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EV専用ブランドとなるレクサスの失敗できない戦い

EVシフトが進む自動車業界。世界一メーカーのトヨタ自動車も、その流れには逆らえず、2035年には高級車ブランドであるレクサスを全車EV化すると宣言、EV化路線をひた走る。ガソリン車からEVに替わってもトヨタは世界市場の覇権を握り続けることができるのか。文=ジャーナリスト/伊藤憲二(雑誌『経済界』2022年7月号より)

HV、FCEVからEVへと大幅シフト

 4月20日、トヨタ自動車の高級車ブランド、レクサスの欧州ディビジョンが新しいEV(電気自動車)「RZ」を発表した。

 トヨタの代名詞と言えば25年前の1997年に発売した「プリウス」に始まるハイブリッドカー。電気モーターとエンジンを併用して走る車だ。また、水素をエネルギー源とするFCEV(燃料電池電気自動車)の開発にも熱心で、2014年には「MIRAI」を市販している。

 しかし、16年に気候変動防止のための国際協定であるパリ協定が締結されて以降顕著になった蓄電池式EVへの転換の波には乗り遅れた。トヨタはEVに熱心ではない、後進的というイメージがついてしまっては死活問題ということで、昨年秋には30年にグローバルで350万台のEVを販売するという目標を発表。EV重視の姿勢に転換した。

 トヨタがEVを市販するのは初めてではない。20年にはレクサスから同社初の市販EV「UX300e」を発表している。しかし、1回の充電で走れる距離が実際の使用時で300kmないしそれ以下と短く、充電にも時間がかかることからほとんど存在感を示せなかった。巻き返しを図るべく、今年に入ってトヨタブランドから大型のバッテリーを積むことで航続距離や充電速度を上げた「bZ4X」を発表した。

 RZはそれに続くトヨタのEV第3弾だが、このモデルはトヨタのEV巻き返し以外に重要な使命を担っている。30年に350万台というEV販売目標を発表した時、トヨタはレクサスを35年をめどにEV専用ブランドにすると表明した。販売目標は年間100万台。あと13年で完全EV化を達成しなければならない。

 UXのEVが鳴かず飛ばずだったことで、レクサスのブランド力がバックにあればEVが売れるというものではないという現実に直面したトヨタとしては、このRZを再び失敗に終わらせることだけは断じて避けたいところである。

米テスラとの全面戦争が始まる

 レクサスのEV専用ブランド化は、実は高級車市場で生き残るうえでの喫緊の課題である。理由はふたつある。大前提は前述のパリ協定だ。高級車は一般に車体が大きく、重い。また富裕層の顧客を満足させるため、大きな出力の原動機を積んでいる。普通のガソリンエンジンやディーゼルエンジンはもちろんのこと、「特に高級車の場合、ハイブリッド技術を用いても20年代半ばに大幅に強化されるCO2排出規制を乗り越えることはきわめて困難」(次世代エネルギー関連のエンジニア)だという。

 CO2規制をパスできる技術は今日、EVとFCEVがある。トヨタがこれまで推してきたのはFCEVだが、「FCEVの場合、高級車のユーザーを満足させられるような速さを持たせるには燃料電池を今より大型化するか、複数搭載しなければならない。その燃料電池は貴金属を大量使用するため、どうしても原価が高くなる。EV用のバッテリーが高価だった時代はFCEVが乗用車のC
O2ソリューション技術として有力だったが、バッテリーのコストが下がるにつれて優位性を保てる見通しが立たなくなってきたというのが正直なところ。また燃料補給を行う水素ステーションの建設も進んでいないし、水素の価格も高い。トラックや鉄道など商用部門では依然として有望技術だが、乗用車を手っ取り早く低CO2化するにはEVが合っている」(前出のエンジニア)。

 世界の自動車業界を見回すと、スウェーデンのボルボが30年、イギリスのジャガーが25年等々、多くの高級車ブランドが近未来にEV専業ブランドになると宣言している。そうしなければCO2規制に対応できず、事業継続が不可能になると考えられているからだ。

