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相次ぐ不祥事で執行部総退陣に追い込まれた全日本柔道連盟。改革の〝本丸〟は講道館にあり

二宮清純の「スポーツ羅針盤」

不祥事続きで辞任に追い込まれた全日本柔道連盟の上村春樹会長

不祥事続きで辞任に追い込まれた全日本柔道連盟の上村春樹会長(写真:時事)

 追い込まれての執行部総退陣表明である。なぜ、もっと早く決断できなかったものか。

 パワハラにセクハラ、助成金の不正受給に不正使用と相次いで不祥事が表面化した全日本柔道連盟。そのトップである上村春樹会長は当初、10月を辞任のめどとしていたが、8月に前倒しすることを明言した。

 上村氏が辞任時期を前倒ししなければならなかった最大の理由は公益法人の基準を満たしているかどうかを判断する内閣府からの組織改革勧告である。

 「度重なる不祥事は公益法人の資格要件に大きく抵触している」

 これは内閣府公益認定等委員会・山下徹委員長の弁だ。内閣府の意向に従わない場合、公益法人の認定取り消しも考えられ、そうなれば税制面での優遇を受けられなくなる。これは全柔連にとっては死活問題だ。

 内閣府に改革に関する報告書を提出する期限は8月末。それまでに新体制をスタートさせなければ、お上の理解は得られないとの判断が、総退陣表明につながったようだ。遅きに失したきらいがある。

 これについては毎日新聞(7月31日付)に紹介されたJOC理事の山口香氏の見解が一番、的を射ているように思われる。

 「国は最初からドカドカと土足で入ってきたわけではない。呼び出しを受けるなど、けん制球はあったのに改革が進まず、国自体が『こんな組織に税金を優遇する国の管理はどうなっているのか』と、世間の矛先が向くのを感じたから動いたのだろう」

 内閣府は全柔連に「自浄能力がない」と判断した時点で、強い態度に出ざるを得なかったのだ。

 現執行部に対する不満の声は、内部からも上がっていた。その筆頭が千葉県柔道連盟会長(7月末に辞任表明)の了徳寺健二氏である。

 「クリーンハンドの原則があるでしょう。汚れた手で改革はできない。上村会長は強化委員長の時から不正にお金をプールしてきた。暴力問題でも強化委員長や女子代表監督の任命責任がある。眼力がなければリーダーは務まらない」(朝日新聞7月19日)

 指摘のとおりだが、問題は誰に後を託すかだ。

 実績、人間性、世界的な知名度という点ではロス五輪無差別級金メダリストの山下泰裕氏が筆頭だが、彼は不祥事続きの全柔連の理事でもある。

 了徳寺氏も「山下さんの見識は素晴らしいが、執行部の総退陣を要求している以上、次期会長というわけにはいかない」と語っていた。

 そこで、全柔連の一部の幹部からは、こんな声が上がっている。

 「確かに、いきなり山下というわけにいかない。ならば、しばらくの間は全柔連とは関係ない人物、例えば柔道経験のある財界の大物などに改革を託し、組織がきれいになってから山下に登場してもらってはどうか」

 それも一案には違いないが、意地悪い見方をすれば「柔道界には改革のできる人物はひとりもいません」と言っているようなものだ。

 苦境に立たされた今だからこそ「私が改革の先頭に立つ」というリーダーが必要なのではないか。

 リーダー不在に加え、もうひとつ気になる点がある。それは上村氏が全柔連の会長は辞めても講道館館長は続投すると語っていることだ。

 この点を質された上村氏は朝日新聞(7月19日付)のインタビューでこう語っている。

 「二つの組織は違います。全柔連は競技の統括団体。講道館では研究機関などを充実させたい。全柔連へのバックアップは必要だが、組織がスムーズに動くなら、全柔連の理事に残ろうとは思っていない」

 果たして、そうだろうか。確かに組織上は講道館と全柔連は別法人だ。「二つの組織は違う」と言われれば、そのとおりだ。

 しかし、段位を認定するのは講道館であり、講道館を「本家」にたとえるなら全柔連は「分家」のような存在だ。

 上村氏が全柔連の会長職を辞したからといって講道館館長の座にとどまれば、当然、影響力は残る。仮に全柔連の新しいリーダーが講道館との関係にメスを入れようとした場合、最大の抵抗勢力になる可能性もある。

 反執行部派の理事も、その点を一番、心配していた。

 「実は改革の本丸は講道館。多額の入門料が適正に使われているのか、それを一度、精査する必要がある。坂本竜馬ではないが日本を、いや柔道界を〝今一度せんたく(洗濯)いたし申候〟という機運が登り上がってこない限り、この組織の改革は難しいと思います」

 柔道家は誇り高き生き物である。オリンピックでも最も金メダルの期待がかかるのは柔道だ。近年、その誇りがおごりに転じてはいなかったか。これは名門組織が陥る落とし穴と言っても過言ではない。

(2013年8月2日・記)

 
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