経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

ウルトラマンを海外展開へ―ブランド価値を高める異業種協業

シン・ウルトラマン

2021年に55周年を迎え、今なお新作が生み出されるウルトラマン。そんな世界的IPを有する円谷プロダクションは、ハリウッドをはじめ世界中の企業から声が掛かるなか、日本企業との協業による「作品」「商品」「イベント」のシナジーでブランド価値を高める世界進出を模索する。聞き手=武井保之 Photo=山内信也(『経済界』2022年1月号より加筆・転載)

塚越隆行・円谷プロダクション会長兼CEOプロフィール

塚越隆行・円谷プロダクション会長
(つかごし・たかゆき)1962年生まれ。86年朝日広告社入社。91年6月ディズニー・ホーム・ビデオ・ジャパン入社。2000年4月ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント(現ウォルト・ディズニー・ジャパン)日本代表に就任。10年3月、ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン シニア・ヴァイス・プレジデント兼ゼネラル・マネージャー就任。17年8月に円谷プロダクション社長、19年4月に同社会長兼CEOに就任。徳間記念アニメーション文化財団理事、DEGジャパン会長、MPA/JIMCA:APAC委員会委員長、日本映像ソフト協会理事、ジャパン・コンテンツ・グループ副会長などを歴任。

ウルトラマンだけでない全世代向けブランドを確立

ウルトラマン生みの親、円谷英二氏の言葉

―― 1963年に創業。特撮技術で名を馳せる映像プロダクションの老舗であり、ウルトラマンなど世界的知名度を誇るコンテンツホルダーとしても注目される貴社の現在について教えてください。

塚越 私たちが大切にしている円谷プロダクション創業者・円谷英二の言葉があります。

 「観ている人に驚きを与え、その驚きを糧に平和や愛を願う優しさを、そして未来に向かう希望を育んでもらいたい」

 この言葉にはいろいろな思いが込められています。そのひとつは観ている人に驚きを与える作品を作ろうという思いです。それはまさしく特撮技術でありストーリー。さらに、脚本、デザイン、演出、操演など、才能あるアーティスト、クリエイターたちが情熱を持って総力で作ることで実現しました。また、その驚きのある作品から、観た人たちに平和や愛を願う優しさ、未来へ向かう希望を持ってもらいたい。未来を考えてもらいたい。その気持ちを育んでもらいたい。作品にそういうメッセージを込めようという思いです。これらが会社設立の原点にあります。

 東宝で特撮の神様と呼ばれた円谷英二監督は、テレビの黎明期に映画クオリティの作品を作っていきました。これが大ヒットにつながります。その根底に、この言葉があったと理解しています。

 当社はウルトラマンという強いIP(知的財産権)を軸にしますが、そのうえで創業ビジョンである遺伝子を伝えていきたい。4年前に社長に就任してから、ことあるごとにこの言葉の意味を噛みしめています。

怪獣も重要なコンテンツ

―― トヨタ自動車と「ウルトラマンZ」で協業する一方、みんな電力とは怪獣でコラボしました。ウルトラマンだけでなく、怪獣もコンテンツとして売り出されているんですね。

塚越 ウルトラマンも怪獣たちも当社のスターですから(笑)。ウルトラマンシリーズ作品の「ULTRAMAN」ブランドを中心に、怪獣作品などは「TSUBURAYA・ULTRAMAN」ブランド、オリジナルドラマ作品などの「TSUBURAYA」ブランドと、3つのブランドを通じてあらゆる世代に楽しんでもらえる作品群を展開しています。

 55年前に放送された「ウルトラマン」の最高視聴率は42・8%でした。当時はお茶の間で家族全員で観ていたんです。それが今はテレビメディアが個人視聴に変わり、ウルトラマンシリーズは子ども向けに限られている傾向があります。しかし、ウルトラマンをはじめとする円谷作品には、オールターゲットに観てもらえるポテンシャルがあります。

 その最初の入り口になり、幼少期から円谷作品を楽しんでもらうきっかけを作っていくのが、人気怪獣をモチーフに、絵本やミニアニメで展開している「かいじゅうステップ」です。また、今後公開予定の映画「シン・ウルトラマン」は、子ども向けではない一般映画として製作しています。庵野秀明(「新世紀エヴァンゲリオン」「シン・ゴジラ」)さんが企画・脚本を手掛け、かつてウルトラマンを観ていた大人から年配層だけでなく、女性や若い世代など、誰もが感動できる作品として現在鋭意制作中です。ウルトラマン55年の歴史の中で、ひとつのターニングポイントになる作品だと確信しています。

シン・ウルトラマン
庵野秀明氏が企画・脚本を手掛ける「シン・ウルトラマン」©2021「シン・ウルトラマン」制作委員会©円谷プロ

 ほかにも、現在Netflixと共同製作中のCGアニメ長編映画「Ultraman(原題)」の制作スタジオは、アメリカのインダストリアル・ライト&マジック(ILM)。ピクサーやディズニー同様のファミリー向けアニメーションとなり、こちらも新たなファン層を獲得していくことでしょう。

ウルトラマンの新しい時代へ

―― これまでのシリーズとは異なるウルトラマンの新しい時代に突入していくのでしょうか。

塚越 今までとは異なるタイプのウルトラマンを開発中です。変わるのは、ウルトラマンの姿や形状ではなく、その内容や作品性。子どもたちにとって分かりやすいメッセージ性がある作品と、大人が感動して満足できる普遍的な作品は両立できる。そういうものをウルトラマンで作りたいと考えています。ただ、詳細の発表はもう少し先になります。

