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「ゴルフのカジュアル化を進めて20年でゴルファーの質が変わってきた」―石坂信也 (ゴルフダイジェスト・オンライン社長)

石坂信也・ゴルフダイジェスト・オンライン社長

ゴルフ場が活況を呈している。一時、コロナ禍により客足が途絶えたが、今では感染リスクの低いレジャーとして、これまでクラブを握らなかった人たちもプレーを楽しみ始めた。その背景には、社用族専用だったゴルフがカジュアル化してきたことがある。このゴルフのカジュアル化に大きな役割を果たしてきたのがゴルフダイジェスト・オンラインだ。しかし石坂信也社長は「カジュアル化は道半ば」という。石坂社長の目指すゴルフビジネスの未来とは――。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(『経済界』2021年11月号より加筆・転載)

石坂信也氏プロフィール

石坂信也・ゴルフダイジェスト・オンライン社長
(いしざか・のぶや)1966年生まれ。成城大学を卒業し三菱商事入社。在籍中にハーバード大学でMBAを取得。2000年5月ゴルフビジネスとITを組み合わせたゴルフ総合サービス企業としてゴルフダイジェスト・オンラインを設立。04年東証マザーズ上場、15年東証1部上場。祖父は第2代経団連会長の石坂泰三氏で、信也氏の名付け親でもある

米国滞在まる4年で現地ビジネスを本格化

―― 石坂さんは今、アメリカ暮らしだそうですね。

石坂 ええ、来週にはアメリカに戻ります(取材日は7月末)。渡米したのは4年前の11月です。ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)をスタートした時から、いずれは海外へ、とは思っていましたが、いくつもの場所で展開することはできない。だったらナンバーワン市場のアメリカで挑戦したいと以前から考えていました。4年間にようやくそれが可能な体力がついてきた。そしてやる以上はきちんとプレーヤーとして参加し、われわれだからこそできる付加価値を提供してインパクトを与える。そのためには自分自身が市場にどっぷりと入ることが必要だと考え、拠点を移しました。

―― 日本と同じようにゴルフポータルサイトを運営するのですか。

石坂 それをやってもアメリカでは後発になりますし、そこからビジネスの基盤をつくっていくには相当な資金力が必要です。

 GDOはゴルフテックというゴルフレッスンを日本全国10カ所以上で展開しています。ゴルフテックはアメリカ生まれで、われわれはそのFCとしてスタートしましたが、徐々にアメリカ本社の株を持つようになり、3年前に筆頭株主になりました。

 アメリカのゴルフテックは、全世界展開ですが、アメリカ国内だけでも直営店、FC合わせて200店ほどあります。1店につき200~300人の固定のお客さまがいますから、全米では既に数万人の、ゴルフにある程度のお金を投じてくれる優良顧客をつかんでいます。今はこのお客さまに対してレッスンやゴルフクラブのカスタムフィッティングを提供し、成長していますが、いずれはこの方々に加え、過去の顧客データベースの30万~40万人の方を対象に、次のサービス、例えばeコマースを提供していきます。

―― ゴルフ用品のeコマースは、既に存在しているのではないですか。

石坂 単なるゴルフ用品の販売ではありません。ゴルフテックには全米に700人ほどのコーチがいます。彼らがキュレーターとして密接な関係にあるお客さまに、この練習器具はいいですよ、といった具合に勧めていく。あるいはゴルフテックのお客さま限定でゴルフイベントを開いたり、ゴルフ旅行を企画する。このように、ゴルフテックの顧客プラットホームに対してサービスを提供していこうと考えています。

 それともうひとつは、リアルをより強化していく。そのためにゴルフ×テクノロジー、スポーツ×テクノロジーを最大限活用していきます。ゴルフスイングの場合、腰と肩の捻転差が重要です。体がどこまで回っているのか。今までなら専用のハーネスを着てスイング、それをカメラで撮影して測定していましたが、先日リリースしたサービスは、ハーネスを着なくてもカメラとソフトウェアで正確に計測することができます。開発までに2年かかりましたが、このようなテクノロジーを活用することで、コーチはお客さまにハイエンドでハイタッチなサービスを提供できると考えています。

