経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

事業の多角化が生んだ複合カフェ「快活CLUB」の魅力とは

快活フロンティア 東英和社長

快活CLUB北山田併設店

コミック、インターネット、カラオケ、ダーツ・ビリヤードどさまざまな機能を有する複合カフェ「快活CLUB」。低価格でさまざまな娯楽を提供するこの施設は、紳士服で有名なAOKIホールディングスの多角化戦略から生まれた。その人気の秘密とグループとしての戦略に迫った。(取材・文=吉田浩)

コロナ禍でビジネス目的と家族利用が増加

 コロナ禍によってすっかり定着したリモートワークだが、自宅では仕事に集中できない、家族がいるためオンライン会議に支障があるといった理由で、快活CLUBを利用するビジネスパーソンが増えている。一般的なネットカフェと違い、防音機能付きの鍵付き個室をリーズナブルな価格で利用できるのが人気の理由だ。

 ファミリー層の利用も増加している。遠方への外出が制限される中、近場にあってさまざまな娯楽を一か所で楽しめる施設として休日を過ごす家族が増えたという。それぞれが個室を取って好きな遊びをするもよし、カラオケルームなどに集まるもよしと、柔軟な使い方が可能だ。家族割引を利用すれば小学生は施設を無料で利用できるため、財布にも優しい。

 「家族でどこかに出かけて食事をすれば通常は1万円くらい掛かるところが、3千円程度で済んでしまいます」と、同施設を運営する快活フロンティアの東英和社長は説明する。

多角化を推進する企業文化から生まれた複合カフェ

 都心の駅近くで若者の利用が多い一般的なネットカフェのイメージとは異なり、ロードサイドに出店する快活CLUBが目指したのは「ビジネスパーソンの明日の活力になるような空間」だった。「薄暗く狭い」「時間つぶしにネットか漫画を楽しむか寝るだけ」といったインターネットカフェの一般的なイメージとは一線を画している。

 現在の形に至ったのには特有の背景がある。あまり知られてはいないが、快活フロンティアは紳士服販売のAOKIで展開するAOKIホールディングの別事業として生まれた。

 紳士服市場が1990年代後半をピークに徐々に縮小する中、業界2位だったAOKIは同業者のM&Aを押し進める傍ら、坪当たりの売り上げが落ちてきた郊外の大型店舗を中心に、店舗内スペースの有効活用を始めた。AOKIとグループ会社のカラオケ店「コート・ダジュール」が同居する建物に見覚えがある読者もいることだろう。

 複合カフェ業態もそんな中から生まれた。快活CLUBは2003年に1号店を開業以来、既存の郊外型店舗や居抜き物件を活用する形で出店攻勢を進め、現在は全国に500店舗近くを構える。

 「AOKIはキッズ用品事業や結婚式場の運営も手掛けていたし、もともと多角化を推進する企業文化があったんです。当時は30の事業を作って、30人の経営者を育成するという目標がありました。経営理念さえ共有できれば、新たな事業を一緒にやっていこうという考えでずっとやってきているので、ネットカフェをやることにも社内の抵抗はほとんどありませんでした」

 そう語る東社長は、AOKIが2003年に買収した愛知県の紳士服販売企業、トリイの出身。さまざまなバックグラウンドの人材を、上手く融合しているのがAOKIグループの特徴と言える。

快活フロンティアの東英和社長
快活フロンティアの東英和社長

利用客が新たな使い方を発見してシナジーを生む

 快活CLUBも最初はネットカフェがメインだったが、カラオケ、ダーツ、ビリヤード、など、少しずつ機能を増やすにつれ、当初想定していたビジネスパーソン以外にもさまざまな層に愛好者が増えていった。前述のように家族連れもいれば、車で客先を回る営業マンが都心と同じく時間つぶしに使ったり、トーストとポテトの無料モーニングを楽しみに来店したりするシニア層が増えている。