 一方、当社はウルトラマン以外の作品も制作していきます。新しい技術を使って新たなオリジナル作品を作っていくのが、円谷プロダクションの未来です。

ウルトラマンの海外展開をいかに行うか

作品、商品、イベントが三位一体となるシナジー

―― 独自の動画配信プラットフォームとなる「TSUBURAYA IMAGINATION」をローンチしています。

TSUBURAYA IMAGINATION
独自の動画配信プラットフォーム「TSUBURAYA IMAGINATION」

塚越 SVOD(定額制動画配信)でマネタイズするためだけのプラットフォームではありません。当社の作品カタログは1800タイトルほど。Netflixやアマゾンプライムといったグローバルプラットフォームとの競争に参入すべきとは思いません。ではなぜ立ち上げたのか。それは、お客さまと直接つながる機会をつくるためです。

 「作品」「商品」「イベント」を三位一体としてシナジーを起こし、お客さまに届けていきます。作品を観てもらうだけではなく、人と商品と場所をつなぐことでその世界観を楽しんでもらう。それを実現できるつながりを持つのがこのプラットフォーム。その背景にあるのはCRM(Customer Relationship Management)。そこがポイントです。

 無料と有料の領域がありますがコアファンの一歩手前にいる無料領域の潜在的なお客さまに、どうしたら円谷作品のファンになってもらえるか。そのつながり方を考えていくチャレンジのためのツールになります。

―― 三位一体のシナジーは他業種と作り上げていくのでしょうか。

塚越 ポイントはお客さまがいろいろな角度から作品を楽しむ環境づくり。既存ファンにはもっと好きになってもらい、新しいファンに魅力をしっかりとお伝えする。そういうきっかけを作品、商品、イベントを通じて作るのが三位一体です。既にコンビニチェーンなどのリテールやメーカーと、エンターテインメントとして成立させる商品やイベント開発のディスカッションを始めています。エンタメに興味がない層にも「これいいね」と思ってもらえる価値をお届けできたらいい。それをいろいろな業種の方々と考えていきたいです。

日本固有のメッセージを世界へ

―― 既にNetflixで世界配信をされていますが、海外展開はどうお考えですか?

塚越 ウルトラマンの海外権利訴訟案件が解決した今、より積極的に仕掛けていきますが、作品の中身について考えていることがあります。ハリウッドが作る映画は素晴らしい作品ばかりですが、そこにはひとつの傾向があります。ヒーローもののアクション大作でも一般のドラマでも、ベースに描かれるのは個人の葛藤と成長です。一方、日本やアジアの作品には、それとは異なるさまざまな考え方やコンセプトがあります。

 そのひとつは自然やコミュニティ、社会との関わり方。つまり、共存するという考え方です。日本人は、海と山に囲まれた自然に恵まれた国で、その環境の中で協力しながら育ってきました。そこからのメッセージがわれわれの作品の特徴です。大きなスタンダードがハリウッドを中心とした欧米にはあります。しかし、今社会が多様化するなかで、ハリウッドとの協業という形でも、われわれならではの作品が世界で受け入れられていくチャンスがあります。

―― ローカルがグローバルに打って出るときの強みになる時代ですね。

塚越 欧米から見ると、世界的人気の日本キャラクターのほとんどが、既にハリウッドスタジオやグローバルメディアグループに映像化されることが決まっているなか、日本に残された最後の大きなIPがウルトラマンかもしれません。そのため海外企業からのオファーもたくさん来ていますが、世界に出るときにハリウッドで同じことをしていては、ウルトラマンが幾多あるヒーローキャラクターの中で埋没してしまう。

 世界で勝負するためには、日本のアイデンティティと日本らしさを強味としてストーリーに生かす。そういう切り口の出し方をやっていきたい。それが別次元の強力な作品づくりにつながります。

―― 新しい業種や企業とのこの先の協業も視野に入れていますか?

塚越 われわれは作品を通して、目に見えない何かを届けています。一方、商品を作るメーカーは、昔はその機能を世界に売っていました。それが、使いやすさやクオリティが選ばれるポイントになり、今は作る会社や商品の社会的な意義といった背景に移っています。

 あらゆるビジネスが、形のないものを届ける点で同じだと思うんです。われわれはIPを持つコンテンツホルダーとして作品を作っていきますが、そこでいろいろな業種の会社と一緒にできることがあります。作品だけではなく、そこの付加価値や考え方を、業種を超えて共に世界へ発信していく時代ではないでしょうか。

 たしかに作品だけであれば、海外のプラットフォームに乗せて世界配信するのもひとつの手法です。しかし、ビジネスとして日本の企業が海外に出ていって、世界のお客さまに楽しんでもらうメカニズムを作れたらと考えています。

―― 世界展開においてはどのようなことを考えていますか?

塚越 ハリウッドのスタンダードにない、われわれならではの遺伝子を持つ、新しい価値のある作品を日本からアジア、そして世界へ発信していきたい。作品をベースに、商品やイベントにメッセージを込めて届けていきたいです。

 その具体的なアイデアを異業種の方々と一緒に考えていきたい。あらゆる業界に「円谷は今元気いっぱいに世界に飛び立とうとしています。一緒にやりませんか?」と呼び掛けてみたいんです。話をしたいという人や会社が出てきてくれたらうれしいですね(笑)。