 高級車の場合、もうひとつEV専業化の動機がある。それはEVにしないと車としての商品力を保てないというものだ。

 その流れを作ったのはアメリカのEVメーカー、テスラである。初の自社生産EV「モデルS」を発売したのは12年だが、「その商品性は世界の自動車メーカーを震撼させた。恐ろしいほどの加速性能と驚異的な静かさを持ち、それでいて価格は同じクラスのエンジン式高級車より安い。あまりのことに当時は永久に採算割れなのではないかなどと言われたが、もしこれで採算が取れるようになったら、他の高級車メーカーもEVにしていかなければ太刀打ちできなくなることは明白だった。今日、高級車メーカーの多くがEVの新商品を続々市場に投入しているが、この動きは10年代半ばには既に決定づけられていた」(ドイツ系高級車メーカー幹部)。

 このふたつの理由により、高級車市場においては30年代には大衆車市場に先駆けてEV一色になると考えられている。レクサスをEV専用ブランドにすると判断したのは、至って合理的な判断と言える。

ライバルも認める力の入れ方

 ではRZは新生レクサスのブランド力の形成に寄与する商品なのか。

 車のタイプはSUVと呼ばれるもの。路面と床の距離が大きく、オフロードや雪道などを余裕を持って乗り越えられることから、現在世界で流行している形である。車幅1・9メートルという恰幅の良い車体寸法は北米で高い人気を博しているレクサスのSUV「RX」とほぼ同じで、車高のみやや低い。まさに高級車の売れ筋の真ん中から攻める格好だ。

 車を構成する主要部品はトヨタブランドのbZ4Xと共通の「e-TNGA」と名づけられたEV専用のもの。レクサスは過去にはトヨタ車と別仕様のシステムを使って作られていたこともあったが、近年はトヨタ車との共通化が図られるようになった。レクサスは伝統的にメルセデスベンツ、BMW、アウディのドイツブランドより低価格で良い高級車が買えるということをセールスポイントとしてきたことから、EVでもトヨタブランドモデルとの共通化を図ることで価格競争力を確保する方針を堅持したとみられる。実際、北米での税抜き最低価格が4万6645ドルという設定は他のラグジュアリーブランドに比べて大幅に安い。

 EVに求められる先進性も十分に考慮されており、飛行機の操縦桿のような円形でないハンドルが設定される。ハンドルとタイヤが機械的に接続されておらず、ハンドルの操作をセンサーが検知し、電気モーターで前輪を動かす方式で、ハンドルをぐるぐる回さずに運転できるというものだ。ほか、渋滞時の半自動運転機能「レクサスチームメイト」、オンラインでの車のソフトウエアアップデートなど、最新の高級車用装備は一通り備わっている。

 そしてEVユーザーにとってきわめて重要な性能である航続距離と充電性能はUXから大幅な向上が図られている。カタログ上の航続距離は450キロメートル、実際の使用でも400キロメートル前後が期待できる。充電性能もUXの最大3倍の速度で充電可能となった。

 「もともとトヨタはバッテリーを含む電動化、情報通信、安全システムなど、多くの分野で非常に高い技術力を持っている。仕様を見る限り、それらを意欲的に投入している」

 EV分野ではトヨタに10年以上先行している日産自動車関係者は写真や諸元を見ただけでは分からないと前置きしたうえでこう語った。少なくとも相当の力作であることは間違いなさそうだ。

 一方で、レクサスのブランド戦略の不明瞭さを指摘する声も聞かれる。

 「EVでは後発であるトヨタが出すレクサスEV専用車が安い割に高性能という程度でいいのか。確かに性能は十分に出ている。他社の同クラスの標準モデルと比較すると安くて速くて先進的かもしれない。しかし、それはあくまで標準モデルとの比較で、彼らはそれよりはるかに高性能なバージョンを豊富に揃えている。レクサスが本当の意味で高級車ブランドを目指すのであれば、安いところから攻めるという戦略はあまりうまくない」

 レクサスを長年手掛けたトヨタOBは、EV化はレクサスを一皮剥けさせるいい機会だったのにと口惜しそうに語った。

 レクサスのEV専用ブランド化は始まったばかり。トヨタは果たしてレクサスをどのようなブランドにしたいのか。その本意は今後繰り出してくるであろう二の矢、三の矢を見ることによって、次第に明らかになってくるだろう。