経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

カラーに口紅

オバマ大統領の英語

オバマが壇上に上がると、彼の襟元に真っ赤な口紅が目立った。Asian Pacific American Heritage(APAH)アジア太平洋系米国人の文化遺産を継承していこうという国立スミソニアン博物館(Smithsonian Museum)肝入りの行事でスピーチしようとした時のことだ。

 オバマは大統領になる前に口紅(Lipstick)問題を起こしている。大統領候補のマケインと副大統領候補のペイリンに対して、まだ大統領候補にすぎなかったオバマはこう言い放っている。

“That’s not change.

〈それは変革とは言えない〉

That’s just calling something the same thing something different.

〈それは同じことを違う名前で読んでいるにすぎない〉

You know you can put lipstick on a pig, but it’s still a pig. ”

〈豚に口紅を塗っても、それはまだ豚なのである〉

 この「豚に口紅」発言を、マケイン陣営は、ペイリン女史に対する侮辱だ、女性蔑視だ、と猛反撃してきた。ペイリンは口紅を引いた豚なのか? 確かにlipstick on a pigというという表現は、豚のように醜いものに化粧してみても無駄だ、という意味の慣用句だが、豚にも失礼ならペイリンにも失礼なので、大統領となった現在のオバマなら、もう使わない侮蔑的な表現である。

 

さて、上記アジア太平洋文化記念月間のパーティーに出席し、白いワイシャツの襟に口紅を付けたまま壇上に立ったオバマは開口一番こう言った。

“I want to thank everybody who is here for the incredible warmth of the reception.

〈本日は驚くほど温かく迎えてくださった皆さまに感謝します〉

A sign of the warmth is the lipstick on my collar,”

〈その温かさの証しが、この私の襟元の口紅です〉

 Lipstick on my collar(私の襟の口紅)というのは1960年代の人気歌手コニー・フランシス(Connie Francis)のヒット曲「カラーに口紅(Lipstick On Your Collar)」を想起させる。

Lipstick on your collar

〈あなたの襟元の口紅〉

Told a tale on you

〈それがすべてを物語る〉

Lipstick on your collar

〈襟の口紅〉

Said you were untrue

〈あなたの不実を語ってる〉

 全米ビルボード5位になったこの歌を想起した聴衆も多かったろう。コニー・フランシスの歌は日本でもカバーされて青山ミチ、伊東ゆかり、金井克子、弘田三枝子、安村昌子、中尾ミエがヒットさせた。

 さて、オバマは壇上から聴衆を見渡して、ある一点、「口紅犯」を指差すに至ったのである。

 

 

[今号の英語]culprit
culpritというのは審理を待つ容疑者で、通常は無罪を主張している。あるいは、単に、犯人、という意味で使われる。オバマが「カラーに口紅」の弁明に使った以下のculpritは、犯人、という意味である。
 オバマはこう続けた。
“I have to say, I think I know the culprit.
〈犯人は分かってます〉
Where’s Jessica Sanchez? ”
〈ジェシカ・サンチェスはどこにいます?〉
 とオバマは会場を見渡した。大人気オーディション番組「アメリカン・アイドル」で準優勝したジェシカ・サンチェスかと思うと、こう付け加えた。
Jessica it wasn’t Jessica, it was her aunt, where is she?
〈ジェシカ……ではなくて、彼女の叔母でした、今どこかな?〉
“Auntie, right there.
〈叔母さん、ああそこにいた〉
と観衆の中から犯人を見つけると、襟をぐいと引っ張って、口紅の痕を向けた。
“Look at this.
〈見てください、これです〉
I just want everybody to witness.
〈私はただ、多くの人に目撃していただきたかったのです〉
I do not want to be in trouble with Michelle, that’s why I’m calling you out right in front of everybody.”
〈妻ミシェルと後でいざこざが起きないように、今ここで皆さんに確認していただきたかったのです〉
 謹厳実直なオバマだからこそのジョークで、これがルインスキー事件で弾劾裁判になりかけたクリントンだったら冗談では済まされないところだった。 

 
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