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第5回 KPIとABCDマネジメントで行動プロセスを見る -高橋浩一

高橋浩一

【連載】勝てる! 最強営業組織のつくり方

TORiXの高橋浩一です。第5回の今回は、営業スタッフの行動の「量」と「質」のKPIの見方とABCDマネジメントについて解説していきます。営業組織全体の目標や、個々の商談の「受注」に向けて、営業スタッフ一人一人の取るべき行動を明確にすることで、進むべき道すじが鮮明になってきます。(構成・文=大澤義幸)

高橋浩一氏のプロフィール

高橋浩一
外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、アルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業6年で70人までの組織成長をけん引。2011年TORiX株式会社設立。延べ3万人以上の営業強化支援に携わる。年間200回以上の講演や研修に登壇する傍ら「無敗営業オンラインサロン」を主宰。著書『無敗営業』(日経BP)はシリーズ累計7万部突破。最新刊に『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)。

復習:商談の「見える化」が営業組織にもたらす効果

 前回の記事「『見える化』が商談の進行状況と人の動きを明確にする」では、商談状況を「見える化」していない営業組織の落とし穴を、営業マネージャーのタイプ別の傾向とともにご説明しました。商談をフェーズ分けし、その状況を「見える化」することで、営業スタッフの行動が明確になり、勝ちパターンを実践しやすくなります。

 もっとも営業目標のゴールである「受注」のためには、営業スタッフのさまざまな行動プロセスを見て、良いところは継続し、悪いところは改善していかなければなりません。そうした行動プロセスの「量」と「質」を客観的に見る指標となるのがKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)とABCDマネジメントです。

KPIとABCDマネジメントの効果的な使い方

 営業マネージャーは営業スタッフの目標達成に向けた行動のプロセスの「量」と「質」について、いろいろなKPIを見ていく必要があります。

 ここで多くの場合、コールの件数、訪問件数など「量」だけを見てしまいがちです。しかし、単純な努力で増やしやすい「量」だけを見ていると、営業スタッフの「とりあえず行動すればいい」という意識を誘発してしまい、行動に質が伴いません。新人ならまだしも、営業組織の全員が新人ということはないでしょうから、一律に行動の「量」だけを見るのはリスキーです。

 そこで「質」も見ることになります。例えば、アポ獲得率はアポ獲得件数÷コール件数で、フェーズアップ率はフェーズが進んだ商談数÷全体の商談数で、受注率は受注件数÷見積もり件数でといった具合に、多くは割り算で計算できます。「質」の伴った行動を見ていきましょう。

 この「量」と「質」をKPIで見る時に便利なのがABCDマネジメントです。

高橋浩一
(筆者作成)

 4象限の中で、Dゾーンは「質」が低く「量」も少ない人が分類されます。ここにいる人は「量」も「質」も改善を図らなければなりません。Cゾーンは、「質」は高いが「量」は少ない人。Bゾーンは、「量」は多いが「質」の低い人。Aゾーンは、「質」が高く「量」も多い人。

 ABCDそれぞれの説明の前に、「量」と「質」のどこに焦点を当てて見るかが重要となります。これを決めるのは営業マネージャーや経営トップの仕事です。営業スタッフの中にも、アポイント件数は少なくても売り上げが大きい人はいます。逆に、案件はたくさんあるのに受注が増えない場合、提案件数、受注件数、受注率を見ていきます。なかなか提案につながらないのが課題であれば、訪問件数と案件化率を見ていきます。

 営業マネージャーの多くは営業スタッフに対し、自身のプレイヤー時代の苦労や成功体験(経験則)を元にアドバイスしてしまいがちです。しかし、時代は変化しており、過去の成功体験が今の営業スタッフにも当てはまるとは限りません。そこでKPIで見ることが大事なのです。

 あらためてDゾーンにいる人は行動の「量」が少なく「質」も低いので、いきなりたくさんのことを要求してもできません。そこで、やるべきことを絞り込んでおき、何ができて何ができないのかを明確にし、どんな行動を増やせばいいかを考えていきます。これがうまくいくと、DゾーンからBゾーンに移ることができます。まずはDゾーンを脱出するのが目標です。

 Cゾーンにいる人は行動の「量」は少ないけれども、「質」は高いので、本人が動けば結果は出ます。Cゾーンの人が行動するには、やらなければならない「量」を計算して明示しておくことです。例えば、「量」が足りないのはアポイント先にアプローチしていないからであれば、これを客観的なデータで示します。もともと能力は高い人たちですがから、いつまでに何件やらなければならないと期限と件数を指示し、それに則って行動してやり切ってもらうことです。

 Bゾーンにいる人は「量」が多いのですが、頑張っていても成果が出ない人です。訪問件数は足りているので、あとは「質」を上げなければなりません。ここでは「勝ちパターン」に沿ったアドバイスが有効です。これはDゾーンからBゾーンに移ってきた人にも効きます。

 Aゾーンにいる人は行動の「量」も多く、「質」も高いので、他の営業スタッフのお手本になってもらいましょう。リーダーとして、あるいは人材育成・教育などで力を借りるのがいいでしょう。

 このように、営業スタッフの行動の「量」と「質」について、KPIとABCDマネジメントで見る仕組みを構築していくことが大事です。先ほども申し上げましたが、その上で、「行動の質を上げる」のか、「行動の量を上げる」のかマネジメント方針を決めるのは経営トップの責任です。

「ルート型」と「アカウント型」で違う重要KPIの例

 とはいえ、KPIで全ての指標を管理しようとすると手間がかかりますし、重要な点がわかりづらくなります。そこで営業であれば、ルート型とアカウント型に分けて考えてみると重要KPIがわかります。

高橋浩一
(筆者作成)

 アカウント型は、お客さま1社の予算内でどれだけ自社のシェアを上げられるかが問われます。ここでは、お客さまの情報を集め、圧倒的な説得力を構築する「情報戦」が鍵となります。意思決定者や関係者も多いため、意思決定構造を把握し、丁寧なアプローチが求められます。ここでは次のようなKPIを見ていくといいでしょう。

 行動の量:訪問件数、キーマンとの接触件数、フェーズ滞在日数、提案件数

 行動の質:案件化率、新規商談作成の件数・金額、フェーズアップの件数・金額、パイプラインに積まれている金額、受注件数や受注率、受注単価お客さま取引単価、リピート率

 ルート型は、営業スタッフ1人が抱えるリストが複数にわたるため、然るべきお客さまに、行くべきタイミングで接触する「タイミング戦」が鍵となります。ルート型は顧客単価もそこまで大きくないため、行動の「量」を増やしながらお客さまの購買のタイミングを見計らうことが重要になります。こちらは次のようなKPIを見ていきます。

 行動の量:コール件数、訪問件数、接触のリードタイム、提案件数

 行動の質:アポ獲得率、案件化率、受注件数や受注率、受注単価、リピート率

 重要KPIが定まると、行動の「量」と「質」について、ABCDマネジメントで営業の状況と成果を見ることができるようになります。商談もここまで細分化して見ることで、受注までに取るべき行動や道すじが鮮明になってくるはずです。