石坂信也・ゴルフダイジェスト・オンライン社長

社用族は大きく減少し若者と女性が増加

―― 国内に目を転じると、前12月期決算は、コロナ禍で上期は赤字でしたが、下期以降はゴルフは感染リスクの小さいレジャーという評価が定着、業績も回復しています。

石坂 昨年の6月頃から急回復しています。これは日本だけではなく、アメリカでも同様で、その勢いが今もある程度続いています。

 コロナ禍は、多くの人が時間の使い方や人生における優先順位を考えるきっかけになったのではないでしょうか。そのうえで、ゴルフの魅力が再認識され、支持が集まっているように思います。特に30歳前後、そして女性のプレーヤーが増えています。今の特徴は、コンペや社用族のゴルフ需要は相変わらず低い一方で、プライベートでゴルフを楽しむ人が増えていることです。つまり質的にも大きく変化しています。

―― 一昔前までは、若い人が自腹でゴルフをやるのは金銭的に難しかった。そのため、バブル崩壊後、ゴルフ人口は減り続けてきました。

石坂 今では都心から1時間ちょっとのゴルフ場でも、平日なら昼食付で5千~6千円でプレーできる。そしてこれは、われわれが20年間提唱してきた、ゴルフの多様な楽しみ方が現実のものになってきた証でもあります。

 確かに少し前までのゴルフ場は、伝統的なマナーやルールを重んじるところが多くありました。それはそれでいいのですが、その一方で、もっとカジュアルに楽しめるゴルフ場があってもいい。それをわれわれは積極的に進めてきました。その環境が整ってきたタイミングでコロナ禍が起きた。そこで今までゴルフに関心のなかった人がクラブに触わり、触ってみたらもっとやりたくなる、そういう流れになっているのではないでしょうか。

―― 今年マスターズで松山英樹選手が、全米女子オープンでは笹生優花選手が優勝しました。日本人選手の活躍も追い風になっています。

石坂 日本人選手が世界で活躍するというのはインパクトが大きいですが、だからといってわれわれのようなビジネスに好影響を与えるかというと、そんなに生易しいものではありません。ただ、そういった活躍を見て、自分も将来、松山選手のようになりたいという子どもは増えているでしょうし、子どもが松山選手のようになればいい、と願う親もいるでしょう。その意味でゴルフ人口の裾野の拡大にはつながっています。

固定観念に縛られない自由な発想のゴルフ場

―― 一時はゴルフビジネス冬の時代と言われましたが、今後はさらなる成長が期待できそうですね。

石坂 パンデミック後の社会がどうなるかは今の段階では分かりませんが、ゴルフの楽しさを知った人たちの多くは、今後も継続してプレーしてくれるのではないでしょうか。ゴルフは年齢を重ねても楽しむことができます。80代のプレーヤーも珍しくありません。ですから20代でゴルフを始めたら、40年、50年と続けることができる。マーケティング的に言えばライフタイムバリュー(顧客生涯価値)が極めて高い。ですから、今のゴルフ人気は一過性ではなく、今後も続くと考えています。

 だからといって、ゴルフ産業があぐらをかいていてはいけません。ゴルフ場はもっと努力が必要です。

 先ほど、20年間、ゴルフのカジュアル化を提唱してきたと言いましたが、まだまだ中途半端です。われわれは茅ヶ崎市(神奈川県)で9ホールのゴルフ場(GDO茅ヶ崎ゴルフリンクス=CGL)を県から借りて運営していますが、ここではドレスコードが一切ありません。どんなかっこうでプレーしてもかまいません。ルールやマナーも最低限の常識程度しかありません。それでも、そんな奇抜な格好の人はいませんし、みなさんマナーを守ってくれています。ドレスコードやルール・マナーを定めないとゴルフ場が乱れるという固定観念が間違っていることが証明されました。

 固定観念といえば、9ホール回ったら食事をして、午後から9ホールというのもそのひとつです。日本のゴルフにとっては「常識」ですが、世界でそんなことをやっている国はどこにもありません。昨年、3密を避けるために、18ホールを通しで回る、いわゆるスループレーを取り入れたコースがけっこうありました。ところが秋口以降、感染者が落ち着いたら、多くのゴルフ場は昼食をはさむスタイルに戻しています。でも中にはスループレーを続けているところもあって、そういうところはゴルファーの評価も高くなっています。コロナ禍によってスループレーを知ったゴルファーがその良さに気づいてしまったのです。

