経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

起業家に気持ちがある限り僕はとことん支援し続けます -ブロードキャピタル・パートナーズ 折口雅博

折口雅博イラスト

ゲストは、ベンチャービジネスの旗手として、グッドウィル・グループ代表や経団連理事を務め、現在はブロードキャピタル・パートナーズで起業家支援を行う折口雅博さん。日本でも起業を支援する環境が整備される中、今後社会で求められる起業家像、リーダー像について語り合いました。似顔絵聞き手=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=川本聖哉(雑誌『経済界』2022年7月号より)

折口雅博・ブロードキャピタル・パートナーズ
折口雅博・ブロードキャピタル・パートナーズCEO
おりぐち・まさひろ 1961年東京都生まれ。防衛大学校本科理工学専攻卒業。95年グッドウィル創業。その後、同グループ会長兼CEO、日本経済団体連合会理事などを務める。第28回経済界大賞「青年経営者賞」受賞。紺綬褒章受章。

起業を支援する環境が整い若者も挑戦しやすい社会に

佐藤 折口さんとは長いご縁で、第28回経済界大賞「青年経営者賞」授賞もそうですし、私の父で弊社創業者の佐藤正忠が病床にいた時、折口さんが創業し会長を務めた人材サービスのグッドウィル・グループ(GWG)の介護会社コムスンに大変お世話になりました。父が人間としての威厳を失わずに日常生活を送れたのは、無理難題に対応してくださったスタッフの皆さんのおかげです。

折口 コムスンは日本で初めて365日24時間の介護を行う会社でしたが、お役に立てて光栄です。

佐藤 折口さんはジュリアナ東京の立ち上げに始まり、創業12年で年商7700億円を誇ったGWGの創業者としての顔もお持ちです。現在はブロードキャピタル・パートナーズで起業家の育成・支援事業をされていますが、20年前と今とで起業家を取り巻く環境は変わりましたか。

折口 ベンチャーキャピタル(VC)の投資制度が変わり、銀行の融資も受けやすくなるなど、社会的なインフラが整備されてきましたね。日本と比べてアメリカのVCは投資額が大きいのですが、これは日本のVCが起業家のアイデアは認めても実現性を考えてしまうので、思い切った投資ができないから。アメリカのVCは社会の要望をとらえ、起業家の事業でこう良くなる、皆のためになると考えて戦略的に投資するので投資額も大きくなるのです。

佐藤 実際に起業する人材のタイプは変わりましたか。

折口 ここ数年で、大企業の第一線で活躍するような優秀な人材がベンチャー業界に入ってきました。ゼロから起業する人とミックスされ、総数を増やしていますね。

佐藤 それは折口さんをはじめ、孫正義さん、藤田晋さん、また女性では南場智子さんらの活躍を見てでしょうか。

折口 ありがとうございます(笑)。起業して頑張って成果を出せば報われる、夢が持てる社会だと分かった優秀な人材のチャレンジが増えたからです。今はベンチャー企業の存在感が増し、大企業と同様のパワーを持つところも多いですね。

起業家がリーダーとなり社会を活性化する仕組みを

折口雅博イラスト
折口雅博イラスト

佐藤 私の身近にも若い起業家が増えていて、彼らが将来の日本を担うと考えるとワクワクします。折口さんの起業家支援は具体的にどんなことをされているのですか。

折口 起業家は資金調達、顧客開拓、組織づくり、M&Aなど各ステージで壁にぶつかります。その壁を乗り越えて成長していくわけですが、そこで伴走者がいないと、本当はもっと成長できるのに「このくらいでいいか」と成長を止めてしまう。僕は起業家に頑張る気持ちがある限り、一つ目標を達成したら次、というように、起業家や会社がとことん成長できるようお手伝いをしています。

佐藤 折口さんは自ら起業して大企業に成長させた経験に加え、日米の視点をコンサルに生かせますよね。

折口 そうですね。アメリカでは戦略的思考力が培われているので、それを日本に適用して事業を組み立てることができます。また、上場したい人、上場にこだわらない人もいるので、企業の性質や業界を考慮して、最も力を発揮できる形になるようにアドバイスしています。

佐藤 どういった業種・業態のクライアントが多いのですか。

折口 AIやブロックチェーンを含むIT系、教育、医療、人材、介護、建設、不動産、農業など多様です。その分、あらゆる業界の最新情報が集まりますね。今は約140社を見ていて、月1度は実際に面談しています。年齢は25歳から73歳までいます。役員同席の上で、アドバイスすることもあります。

佐藤 それは大事ですね。社長だけが育っても、組織は1人で運営するものではないですし、右腕の育成は重要課題です。折口さんには30年以上一緒に仕事をされている側近の方がいます。上場時などに空中分解するケースが多い中で、仲違いせずに一緒に走り続けられる秘訣は。

折口 僕の信条は誰に対しても尊敬の念を持って接すること。僕も頑張りますが、一緒に熱意を持って誠実に頑張ってくれる人に報いたい。その本気さが伝わるからでしょうか。

佐藤 それが信頼感となり、目に見えない絆が育まれている。世の中の経営者に伝えたい大切な思いです。

折口 ありがとうございます。それと同時に、起業家自身が力を付けなければなりません。世界から見た日本の強みや弱みを知り、それを事業に生かしてほしい。業種・業態にもよりますが、年商20億~30億円までは人を集めてがむしゃらにやれば達成できます。しかし100億、1千億円にまで伸ばすには目標設定や戦略がないと難しい。そこを伴走して育成するのが僕の役目です。

佐藤 弊社も「金の卵発掘プロジェクト」という起業家支援のアワードを12年ほど続けています。起業家育成は日本のリーダー育成に直結するものと感じますが、折口さんにとって理想のリーダー像とは。

折口 リーダーは価値ある目標を設定し、その達成に向けて正しい戦略を考え、正しい戦術に落とし込む力が求められます。責任感とリーダーシップも必要です。これは起業家に必要な資質と同じ。そうしたリーダーのいる組織が増えれば日本経済は活性化し、国は強くなります。

佐藤 そうですね。私たちも応援を続けていきましょう!

折口雅博と佐藤有美
折口雅博と佐藤有美
「長年一緒に仕事をする仲間がいる。その見えない絆に感動します」(佐藤)