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【富士重工業(スバル)中期経営ビジョン「際立とう2020」】--吉永泰之氏(富士重工業社長)×福島敦子氏(ジャーナリスト)

吉永泰之氏(左)と福島敦子氏(右)

 アベノミクス効果が現れる前のデフレ、円高の環境下でも業績好調を維持し、2014年3月期の決算では世界販売台数、売上高、営業利益ともに過去最高を更新した富士重工業(スバル)。このたび、新たに策定した 」で、さらなる飛躍を誓う同社だが、他の自動車メーカーとは一線を画すスバルの強さはどこにあるのか。吉永泰之社長にジャーナリストの福島敦子氏が迫った。

吉永泰之

吉永泰之(よしなが・やすゆき)
1954年生まれ。東京都出身。77年成蹊大学経済学部卒業後、富士重工業入社。主に営業畑を歩んだのち、戦略本部スバル企画室長、戦略本部副本部長兼経営企画部長、国内営業本部長などを経て、2009年取締役兼専務執行役員に就任。11年6月より現職。

吉永泰之氏×福島敦子氏〜経営トップも知らなかったアイサイトの研究〜

福島 業績が非常に好調ですが、要因をどう分析していますか。

吉永 今から数年前、スバルとは何か、われわれが提供できる価値とは何なのかということについて、かなり真剣な議論をしました。自動車業界の中でスバルのシェアは1%程度。ですから、先進国から新興国まで、すべての市場のお客さまをカバーできるわけではありません。その中で、ジャンルを絞っていかなければならないのですが、突き詰めるとわれわれの特徴は、「安全・安心」、もうひとつは「愉しさ」にこだわることなんです。でも、当時、会社の規模が小さいとか、他社よりコストが高いとか、自分たちの弱点はいくらでも喋れるけれど、長所についてはなかなか出てこなかった。安全性能が高いというのは当たり前で、それが売りになると思っていなかったんです。自分たちにとって当たり前のことは、特に強みと思っていなかった。その後、経営資源を安心と愉しさに集中して、例えば米国ではスバルが最も安全な車として評価されるようになりました。

福島 米国で特に販売が好調なのは、そうした客観的な裏付けがあるからなのですね。

吉永 そうです。商品力以外で大事なのがマーケティングですが、その一例として価格競争をやっていないことが挙げられます。値引きをすれば、販売店にインセンティブ(販売奨励金)を付けなければいけなくなりますが、値引き競争から離脱したお陰で、当社のインセンティブは業界でも一番低いんです。お客さまが車を下取りに出した時の残存価値も一番高い。さらに、ディーラーも販売力のあるところに順次入れ替えていきました。商品、マーケティング、販売体制が相まって好調を維持できています。

福島敦子

福島敦子(ジャーナリスト)

福島 付加価値の高い車をつくることによって価格競争に巻き込まれることなく高い収益性を実現する経営は、日本の製造業が生き残っていくために不可欠ですが、競争力の高い製品をつくるのはそう簡単ではありません。高付加価値の製品を生み出すために何が必要なのでしょうか。

吉永 当社の財産はやはり技術です。例えば運転支援システム「アイサイト」は2010年に大ブレイクしましたが、その技術は約20年間も研究してきたものです。長い間日の目を見ない中で研究を続けてきた人たちがいたお陰ですが、技術陣に何がアナタたちを支えたのかと尋ねると「交通事故を減らしたかった」と、それだけなんです。そういうピュアな技術屋魂を持ち続けられる技術陣がいて、赤字の時期にも研究をやめさせていなかった。そうしたモノづくりを大事に守る企業風土というのは、本当に素晴らしいと思っています。

福島 経営幹部が研究を継続させてきたことも先見性を感じます。

吉永 今も昔も、社長はそこまで知らないと思います。技術本部の判断で続けてきた結果ですね。

福島 次の新たなヒットを生むために、今も革新的な技術に対して挑戦しているわけですよね。

吉永 当社は大手のようにありとあらゆる研究はできないので、的を絞って研究開発しなければなりません。技術陣にはすべてを私に報告しなくてもいい、ある程度のブラックボックスをつくっていい、と言っています。何から何までチェックしようとしても、技術陣の見識のほうがはるかに優れていますし、最後になって私がニヤっと笑って「へ〜、こんな研究もしてたんだ」というのが一番楽しいです。

対談の様子

吉永泰之氏×福島敦子氏〜スバルブランドを徹底的に追求〜

福島 このところ、自動車業界は車台の統一など設計の効率化が進み、御社もプラットフォームを共通化する手法を導入するということですが、その流れは擦り合わせ型の職人的な日本のクルマづくりの強さを損なってしまうのではないか、特にスバルの場合は個性が希薄になっていく不安も感じますが。

