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ウクライナ危機

グローバルニュースの深層

ウクライナ危機をめぐり国際秩序を乱すロシアの帝国主義的発想

 

 ウクライナ危機が国際秩序を大きく変化させる可能性がある。

 欧米の報道だけを読んでいると、ウクライナの現政権は、親露派で非民主的なヤヌコビッチ前大統領の圧政に対して立ち上がった民主主義者であるという印象を受ける。米国政府が完全にこのような立場を取っている。

 3月12日、米国のオバマ大統領はホワイトハウスにウクライナのヤツェニュク首相を招き会談した。〈オバマ氏は会談後に「われわれはウクライナ側に立つ」と記者団に語り、米国がウクライナの主権と領土保全に協力する考えを示した。クリミア情勢については、「問題は、ロシアが軍事力で他国の地域を支配し、いい加減な住民投票をたくらんでいることだ」と指摘。ロシアが事態を収めなければ「ウクライナへの侵略に対して国際社会は代償を求める」と明言した。/ヤツェニュク氏は「われわれは自由と独立、主権のために闘っている。決して屈しない」と強調。将来の欧州連合(EU)加盟に向けた「連合協定」の政治部分に署名することで「西側諸国の一員となる」と述べた。〉(3月13日「朝日新聞デジタル」)。

 オバマ大統領の認識は、半分正しいが、半分は間違えている。

 ロシアがウクライナの主権を無視していることは間違いない。ロシアの論理は、「ロシアにとって死活的な国益が毀損されるおそれがある場合、近隣諸国の主権は制限される」という制限主権論だ。こういう帝国主義的な発想は、既存の国際秩序を著しく混乱させる。

 他方、クリミアの大多数の住民が、ウクライナの新政権を支持せず、ロシアの庇護を求めていることも間違いない。3月4日のロシア国営ラジオ「ロシアの声」はこう報じた。

〈2013年末、ウクライナでまた「色の革命」が始まった。この引き金となったのは選挙によって法的に選ばれたウクライナのヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領によるEU協定への署名拒否だった。西側の政治家とマスコミは、ヤヌコーヴィチに署名拒否を強いたのはプーチン大統領だと書きたてた。だが実際のところ、恐らくはヤヌコーヴィチ自身、EUと極めて不利な条件で協定を結ぶことでウクライナの農業、工業企業は破綻に追い込まれ、ウクライナ人はEU諸国で安価な労働力を提供するガストアルバイターに成り下がってしまうと認識したからだろう。

 これと似た状況は既にモルダヴィアで、バルト諸国で、旧ユーゴスラビア共和国で生じている。だが、マスコミや政治家に未来のEUでの美しい生活を吹き込まれたウクライナ市民はキエフの中心広場に出て、ヤヌコーヴィチに抗議の声をあげてしまった。これを西側諸国は利用した。当初は穏やかだった抗議集会は急進的なものへと姿を変えた。キエフへはウクライナの国粋的な組織から武装戦闘員らが派遣されてきた。こうした者らが英雄と讃えるステパン・バンデラとは、第2次大戦中にナチス・ドイツに協力したウクライナ人国粋主義者だ。バンデラの武装戦闘員らは占領されたテリトリーで数十万人もの「非ウクライナ人」、つまりポーランド人、ロシア人、ユダヤ人を殺害した。バンデラ主義者の残虐行為の犠牲者となったのは婦女、老人たちだった。

 今、キエフに跋扈するバンデラ主義者の信奉者らは流血の惨事を起こし、武器を持たない警官らに対し火炎瓶を投げつけ、治安維持部隊に暴力をふるい、銃を乱射している。ウクライナ政権に殺戮の罪をかぶせるために。そしてこれらすべてを西側のマスコミ、政治家らは「穏健な抗議」と呼んだ。生命の危険を覚えたヤヌコーヴィチがキエフから逃げ出した後、反体制派はあらゆる法的プロセスに違反して、新政府を樹立し、これに国粋主義者らの代表が入った。誰にも選ばれることなく政権の座についた者たちが最初にとった決定のひとつが、ウクライナでロシア語の使用を禁止することだった。これはロシア人が人口の半数以上を占めるクリミア自治共和国およびウクライナ南東部で激しい怒りを招いた。〉(http://japanese.ruvr.ru/2014_03_04/268044483/)

 

ウクライナの危険性を過小評価する米国とEU

 

 「ロシアの声」は国営放送なので、政府の方針に反する内容の報道はしない。

 しかし、ここで語られている内容は、事実無根のプロパガンダではない。第2次世界大戦において、〈ソ連軍の中にはウクライナ人二〇〇万人が含まれていたし、ドイツ軍の中にも三〇万人のウクライナ人が含まれており、同一民族が互いに敵味方になって戦った〉(黒川祐次『物語 ウクライナの歴史』中公新書、2002年、234頁)。

 このナチス・ドイツ軍に加わったウクライナ人はユダヤ人虐殺に積極的に荷担した。ロシアが、今回、ウクライナの権力を奪取した中に、「バンデラ主義者」、すなわち一時期、ナチス・ドイツと提携し、第2次世界大戦後は、西ドイツに亡命してウクライナ独立運動を展開したステパン・バンデラ(1909〜59)の崇拝者がいるのは事実だ。

 米国やEUは、ウクライナ現政権の危険性を過小評価している。

 

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