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「サービス工事業」確立へ防食特化の技術集団―丸栄産業

丸栄産業社長内田康起

全国に事業展開し、防食工事で業界に広く知られる北九州市の丸栄産業。高い技術志向と併せて、顧客の潜在ニーズに能動的に対応する「サービス工事業」の確立を目指している。近年はロボット開発にも本格的に乗り出している。

丸栄産業社長内田康起
丸栄産業社長 内田康起(うちだ・やすおき)

「腐食への挑戦」を続け業界で広く知られる存在に

 鉄でもコンクリートでも、あらゆるものは腐食、劣化する。その腐食から構造物を守る防食工事の分野で業界に広く知られる企業がある。北九州市に本社を置く丸栄産業だ。

 1958年に、内田康起社長の父親が現在の日本製鐵八幡製鐡所からの指名登録を受けて塗装工事業を始めたのがルーツだ。以来、63年間にわたり、全国で工事実績を重ね、今では北海道と8つの県に本社のほか16拠点を展開する。

 売り上げの8割は重防食と呼ばれるプラント鋼構造物向けの工事。次いでコンクリート防食、マンション・ビルリニューアルが1割ずつを占める。

 メインとなる重防食は、主に国内大手の製鉄所や製油所構内でプラント設備の防食・メンテナンスを手掛ける。コンクリート防食は過去に高速道路の橋脚補強が多かったが、下水処理場やし尿処理場での工事実績も広がってきた。これら重防食とコンクリート防食のノウハウを生かして、マンション・ビルリニューアルも20年ほど前から北九州地区を中心に行っている。

 業績も堅調だ。売上高は2019年7月期が約40億円だったのに対し、20年7月期は約45億円、21年7月期は約50億円まで伸びた。内田社長が「売り上げよりも重視している」とする営業利益率、経常利益率も高水準が続いている。

 同社は創業以来、「腐食への挑戦」を掲げて成長してきた。その成長を支えたものが2つある。

 一つは元請け志向。重防食はもちろん、例えばマンションリニューアルでも管理組合から直接受注している。

 もう一つが技術志向だ。内田社長の父親も内田社長自身も機械工学科を卒業している。そのため技術への知見には自信があった。それを社内に落とし込んだ。

 内田社長は「先代時代から技術論のある仕事でノウハウを積んだ。それが強みだ」とする。さらに、技術志向は工事だけに限らない。若手社員を派遣して他社と共同で新型塗料の開発に取り組み、国際特許の取得にも成功した。

技術志向に加えて顧客へのサービスを重視

 この技術志向に加えて、内田社長はサービスの重要性を強く訴える。

 「受注するには価格を入口に、技術でお客さまを引き寄せて、最後はサービスで抱き込む」という考えだ。

 「例えば、工事以外での仕様書作成や予算申請のお手伝いなど何でもいい。『丸栄に頼めば提案から施工、アフターフォローまで、そして工事以外の困ったことまでを気付いたら解決してくれていた』となることが理想。そういったワンストップ型でありソリューション型、言わば『サービス工事業』を確立したい」と力を込める。

 では、内田社長が考えるサービスとは何か。

 「まずは今日頼めば今日してくれるといったスピード。あとはお客さまそれぞれで求めるものが違ってくる。それを言われるまで待つのではなく、能動的に感じ取ることが大切。社員にもそう教育している」

 これには、内田社長が丸栄産業に入社する前、大手総合商社マン時代の経験が生きている。鉄鋼担当で北陸に赴任した際、他社と違うやり方で顧客のニーズを嗅ぎ取り、その結果、北陸1位に押し上げた。このことから、丸栄産業としては「お客さまにいかにして選ばれるか。そのためにも、ニーズにあったサービスができる工事会社でありたい」とする。

社内のデジタル環境を整備自走式ロボット開発も

 人材育成にも力を入れる。1年ほど前から幹部候補を対象に「社長塾」を毎月開催。内田社長から会社の将来についてなどのレポート課題を出題している。また、内田社長は新人にも講話を続けており、階層関係なく社員と直接的にコミュニケーションを取っている。

 人事制度にも手を入れた。現在は幹部を目指すコース、生活に合わせて働き方を重視するコース、専門スキルを重視するコースの3つを敷く。21年からは若手向けに2階級を特進させる「チャレンジ昇格制度」も新設した。

 人材が存分に活躍できるように、社内のデジタル環境の整備も進める。社員一人一人にノートパソコンやデジカメ、スマホを用意。社内報告や給与系の処理などもスマホを通じて行い、社員が事務所に戻らなくてもいい仕組みを近く構築するという。

 最後に、全社の最新の動きとして、同社では数年前からベンチャー企業と提携し、自走式ロボットの開発にも乗り出している。人手不足に悩む工事現場において、人間に代わる存在を目指すものだが、内田社長は「従来とは概念が違うものだ。完成すれば大きなインパクトになるだろう」と自信を見せる。

 防食工事で確固たる地位を築き、サービス志向とデジタル環境を併せ持った技術者集団が、新分野で業界内外を変えようとしている。

会社概要
設立 1958年6月
資本金 5,000万円 売上高 50億円
所在地 福岡県北九州市小倉南区
従業員数 120人
事業内容 塗装工事、コンクリート防食、マンション・ビル改修工事
https://marueisangyou.jp

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