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「江別 蔦屋書店」を核に持続可能な街づくりを展開―パッシブホーム

パッシブホーム社長CEO・川多弘也


パッシブホーム社長CEO・ 
川多弘也
パッシブホーム社長CEO アイビーデザイン(江別 蔦屋書店運営)代表 SPT.E.MAKIBA(開発会社)代表 川多弘也 (かわた・ひろや)

 省エネルギーで快適な寒冷地住宅システムの開発と普及に取り組んできたパッシブホームは、2016年から北海道江別市で「江別 蔦屋書店」を軸とした総合開発プロジェクトを進めている。このノウハウを生かした街づくりを全国、さらには海外への展開も目指している。

人口12万人の都市で年間150万人を集客

 2018年11月にオープンした江別 蔦屋書店は「食」「知」「暮らし」の3棟からなる、従来の蔦屋書店のブック&カフェ業態からさらに体験型消費を全面に打ち出した新業態店だ。蔦屋書店初のフランチャイジーであり、パッシブホームと北海道TSUTAYAが共同出資したアイビーデザインが店舗運営を行っている。

 札幌市のベッドタウンで人口約12万人の江別市、しかも繁華街とは離れた場所にオープンすることについて「こんなところにつくって誰が来るんだ、と言われることもありました」とパッシブホーム社長CEOの川多弘也氏は笑う。しかし、同氏には勝算があった。江別は4つの大学が所在し、本に対する潜在的ニーズがあるものの書店が少ない。加えて、子育て世代の人口も増えている。

江別 蔦屋書店
開放感あふれる「江別 蔦屋書店」店内

 「子どもから祖父母世代まで家族で過ごせるとともに、店での過ごし方やライフスタイルまでを企画提案するカルチャーリゾート文化の発信地が求められていました。『世界一の企画会社』をビジョンに掲げるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と組んだことで、多様なイベントを企画・開催するノウハウも得られ、いつでも新たな発見があるスポットになりました」

 オープン当初は北海道のインバウンド需要が312万人と高まっていたが、それを見込まず地元客のみをターゲットとした。これが奏功し、現在では年間来店者数は150万人、土日は平均1万人を超え、20年11月の2周年イベントでは3日間で5万人を集めるまでとなった。テナントのカフェの売り上げも北海道内でトップクラスであり、集客に成功しているという評判が外部企業からのさらなるイベント企画の持ち込みを呼ぶという良い循環も生まれている。

 「全国約1700の市町村の中で、14歳以下の転入率は第12位(出所:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告2020年結果」)と全国でもトップクラス。そうした中、子どもたちが大人になるまで、この街に住み続けてくれるのは素晴らしいこと。この若返りを図れるのが江別 蔦屋書店の魅力。これこそが持続可能な街づくりであり、単なる商業施設ではそうは行きません。『モノ』を売るのではなく、『コト』を売ることをコンセプトとする江別 蔦屋書店やCCCを尊敬しています」

 また、同社はヒートポンプ暖房を中心に、住宅のエネルギーコストを3分の1から5分の1に圧縮するパッシブ工法を開発し、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及に取り組んでいる。江別 蔦屋書店もまた、この技術を応用して設計。エネルギーコスト約7割削減を達成したZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)である。自然光と熱を取り入れ空気を循環させるために気積を大きく設計した結果、換気性に優れコロナ禍の営業にも役立っている。

江別を先行モデルとして全国展開を目指す

 江別 蔦屋書店は、店舗を中心にオフィスや住宅地などの総合的な開発を進めていくまちづくりプロジェクトの核でもある。21年からは第2期開発として住宅エリアの開発に着手。もちろん、住宅にはパッシブ工法を採用する。

 「携帯のアプリ一つで室温・湿度から家電の稼働までコントロールできたり、住環境維持にAI技術を取り入れたりしながらさらなる省エネルギーを実現する住宅を試験的に開発し、住宅メーカーに販売していけたらと思います」
 さらに第3期として、新たな商業施設も企画している。大学のサテライトキャンパスや予防医療に取り組むクリニックを中心とした医療機関も誘致し、先進的なヘルスケアの機能を持たせた街にしていく予定だ。

 しかし、こうした地方創生への取り組みに対する地元金融機関の対応は遅く、川多氏は地方銀行としての存在意義に疑問を呈している。

 「江別 蔦屋書店のオープン時も金融機関からの融資を見込んでいたが融資金額やスピード感でトラブルが発生し、支出が膨らみました。今後は自分たちで、ある程度は資金調達の目処が付けられるような仕組みを構築していきます」

 今後は、江別 蔦屋書店をモデルとしたフランチャイジー店舗展開を全国に、そして世界を目指して進めていく計画だ。実際に国内の自治体から店舗誘致や再開発も含めたオファーが届いており、海外からも視察の申し込みがあるという。

 「地域によってふさわしい店舗の形は異なるので、誘致された地域に応じたコンサルティングも行っていきたいですね。住宅は何十年と住むものですから、店舗をつくって当座盛り上がればよし、では無責任です。地域の商工会などとも協力し、住みやすく良い街をつくるお手伝いをしたいと考えています」

会社概要
設立 2011年10月
資本金 4,040万円
売上高 15億円(グループ合計)
所在地 北海道札幌市北区
従業員数 80人(グループ合計)
事業内容 注文住宅、分譲住宅、マンション、賃貸住宅等の企画・設計・施工・販売・リフォーム、江別 蔦屋書店の運営
http://www.passive-home.jp/

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