経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

第3回 小学生のドット絵が2,700万円!? NFTをビジネスにする際のポイント -足立明穂

足立氏

【連載】NFTが変える経済とビジネス

昨年9月に小学生の描いたNFTのドット絵が2,700万円で取引されたというニュースが話題となりました。もっとも、これは単にNFTのアート作品にしたから売れたわけではありません。しっかりとしたコンセプトメイキングや母親の人脈を使ったPRで人気が出たのです。今回はNFTをビジネスに利用する際のポイントについて説明します。基本的だからこそ手を抜かないようにしましょう。(文=足立明穂)

足立明穂氏のプロフィール

足立氏
足立明穂(あだち・あきほ)。ITビジネスコンサルタント。1962年京都府生まれ。Windows95の登場前にアメリカのシリコンバレーに出向し、黎明期のインターネットに触れ、世の中が激変すると確信。以降はインターネット関連のベンチャー企業を転々とする。ブロックチェーンやNFTなど最新の技術の説明に定評があり、企業や商工会議所での講演多数。NFT専門家としてテレビ番組等でも活躍。著書に『だれにでもわかるNFTの解説書』(ライブ・パブリッシング https://amzn.to/3rGkmSy)ほか。Twitter: https://twitter.com/TanishiNishi

なぜ小学生のドット絵が高値で取引されたのか?

 昨年9月に、小学生の描いたドット絵が2,700万円(当時の換算)で取引されたというニュースを覚えているでしょうか? その小学生のお母さんが書いたnote記事が元になって、あちこちのウェブメディアで記事になりました。

■8歳の息子の自由研究NFTが1.2イーサリアム(52万円相当)で取引され完売になった話

https://note.com/emikusano/n/n8394ea655021

 ついつい小学生が描いたドット絵と2,700万円という高額に注目してしまい、小学生の子供を持つ親は「なんだかNFTってすごいぞ! うちの子でも……」と、捕らぬ狸の皮算用をしたのではないでしょうか。ただ、インタビュー記事、テレビのニュース、またその子の母親でありアーティストの草野絵美さんをよく知る人たちの話を俯瞰してみると、そんな単純な話ではないことが分かってきます。

 草野絵美さんは東京芸大で講師をするアーティストで、自らもNFT作品を出品されています。元アイドルで人気を集めることの難しさも、よく分かっています。友人にはアーティストで東京美大准教授スプツニ子さん、ミュージシャンのコムアイさんなど、アートや芸能関係の人脈があります。父親もアートのイベントでプロデュース関係の仕事をしていて、家庭内でNFTの話などもしていたそうです。そんな話を聞いていた子供が、「僕もやりたい!」と言い出したのが始まりです。こんな環境であることを知ると、そもそものスタートラインが違うって気が付きますよね。

 さらに、息子さんが絵を描くにも「ゾンビになった動物」というコンセプトを立て、その中で作品をつくっていきます。子供が好き勝手に描いていると、車だったり、動物だったり、風景だったりと、バラバラになっていきます。しっかりとコンセプトメイキングすることで、統一性があり、「ゾンビになった動物の絵」といえば「Zombie Zoo(ゾンビー・ズー)」というブランドを創り上げているのです。

 そして、NFT作品を出品してから母親の草野絵美さんは、NFTが好きな人たちが開催しているTwitterスペース(オンラインで複数人が音声会話できるサービス)に参加して、自分の息子がNFT作品を出品したことをアピールします。日本語だけでなく国外のTwitterスペースにも参加し、その数100回以上! とんでもない行動力です。

 こういう行動をしているからこそ、NFTコレクターの有名人にも噂が耳に入り、面白そうだからと購入され、それがさらに他の人たちに知られることになって高値になっていきます。

このようなバックグラウンドをしっかりと分析しておかないと、「小学生の絵でも売れるのだから……」と早合点してしまうのですね。

NFTにしたからといって、何もなしに売れるわけではない

 NFT作品が高値で売れるといったことで、なんとなく「NFTにすれば高値になる」と魔法の杖のように思ってはいないでしょうか。実際は、この小学生の絵のようにしっかりとコンセプトメイキングして、広告宣伝活動をしています。そして、大人でもない、アーティストでもない「小学生」が描いた「ゾンビになった動物」のドット絵という点からはブレることなく、希少性がNFTによって商品となっているのです。

 この連載第1回「NFTは世の中の何を変えたのか? これから何を変えるのか?」でも書きましたが、NFTにおいては希少性が重要な要素。その希少性をどのように見せるのか、どうその価値を高めていくのかというマーケティング的思考をしなければうまくいきません。だからこそ、最初に「僕もやりたい!」と言った時に、しっかりとコンセプトメイキングしている点が重要で、ここを分かっていないとNFTをビジネスに利用することなどできません。事実、数えきれないほどの商品がNFTで販売されていますが、売れていないものも数多くあります。

「店舗をつくる」と「店舗にお客さんを集める」は違う

 ビジネスをやっていれば当たり前すぎることなのですが、「店舗をつくること」と「店舗にお客さんを集めること」とは全く違うというのは言われなくても分かります。ところが、NFTになった途端に、この区別ができなくなる人が少なくありません。NFT商品をつくったところで勝手にお客さんが集まるわけもなく、どこで販売しているのか、何を販売しているのかを宣伝広告しなければなりません。さらに、その「NFT商品の希少性を伝えること」も必要です。

 これはNFTに限らずリアルの商売でも同じことです。例えば、「本日のおすすめは、地鶏のから揚げ定食です」と伝えるのか、「本日のおすすめは地鶏のから揚げ定食で、放し飼いで生育した地鶏なので、歯ごたえもあって、コクのある味でありながらも、ジューシーなのですよ」と伝えるのかで、同じ定食でも食べた時の感想が違ってきます。

 NFTをビジネスに利用するには、どうしても新しい技術なので「NFTにする方法」を知りたがる人が多いのですが、そんなことは専門の業者に任せればいいのです。それよりも、NFTにする意味や、自社の商品の希少性はどこにあるのか、何が購入者にとって嬉しいのかをしっかり考え抜くことが重要です。

 店舗をつくるのに、セメントのこね方やカンナの使い方など勉強しようとする人などいません。同じようにNFTのつくり方などは分からなくても大きな問題ではなく、NFT商品をどのように売り出すのかについて真剣に向き合うようにしましょう。