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【航空業界】搭乗者はコロナ前の8割 待たれるGo To トラベルの再開

特集_航空

新型コロナウイルスの大流行で、一時は旅客数が以前の1割にまで落ち込んだ航空業界。しかし感染者数の鎮静化とともに、徐々に客足が戻ってきた。夏休み、秋の観光シーズン、そして年末年始へと期待が膨らむ。文・聞き手=関 慎夫(雑誌『経済界』2022年8月号より)

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ゴールデンウイークの利用者は前年比2倍

 「ゴールデンウイークは久々に空港がにぎわった。懸念された連休後の感染者数急増も避けられた。このままいけば、夏はもっと期待できる。第7波がこないことをひたすら願っている」と語るのは、羽田空港で働くANA関係者。コロナのピーク時に比べればはるかに忙しくなったが、「この忙しさが嬉しい」という。これは航空業界に携わるすべての人の気持ちだろう。

 国内線のGWの旅客数は、ANAが前年比88・4%増の95万8724人。コロナ前の19年比でも63・1%だった。搭乗率は65・2%で、90%を超える日もあった。JALの搭乗者数は、前年比131%増の91万6376人、19年比で61・2%だった。搭乗率は68%で、ピーク時には8割を超えた。大手2社にLCCなど8社を加えた計11社の搭乗者数は、前年の2倍を記録している。

 国際線も好調で、前稿にもあるように、ANA、JALともに昨年の4~5倍の旅客を運んだ。ただしこの数字は、海外から日本を経由し、第三国へ行く接続需要も含まれているため、単純に日本へのインバウンドが増えたわけでもないが、それでも、世界中で多くの人が動き出したのは間違いない。

 実はGWに突入する前は、航空各社ともに不安を抱えていた。3月21日に「まん延防止等重点措置」が解除されたものの、予約数が思ったようには伸びていなかったためだ。これは、度重なる緊急事態宣言やまん防のため、利用者がぎりぎりまで申し込みを遅らせたためで、実際には直前になって座席が埋まっていき、実際の搭乗者数は事前予想を上回った。

 このように、航空需要は着実に回復しているように見えるが、まだ「完全復活」とはいかないようだ。日本航空路線事業戦略部部長の内藤健一郎氏は次のように語る(インタビュー参照)。

 「搭乗者の数は戻ってきていますが、帰省需要が多く、旅客需要はまだまだです。中でも地方の方にその傾向が強く、地方から東京へ観光に来る動きが弱い。減っているとはいえ東京都では千人単位の感染者が出ていた。それが連日報道されていたのだから、東京に観光に行こうという前向きのマインドにはまだなっていない」

 しかし5月半ば以降、感染者数の減少が加速している。この状態が続いて「感染者が多い=東京怖い」のイメージも薄まっていけば、この夏はさらに多くの人が飛行機を利用する。前出・内藤氏は「7~8月は80~90%を期待したい」という。

 さらに今後は「Go To トラベル」の復活も待っている。岸田首相も「適切な時期に迅速に再開できるよう準備を進めていきたい」と語っていることからも分かるように、再開は確実だ。時期については最短で7月、恐らくは秋スタートとなる見込みだが、一昨年に第一弾が実施された時には、3千億円以上の割引が行われ、5千万人以上の人が利用しただけに、「Go To トラベル2・0」が実施されれば、その時以上の成果を上げる可能性がある。

GoToトラベル再開で始まる「民族大移動」

 「1・0」の時の利用者は若い人が多く、高齢者は感染を恐れ、動いたとしても近場ばかりだった。しかし当時と今とでは、コロナに対する恐怖心はまるで違う。オミクロン株が感染力は強いものの重症化率が低かったこともあり、持病がなければそれほど恐れる病気ではなくなりつつある。それが人々の旅行マインドを刺激する。

 「2・0」がいつからいつまで実施されるか現時点では不明だが、秋の観光シーズン、そして年末年始まで続くことになれば、2年分の鬱憤をぶつける形で民族大移動が起きる可能性がある。それに向けて航空会社は増便すべく準備を進めている。

 国際便の利用者も、増えることはあっても減ることはない。世界各国で規制緩和が進みつつある。日本も6月から1日の外国人入国者数の上限を1万人から2万人に引き上げた。しかもこれまでは観光目的の入国を拒否していたが、2年ぶりに再開した。今後も上限の引き上げは続く見込みで、そうなれば円安効果もあり、多くのインバウンドが訪れる。

 ただし、日本から海外への観光客は、円安による海外の物価高からそう大きくは伸びそうにない。その分、国内旅行を楽しむ人が増えるため、それが国内航空需要を後押しする。

 2年前にパンデミックが起きて以来、航空業界は塗炭の苦しみを味わってきた。今後も第7波、第8波に襲われるかもしれない。しかしこの2年の経験で、コロナとの向き合い方も分かってきた。上昇気流に乗るのはもうすぐだ。

夏休みはコロナ前比9割を期待する

内藤健一郎 日本航空路線事業戦略部部長

―― 直近の旅客数の推移は。

内藤 昨年秋、第5波がおさまってから回復し、年末はコロナ前の70%ほどでしたが、第6波により2月には30%にまで落ち込みました。しかし、春休み頃から徐々に旅客数は戻ってきて、ゴールデンウイークの対2019年比は81%でした。この勢いはその後も続いていて、6月の対コロナ前比は予約ベースで70%台半ばです。夏休みの予約も順調で、このままいけば80~90%の水準まで回復するのではないかと期待しています。

―― コロナ前との客層の違いは。

内藤 量はしっかり戻っているけれど、観光目的のお客さまは戻りきっていません。特に東京から地方への旅行に比べ、地方から東京への旅行需要が低く、地方発午前便の搭乗率は他の便に比べ少なくなっています。

 ビジネス客も以前の水準まで戻っていません。やはりオンラインミーティングが定着したことも影響しているようです。しかしその一方で対面の良さを再認識する動きも出てきており、今後行動が変わる可能性に期待しています。

 ただ、コロナ前に完全に戻ることは難しいと思っていて、8割ぐらいの戻りがニューノーマルだと考えていく必要があると思います。

―― 今後はGoToトラベルも再開される。

内藤 GoToトラベルの再開は、人の移動に関して政府にお墨付きをいただいたということを意味します。これにより、人々のマインドは大きく変わり、遠出しようという機運が高まってきます。

 人の移動は必ず消費が伴います。ですから経済に与える影響も大きい。日本経済の一翼を担っている自覚をもって、今後の利用者の増加に備えたいと考えています。