吉永 そこは非常に大事なポイントです。「モジュール化」がはやり言葉みたいになっているため、誤解されている部分があるのですが、当社の場合はレガシィやインプレッサやフォレスターを、共通の車台をベースに作り分けやすくするということなので、スバルの個性という部分は変わりません。欧州メーカーなどが言っているのは、部品をブロックのように組み合わせて製品をつくるようなイメージですが、当社は違います。

福島 一般的に自動車業界で言われているオープン化や標準化というものとは一線を画すということですか。

吉永 もちろんコストを下げていくことは大事ですが、当社はもともとの生産台数が80万台から90万台ですから、そこを競争力のベースにすることはできません。スバルの個性を大事にした上で、共通化できるものはやる、という考えです。

福島 新たな中期経営ビジョン「際立とう2020」ではスバルブランドを磨くことと、強い事業構造を創るということが柱になっています。実現に向けて吉永社長が力を入れていることは何ですか。

吉永 スバルブランドを磨くために、総合性能、安全、品質・サービスなど6つの取り組みを掲げていますが、今後それらを実現するために各部門が何をするかについて、まさに議論を進めているところです。強い事業構造のほうも、コスト低減、商品戦略、市場戦略など8つの項目を定めています。結局はすべての部署が、それぞれの取り組みのどこかにかかわっているわけですから、自分たちの役割がどこにあるかを具体的に詰めていくことが大事なのです。単純に台数だけを追ってもブランドは磨かれませんし、同じ販売台数でもどんな売り方をしてどんなサービスをつくり上げれば、際立つ存在になれるかということを考えたいと思います。

福島 吉永社長が考えるブランドとは、どういうものですか。

吉永 気を付けなければいけないのは、自動車業界でブランドというと、多くの場合はプレミアムブランドを意味します。でも、当社は高級車メーカーになろうとしているわけではありません。では、スバルブランドとは何ぞや、となると、極めて信頼性の高い良質な道具、つまり機能価値のような部分にあると思うんです。ですから、ラグジュアリーのようなイメージとはちょっと違います。安心と愉しさをあえてしつこく強調するのは、そこを間違えてほしくないからです。

吉永泰之氏と福島敦子氏

吉永泰之氏と福島敦子氏

吉永泰之氏×福島敦子氏〜世界的なITメーカーが自動車産業に参入してきている現状に対して〜 

福島 今やグーグルをはじめ、世界的なITメーカーが自動車産業に参入してきています。電気自動車や燃料電池車になると車の構造もシンプルになり、自動車業界の顔触れも製品のつくり方も劇的に変わると思いますが、その点についてはどんな見解をお持ちですか。

吉永 面白いですよね。自動車産業はこれまで劇的には変わってこなかったんです。それが技術革新によって、大きく変わる可能性は確かにあります。その時、車というものをどう定義していくかが大事であって、A地点からB地点になるべく楽をしていくための道具ととらえれば、移動さえできればいいということになります。当社は、目的地に行くことも大事だけれど、移動する過程を楽しむことも重視しています。われわれのシェアは1%ですから、100人のうち1人のお客さまがそちらを選んでいただければ、そこで頑張ればいいのかなと。だから「際立とう」なんですが、他社よりちょっといいぐらいじゃ駄目だぞと社員には言っているんです。ウチの得意分野に参入された場合、こっちが際立っていないと追い付かれてしまいますから。

福島 スバルの車はデザインも骨太で男性っぽいイメージが強いのですが、新しい成長のステージに向けて女性を意識した車づくりは視野にありますか。

吉永 最近のスバル車は、実は昔に比べるとそれほど男っぽくはないんです。XVや最新のインプレッサなどは女性のお客さまがどんどん増えています。アイサイトの効果もありますが、「ライフアクティブ」、つまり趣味があって人生を積極的に送りたいお客さまという基軸で考えると、「○○をするためにスバル車を買う」というお客さまが多く、そこに性差は見られません。

吉永泰之氏×福島敦子氏〜今後の自動車メーカーでのスバルの存在〜

福島 日本では若者の車離れが深刻で、自動車メーカーは大変な危機感を持っていると思います。各社のトップが大学に出向いて、学生に車の楽しさを伝える試みも行われていますが、車に魅力を感じてもらうために何が必要だと思いますか。

吉永 自分が大学で話をした時には、実際に免許を持っていない人が多くて本当にがっくりするぐらいでした。ですから本当に車への興味がなくなってきているのかもしれません。ただ、だからこそわれわれのようなメーカーが必要なのだとも思いました。選択肢が数種類しかなければ、もっと車に興味がなくなってしまうでしょうから。そういう意味ではスバルという存在はすごく重要でしょうから、頑張っていかなければと思います。

(写真=森モーリー鷹博)

 
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