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コロナで初の赤字も新戦略でV字回復と駅の活性化を目指す―九州旅客鉄道

九州旅客鉄道社長青柳俊彦

観光列車や駅ビル開発で順調に業績を伸ばしてきた九州旅客鉄道(JR九州)。そこに新型コロナウイルスが直撃し、昨期は上場後初の赤字となった。新たな不動産戦略や経費削減を展開し、Ⅴ字回復を図る。

九州旅客鉄道社長青柳俊彦
九州旅客鉄道社長 青柳俊彦(あおやぎ・としひこ)

人の動きで営む会社に想定外の状況が相次ぐ

 「昨年のゴールデンウイーク時は鉄道旅客運輸収入が約8割も減少した。経験のない状況下で、まず雇用と資金確保の目途を付け、『このような時だからこそ原点に戻り安全運行に努めよう』と社員に訴えた」と新型コロナウイルス感染の拡大時期を振り返る青柳俊彦社長。

 外国人の訪日が突然止まり、鉄道事業の乗降客が落ち込み、さらにはホテルや小売りにも、と影響が大波のように押し寄せた。朝のテレビ番組で「安全のためできる限り公共交通の利用は控えてください」とアナウンサーが呼びかける。続いて「JRは平常運転です」と交通情報を流す。輸送機関は簡単に運休できず、固定費だけがかさみ続けた。

 「民営化後、企画部長の時にBCP策定を担当し、災害により特定地域で運行が不可能になった場合や、拠点・職場で病気が発生するといったシミュレーションはしていたが、コロナのような全国的なロックダウン状況は想定外だった」と語る。

 結果、2021年3月期連結決算の売上高は2939億円(前期比32・1%減)、経常損益は193億円の赤字に転落。前期は506億円余りの黒字で、通期の最終赤字は16年の株式上場以来初。「一部不動産を除いて鉄道や駅ビル、ホテルなどグループ全体で悪化。経費削減に心血を注いだが、あらためて『人の動き』で営む会社であることを実感した」

 JR九州が誇る「ゆふいんの森」など観光列車も空席が目立ち、鉄道旅客運輸収入は48%減の763億円と民営化後、最低を記録した。

私募リート、新幹線荷物輸送など新たな戦略を展開

 かつてない逆風の中、JR九州は反転攻勢の新戦略を立てる。その一環として注目を集めたのが「私募リート」だ。21年4月、完全子会社の「JR九州アセットマネジメント」を立ち上げた。オフィスビルや賃貸マンションなどが売却対象となる予定だ。

 「コロナで当社の財務状況は大きく変わった。売却で得た資金を次の成長投資に活用し、持続的な成長基盤を整備していく。新たな挑戦だが優良な所有物件が多く、十分成長の余地がある。私募リートを最大限に活用し、配当やマネジメントフィー等でも利益を積み上げたい」と循環型不動産事業に期待を寄せる。

 コロナ禍に開業を迎えた、アミュプラザみやざき、アミュプラザくまもとも好評だ。「魅力ある施設を造れば駅ビルは通過地点でなく、集う場所にできる。各地で駅前の空洞化が進んでいたが、地域と連携して都市開発することで、駅や中心市街地への回帰が起きている。この流れを加速させたい」

 また、新長崎駅ビルのオープンを2年前倒しして23年秋とした。西九州新幹線(長崎~武雄温泉間、22年秋開業)との相乗効果を高める狙いで、感染症対策や脱炭素に向けた機器の導入なども盛り込む。

 鉄道事業においても、九州新幹線を利用した荷物輸送サービスを5月に開始。賞味期限の短い福岡名産の生菓子などを鹿児島で販売し、「朝作られたものが昼食べられる」と好評。まだ品数こそ少ないが「新幹線の時間的優位性は明らかだ。続けることでさまざまな分野から知恵を集めて、ビジネスとして拡大したい」と挑戦姿勢を崩さない。

大胆な経費削減を断行人が集い笑顔になる駅へ

 コロナ禍からのV字回復に向けて、固定費割合が高く、新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受ける鉄道事業のコスト構造の改革に取り組む。20年3月期の鉄道事業の営業費用の約1割に相当する140億円以上の削減を目指す考えだ。

 「先送りしていた分野にもメスを入れる」と青柳社長。例えば通勤時間後の列車清掃を取り止めた。以前は新聞雑誌やタバコ、時には一升瓶さえ床に転がっていたが、乗客マナーは一変している。「一列車ではわずかだが、1年間だと億単位の経費節減となる。安全が大前提だが、線路の保守点検などさまざまな分野でドローンの活用も考えたい」。社員から募ったコスト削減のアイデアは約4千件に上るという。

博多駅前で点灯したイルミネーション
多くの市民で賑わう博多駅前で点灯したイルミネーション

 年末になるとJR博多駅前広場は装いを一変する。約80万個のイルミネーションで彩られ、仮設の飲食店や販売店が連なり、ステージでは音楽やパフォーマンスなどが繰り広げられる。「各地の駅で催すイベントは地元市民が一体となって盛り上がる。国内でこれほど駅を活用している鉄道事業者はない」と胸を張る。

 アフターコロナを迎え、人が集い、賑わい、笑顔になれる鉄道や駅を地域全体が待ち望んでいる。

会社概要
設立 1987年4月 資本金 160億円 売上高 2,939億円(2021年3月期) 所在地 福岡県福岡市博多区 従業員数 8,017人
事業内容 旅客鉄道事業、海上運送事業、旅客自動車運送事業、旅行業、駐車場業、広告業、損害保険代理業その他の保険媒介代理業、小売業、旅館業および飲食店業、不動産の売買・賃貸・仲介および管理業
https://www.jrkyushu.co.jp/