経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

地方創生の鍵は東京大脱出 パソナグループの挑戦


パソナグループが本社機能の一部を兵庫県・淡路島に移転してから約1年が経過した。東京や大阪などからすでに約230人が移住し、風光明媚な環境の中で生き生きと働いている。地方創生が国の政策課題になってから各地でさまざまな取り組みが行われてきたが、「移住」は地域経済活性化へのインパクトが大きい。社会課題の解決を経営ビジョンに掲げる南部靖之グループ代表の挑戦を追った。

パソナグループ 代表取締役グループ代表・南部靖之
パソナグループ 代表取締役グループ代表・南部靖之 (なんぶ・やすゆき)

RPAの導入とDXで業務効率が大幅に改善

 管理部門を中心に初年度で400人程度を予定していた移住計画は、コロナ感染拡大の影響もあり現状では230人に留まっている。これに近隣地域からの通勤者、地元採用のスタッフなど600人が島内にある3つのオフィスや飲食・観光施設などで働いている。南部靖之代表も自宅から徒歩で通勤しており「ほとんど東京へは行きません。逆に、いろんな人たちが来て激励してくれます」と笑う。

 本社機能を移転する構想は以前からあったという。淡路島を選んだのは交通の利便性の良さに加えて、すでに地方創生の事業が淡路島で進行中だったことが大きい。

 「淡路島は徳島空港を入れて1時間圏内に4つの空港があり、5つの世界遺産があります。こんなところは他にありません。地方創生の鍵は移住にありと、『東京100万人大脱走計画』を言い続けてきましたが、なかなか前には進みませんでした。コロナ禍が背中を押したのは間違いありません。今では営業部門からの移住希望者も増えています」

 オフィスの一つである「PASONA WORKATION HUB」(鵜崎)は空き家だった土産物店をリノベーションした。仕事のやり方も変わった。人材派遣業は、営業職員が求職者と面談した上で雇用契約書を作成し、管理や給与計算などの仕事は紙ベースで行っていたが、内勤の定型業務にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入、従来業務の8割を電子化した。DXで100人必要だった業務が60人で可能になったという。営業もオンライン会議ツールなどを活用するインサイドセールスを強化して成果を上げている。本社移転を実施できた背景にはBCP(ビジネス・コンティニュティ・プラン)を作成していたことも大きかった。

 「迷っているとできない理由ばかりを考えてしまいますが、東京を離れると決断した瞬間から、不思議なことにいろいろなアイデアが浮かんできました。再度BCPを練り直して仕事のやり方を考えました」

南部靖之パソナグループ代表
「淡路島から世界的ベンチャーが生まれるかもしれません」と語る南部靖之パソナグループ代表

淡路島は人材誘致による地域活性化のモデルケースに

 パソナの淡路島との関係は2008年に開設した農業ベンチャー支援の「パソナチャレンジファーム」が最初で、その後、観光施設、レストラン、テーマパークやアトラクションなど、ハードとソフトの両面から多彩な取り組みを行ってきた。目的は「人材誘致」による地方活性化だ。

 社員の移住計画は24年5月までに1200人、住宅不足などの懸念材料もあるが地域の人が積極的に応援してくれているという。

 「おじいちゃん、おばあちゃんと話していると、大阪や東京で働いている子どもや孫が帰ってこないという話をよく聞かされます。パソナの本社機能には財務、経営企画からデザイン関係、新規事業まで仕事は山ほどありますのでぜひ、うちで働いてもらいたいですね」

 同社には若手人材を一定期間、在籍出向の形で受け入れて、スキルアップ研修を行う「フレッシュキャリアアッププログラム」制度があり、淡路島でも多くの人が働いている。

 「全国では1千人を超えており、淡路島にもいっぱい来ています。旅行会社や鉄道会社から来た若手と話をしましたが、みんな優秀でビックリします」

 スキル研修だけでなく和太鼓やタップダンスなどの文化体験も充実しており、業種が違う人同士の交流も貴重な経験だ。

 「人材ビジネスの会社が、なんでこんなことをやっているのかと聞かれることがありますが、当社が今までのやり方でこれから50年、100年と、生き残れるかは分かりません。ある日、仕事がAIに取って代わられるかもしれません。他の業界もそうですが、われわれも新しい仕事や産業を汗水流しながらつくっていかないといけません。それをやるには淡路島がいいんです。ゼロから一を生み出す。それで伸びたら本当の成長で、パソナグループの強い組織ができます」

 「東京大脱出」に向けたパソナの挑戦はまだ始まったばかりだ。住宅や医療、就学など課題も少なくないが地域の応援があれば解決できるだろう。南部代表は「ここから世界的なベンチャー企業が生まれるかもしれません。とにかく来て良かった、一番は、僕の人生が豊かになったことです」と楽しそうに語る。

会社概要
設 立●1976年2月
資本金●50億円
売上高●連結3,345億円(2021年5月期)
本 社●東京都千代田区
従業員数●2万1,789人(連結・契約社員含む)
事業内容●エキスパートサービス、BPOサービス、HRコンサルティング、教育・研修、グローバルソーシング、キャリアソリューション、アウトソーシング、ライフソリューション、地方創生ソリューション
https://www.pasonagroup.co.jp/