経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

製造業に軸足を置きつつ常識を超えた多角的な経営を―竜製作所

竜製作所社長・石田恭一郎


創業70年を迎える専用機メーカーの老舗、竜製作所。OEM生産や倉庫内自動搬送ロボットの販売等、新たな事業にチャレンジしながら多角的な経営を行う石田恭一郎社長に展望を伺った。

竜製作所社長・石田恭一郎
竜製作所社長 石田恭一郎(いしだ・きょういちろう)

人材と組織力を生かすオーダーメードの仕事

 2020年6月、次世代の倉庫自動化ソリューションを提供するシリコンバレーのスタートアップ企業「インビアロボティクス」と、日本およびアジアでの製造販売契約を結んだ竜製作所。自動車産業に欠かせない搬送機、組付機、検査機などの機械を製作し、業界を支えてきた専用機メーカーの老舗が、ここ10年間で航空機、住宅機器メーカー、半導体といった業界へ進出し、さらにはシリコンバレーの企業への投資といった新たな展開を見せている。

 「専用機メーカーに重要なのは人」と話すのは、オーダーメードビジネスへのセンスと先駆的な発想で会社を率いる社長の石田恭一郎氏。既存事業の顧客の幅を広げたり、シリコンバレーの企業へ投資をしたりと、会社にイノベーションを起こし続けている人物だ。

 「オーダーメードは何もないところから形にするクリエーティブな仕事」だからこそ「組織を構成する人がカギ」だと言う。それは会社の目指す姿や方向性と、自分の役割を理解して主体的に行動する「本質を見抜く力」を持った人材のことを指す。一人一人が立場を考えてチームビルドすることで、組織のスキルを十二分に発揮できるからだ。石田氏が、人材を大切に考えていることの表れだろう。

 「10億円以下の会社が大半を占める業界にあって、売り上げ76億円を達成できるのは、優秀な人材が組織のために行動している証明」と言い切る。しかしながら人材育成は、先輩から後輩への引き継ぎや社員教育などで日々培われるもので、目に見えづらく、すぐに結果の出せない地道な作業だとも話す。だからこそ、社員の成長を応援しているという。

 自動車関連の専用機製造をベースに、新しいドメイン(領域)を増やしている竜製作所にとって、製造業のメッカである愛知県を拠点にしていることも利点の一つ。取引先には日本屈指の大手メーカーなど、設備投資に予算をかける優良企業が名を連ねる。半面、高度な依頼が多く、その要望に応えるためにも、技術力のレベルの維持に余念がない。

足し算から掛け算へ新たな価値観を発見

 「積み重ねていくと、そこに到達する」という受け身ではなく、「ここに到達したい」という積極的な目標設定をできる経営者でなければならないと話す石田氏は、「1千億円の売り上げ達成」という目標を掲げている。

 「商売は客の規模以上に大きくなることはない」との考えから、オーダーメードビジネス以外の道を模索し、大手企業のOEM(相手先ブランド名製造)という発想に至った。それも既存だけでなく、これから世の中に創出されるものを見据え、7年ほど前からシリコンバレーを訪れるようになった。

 当時、出合った電動車いす関連の会社にOEMを申し出たところ、「出資してくれている他社に任せる」と断られたという。この「出資+製造」の形は、目からウロコであり、納得できる現実でもあった。現在、製造業の3社のスタートアップ企業に投資しており、「彼らが日本やアジアに展開する時にパートナーとして協力したい」と、石田氏はその真意を語った。

 「工場を造るごとに売り上げが上がるというのは足し算の考え方で、物理的なスピードアップでしかない」とする一方、「掛け算の考え方とは、違う価値観を見つけるということ」と話す。社会のイノベーションに取り組むスタートアップ企業と関わることで、違う価値観を発見できるというのだ。

 「人手不足、自動化の課題は製造業だけに限らない。倉庫業は? 農業は?」と、掛け算で考えることで、倉庫業をターゲットにした設備づくりへの挑戦が始まった。モバイルロボットとAI(人工知能)を兼ね揃えたソフトウエアを使用して、倉庫内物流システムを提案するインビアロボティクスに資本参加し、昨年から受注を開始。名古屋市緑区にある「AIロボティクス ショールーム」では、ロボットが実際に稼働する様子の見学も可能だ。

 24時間の稼働や、在庫管理の効率化へのニーズは高く、Eコマースビジネスに対応する運送、アパレル、製薬、食品などの企業からの問い合わせも相次いでいる。入庫からラッピングや発送までフルセットで自動化できることが理想だが、商品の自動搬送とリフトアップをベースに、顧客の要望に合わせたオプションを付けるなどで対応する。

 就職希望の学生に「どんな会社ですか?」と尋ねられると「毎日が学園祭」と答えているという石田氏。会話の端々に茶目っ気やジョークを織り交ぜて周囲の心を解きほぐすのも「人が大事」という信念を体現しているようだ。

 「問題が起こってもチームでワイワイ解決すればいい。製造業でシリコンバレーの企業に関われることはワクワクしかないでしょう。だから学園祭」

 人材と技術力を武器に、これからも新たな価値観を見いだす事業への挑戦が続く。

会社概要
設立 1953年8月
資本金 4,000万円
売上高 76億円
所在地 愛知県名古屋市南区
従業員数 189人
事業内容 自動組付機械・検査装置設計・製作、治工具・板金加工・機械加工、安全カバー設計施工、電気制御関係配線業務(制御盤)、航空機部品製作、OEM生産事業、AIロボティクスなど
https://www.ryuuss.com

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