 台風で電車が止まった際には、多くの帰宅難民が利用したこともあるという。確かに食事、シャワーがあって鍵付き個室でプライバシーが担保されているとなれば、一時的な避難所としても複合カフェは最適な場所と言えるだろう。

快活CLUB
2人で楽しめるカラオケルームなどさまざまなサービスを揃える

 さまざまなサービスをバラバラに導入しているようにも見えるが、人々の生活導線上にあるあらゆるものを取り込むことで、上手くシナジーを生み出している。たとえば現在、快活CLUBと併設することが多いフィットネス専門店「FiT24」などは、一見ネットカフェやカラオケの利用客とは層が違うように思える。しかし、体を動かした後に食事を楽しんだり個室で休憩したりする需要が新たに生まれたり、逆にネットカフェの利用客がフィットネスを試したりといった相互利用が増えているという。

FiT24
快活CLUBと併設されることが多いFiT24

 「新しい使い方を発見していただくことで、利用頻度が上がっています。自宅近くにあって、いろんなことができるコンビニのサービス版のようなイメージでしょうか。フィットネスは単独でも出店を増やしていて、同じ施設の中になくても会員証1枚でサービスを利用できるようにしています」と、東社長は話す。

 鍵付き個室ももともとはなかったが、セキュリティやプライバシー確保のために導入したところ、冒頭紹介したようにビジネス目的の利用客が増えた。運営側にとっても意外な利用法を顧客が発見できるのも面白さの1つだろう。

快活CLUB
鍵付き個室で女性も安心して利用出来る

多業種を取り込んでいくメリット

 今のような複合カフェの形を低価格で展開できるのは、グループの資本力があってこそ。もともとAOKIにあった経営資源をスタートから使えたことに加え、多店舗展開によって仕入れなどのコスト低減も可能にしている。東社長は語る。

 「ネットカフェの市場は紳士服より小さいのですが、われわれには直営で全部やっていける資本力があり、かつチェーンの仕組みをAOKIで作り上げてきたので、その経営資源を生かして出店開発やマニュアル化ができたところが大きいと思います。多数の店舗を抱えていることで、一部の店舗を使って新たな試みも柔軟に行えます。ダメならやめればいいだけですから」

 さまざまな業態を取り込むメリットは、人材採用や登用でも発揮できる。かつては1店舗あたり1人以上の正社員を配置してきたが、現在は複数店舗を1人で担当するスーパーインテンデント制度を取り入れており、場合によっては快活CLUBとそれ以外の業態の店舗を任せるケースも出てきている。

 「1店舗で人材採用するのと数店舗で採れるのではコストが全く違いますし、グループ内でさまざまな業種を手掛けることで、横断的に人材を活用できるようになりました。優秀な人材が業態をまたいで複数の店舗を見るほうがうまくいきます。そうした人材やパートさんやアルバイトさんにも権限移譲してしっかり報酬を増やす一方で、デジタル化を進めて総人件費を下げる工夫をしていきます」

 1人の担当者が複数店舗を手掛けることで効率的な動き方を工夫するようになり、本社側も仕組みをフォローしていくことで、さらに業務の効率化を進めていくのが狙いだ。今後、出店数が増えても利益をしっかりと確保していくための体制づくりを急いでいるという。

 「日本全体の人口が減っていく中で、生産性が上がる働きかたをしていかないといけません。そのためにも、いろんな事業に対していろんなことができる人材を育成していきます」

 かつては多角化すると企業価値が下がると言われた時期もあった。確かに単なる異業種の統合で失敗した例は多い。

 一方で、一定以上の専門性を持ちながら、さまざまなことができる人材を数多く育てることで生産性が上がり、企業価値を高めることもできる。今後数年で、こうした取り組みを行っている企業とそうでない企業では大きな差が出る、と東社長は主張する。

 専門分野以外のスキルを身に付けて、多能工化することがビジネスパーソンに推奨される時代。個人にとっても企業にとっても、多様性が成長に向けた1つのキーワードになることを、快活CLUBの事例は示している。