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未登録電話番号の表示で架電、着信双方にメリット -nafuda 山根裕輔

山根裕輔

シリコンバレーで起業し、ベンチャー企業や投資家に関する豊富な情報を武器に活躍するハックジャパンCEOの戸村光氏。本連載では、独自の視点から同氏が注目する企業を毎回取り上げ、その事業戦略や資金調達の手法などを解説する。今回の注目の経営者は、未登録の番号から着信した際に、発信側の氏名と連絡の目的を表示させるサービス「nafuda」を運営する山根裕輔代表取締役だ。(雑誌『経済界』2022年7月号より)

山根裕輔
山根裕輔

業務委託の電話番号と会社名も表示可能に

 山根氏は新卒で船井総研に入社。数多くの中小企業コンサルに従事してきた。その中で支援先で中小企業の多くが取引のない企業に電話営業することを目にして、もっと効率的な営業手法はないのかと模索してきた。その非効率なセールス手法で結果を出せない社員を厳しく指導して時には組織が崩壊するケースも目にしてきたからだ。大量に電話をかけるのは根性論だが、電話を取ってもらえる確率に根性論は通用しない。そこを効率化して支援先企業の営業をストレスから救いたいという思いが次第に強くなっていった。

 シリコンバレーではセールスオートメーションツールとしてセールスフォースが有名だが、DXも不十分で、ITリテラシーの低い中小企業にいきなり、そのような高価格(使い方次第で1億円以上する)なツールを導入しても、活用できない。そこで日本ならではの業務効率化ツールを作ろうと構想したのが、nafudaで、特許も取得した。

 山根氏が船井総研から独立後、まず初めに創業したのは電力会社だった。2016年の小売り電力の自由化を見据えて15年に創業。生まれ故郷の滋賀に貢献したいと思い、滋賀で唯一の新電力会社を立ち上げた。最初は固定電話から知らない番号に営業活動を行う毎日。しかし全くうまくいかなかった。

 そうした経験を経て、電話の発信元が誰で、どんな理由でかかってきたかを理解されれば、効率が上がることに気づいた。そこで船井総研時代に学んだ販売代理店制度を構築し、以前から営業先と交流のある代理店から連絡を入れるようにしたことで成約率が上昇した。この会社が年商5億円規模になるまで成長した段階で、大手電力会社に売却。21年、株式会社nafudaを設立、サービスを開始した。

 nafudaでは電話番号を登録する会社の業務委託先や下請け会社までグループ化して同じ会社名として電話着信時に記載することができる。例えばアマゾンで注文した際に、アマゾンと契約する大手の配送会社の名前が注文完了ページに記載されていることが多い。しかし実際に配送するのは下請けの無名の会社だ。その宅配業社から電話があっても、知らない会社からの電話だからといって出ないケースも少なくない。そこでnafudaを使えば、注文完了ページに記載されている委託元の大手配送会社の電話番号や社名を表示することが可能になる。

 nafudaはAPIをオープン化しており、他社サービスとの連携も拡大することで利用用途の範囲は大幅に拡大可能となる。例えば、市役所がこのAPIを利用し、住民専用アプリに組み込めば、市役所からの着信であることを明示できる。これにより市役所の名を語ったオレオレ詐欺や特殊詐欺から住民を守ることができるという。

 ターゲット顧客は、再配達を減らしたい運送事業者やドライバー、行政手続き等の連絡の必要がある自治体や公的機関、連絡を待っている顧客を持つ企業だと山根氏は語る。電話が一度でつながらないという非効率を改善し、再配達や再架電のためのコスト削減を実現する。ビジネスモデルは電話をかける側から1番号あたり500円を徴収する。受信側はアプリを無料ダウンロードするだけで、即サービス利用可能だ。

社会的弱者を救う画期的なシステム

nafuda 特許(一部)
nafuda 特許(一部)

 同社のサービスを聞いて類似サービスを聞いたことがあるという読者も少なくないだろう。しかし、これまでの迷惑電話防止ツールは着信側が迷惑電話を受ける度に、課金される仕組みだった。いわばお金を騙しとられる側が課金される設計という、社会的弱者に優しくない仕組みだった。そのためユーザーが増えず、迷惑電話が蔓延する状況となっていた。しかし同社は電話を発信する側に課金するようになっており、受信側は一切、費用を支払う必要はない。米国では、iyaという同様のサービスを提供する会社があり、同社は既に約18億円を資金調達している。

 コロナ禍で在宅ワーカーが増えたこともあり、迷惑電話の被害が増え、20年度は1万3550件、被害額は285億円に達した。電話は人類の進歩に大きく貢献した、優れたコミュニケーションツールでありながらも、詐欺や悪徳商法に関与する者が悪用することで、脅威のツールとなる。そのため今では知らない番号は出るなという慣習も生まれてきた。山根氏の挑戦には、電話という優れたツールからネガティブな要素を無くすことで、社会的弱者を救い、コミュニケーションを再構築したいという思いが込められている。

 5Gの世界が進み、これまで以上に大量の情報を受け取る時代となった。またコロナ禍によりフェイストゥーフェイスで対話する機会が減り、非接触型のコミュニケーションの重要性がさらに増す一方で、落とし穴も増えている。nafudaの画期的な技術によって詐欺が撲滅される未来を願ってやまない。

hackjpn CEO 戸村光氏