの実装に強みがあり、マーケティングやA/Bテストに関する教科書の執筆や、のべ3000名以上のマーケティング担当者の前での登壇・育成に携わる。
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