 ゴルフ場にとってもメリットは大きい。これまでのやり方だと、18ホールのゴルフ場の年間プレー人数は最大でも4万人ですが、スルーを導入すれば6万人、あるいは8万人も可能です。ところが固定観念にしばられるとそういう発想が出てこない。

 厳しい言い方をすれば、ゴルフ場はサービス業なのにサービス業らしくない。ホテルや旅館、レストランは人に来てもらうためにものすごい経営努力をしています。でもゴルフ場にはまだまだやれることがある。生き残るためには、変わっていくことが不可欠です。われわれはそのお手伝いをしたいと考えています。

GDO茅ケ崎ゴルフリンクス
GDO茅ケ崎ゴルフリンクスではゴルフ以外のイベントを開催する

自らゴルフ場を所有しない理由

―― いっそのこと、GDOがゴルフ場を運営したらどうですが。茅ヶ崎でノウハウも蓄積されたでしょう。

石坂 2000年に創業した時から、絶対にゴルフ場は持たない、と決めています。インターネットでゴルフ場予約のマッチングを始めたのは、これによってゴルフ業界の効率化が進むと考えたからです。もちろん利用者の利便性も向上する。つまりやってきたのはあくまでゴルフ場のお手伝いで、自分たちがそこに入っていくつもりはありません。

 ではなぜCGLを運営しているかというと、ここを実験場にして、成果を発信していく。例えばゴルフ場をゴルフコースとして使わなくても、十分付加価値を生むことができると考えています。昨年はコロナ禍で6年生最後の修学旅行に行けなかった小学校が多くありましたが、感染リスクの少ないゴルフ場でそれに代わる卒業イベントを行いました。ヨガ教室を開いたり、地元の飲食店が困っているならキッチンカーとして出店して、そこで料理を提供してもらう。それをゴルフ場を利用する人だけでなく、地域の人にも食べていただく。

 この7月には茅ヶ崎市と「シティプロモーションに関する連携協定」を締結し、街の魅力向上のお手伝いをしています。ゴルフ場がゴルフ以外のコンテンツとして何ができるか示していく。これを発信し、他のゴルフ場に広げることができれば、ゴルフ場がその地域にとって欠かせないものになる。そうやってゴルフ場の持つポテンシャルを高めていく。それがCGLの役割です。

ゴルフの魅力は潜在能力の高さ

―― GDOはミッションとして「ゴルフで世界をつなぐ」を掲げていますが、地域ともつながるわけですね。

石坂 ゴルフはいろんなもの・ことをつなげることができます。昔の友人たちと集まってゴルフをすればその瞬間、時間を超えてつながることができる。さまざまな価値観を持つ人たちも、ゴルフを通じて理解し合えるかもしれない。

 今のコロナ禍もそうですが、創業してからの20年間で、災害などさまざまな試練に見舞われました。そのたびにゴルフビジネスも影響を受けてきました。そしてこんな大変な時にゴルフの仕事なんかをやっていていいのかという思いを持ったこともあります。東日本大震災の時もそうでした。あの時は本当にゴルフができるような風潮ではなく、われわれのビジネスも止まってしまいました。そんな中、福島に行った時に、地元のゴルフ場や、そこから足を伸ばして東北のゴルフ場に、何かできることはありますか、と1人で聞いて回りました。

 すると、震災から数週間ほどたった頃から、週末になるとプレーをする人がかなりいると言うのです。みなさん平日は一生懸命、復興作業に取り組んでいる。でも四六時中復興だけしかやらなかったら、心が折れてしまう。そこで週末はゴルフ場に集まって、気の合う仲間とプレーし、風呂に入って英気を養う。そして週が明ければまた必死になって復興作業をする。

 この話を聞いたときに、われわれは胸を張っていいんだと心底思いました。ゴルフは生活必需品じゃない。不要不急なことかもしれない。でも人間は、遊びや楽しみがなければ生きていけない。そのお手伝いをわれわれはしている。これは素晴らしい仕事だと思いましたね。

 このように、ゴルフには高いポテンシャルがあるし、いろんなものをつなぐ潜在能力もある。それが僕にとってゴルフの最大の魅力です。