正確無比な鑑定分析が強み 不透明な固定資産評価を是正する
現在まで約1万2000棟以上のビルや工場の鑑定分析を行ってきた建物鑑定。固定資産税を払い過ぎていた企業へ、過払い税金を取り戻すサポートを行い、その金額は数千万円から数億円に上ることもある。一級建築士事務所ならではの緻密な鑑定とノウハウを求め、全国から多くの依頼が集まっている。(雑誌『経済界』2025年12月号より)
北沢正子 建物鑑定のプロフィール

コーポレートガバナンス上固定資産税の適正化は必須
固定資産税の評価では、多くの企業が根拠を疑うことなく税金を支払っている。しかし、その根拠を細かく検証していけば、間違いが多く見つかることもある。
建物鑑定の北沢正子代表によると、建物の鑑定依頼を受けた中で、固定資産税の過払いが発覚するのは1割ほど。かつては「税金を安くできないか」という目的の依頼が多かったが、近年では株主や投資家への説明責任を果たすため、建物の評価が適正かどうかをチェックする依頼が増加している。
「過誤徴収が起こる背景には、複雑な評価プロセス、自治体ごとの対応のバラつき、裁判所の判断の違いなどが挙げられます。過誤課税が認められれば、少なくとも過去5年分が還付され、翌年以降、毎年の固定資産税額が軽減されることになります。行政側が評価額の是正を認めない背景には、一つを認めると他の物件にも波及し、税収に大きな影響が出ることへの懸念もあるのでしょう」と北沢代表は話す。
これまでパナソニックやエーザイなど過誤課税が認められた大企業の事例が多数報道されており、大阪市が杭の計算方法の誤りを認め、71億円を返還した事例もある。同社も判例と実績を積み重ねて、ノウハウを構築してきた。
調査の対象としている物件は面積が3千㎡以上、評価額が3億円以上で、地方の大きな古い物件ほど過誤課税が見つかることが多い。
「地方の工場や物流施設では、建物に付帯する動力設備などが家屋の課税対象となるべきところ、償却資産としても申告してしまい、二重課税となっているケースが頻繁に見られます。このような状況は、財務経理担当者が過去の処理を踏襲してしまうことで継続しやすく、是正されれば企業にとって大きな減税につながります」
新築建物の固定資産評価のコンサルティングも実施
同社は創業以来、500社以上から受託があり、固定資産評価鑑定のリーディングカンパニーだ。一級建築士事務所であり、建物の専門家が物件の査定を行うのが特徴だ。税理士法人と提携し、還付金の請求の手続きまで一括サポートしている。
営業担当を置かず、紹介による依頼を主体とするビジネスモデルからは、専門性と信頼性の高さがうかがえる。
費用は成功報酬制を取っており、税金が還付された場合、還付金の50%を支払ってもらう仕組みだ。着手金や顧問料などは必要がない。
一方、鑑定分析には1年近くかかることも多く、過払い額が還付されるまでにはもっと時間がかかる。そのため新築時に適性評価をしておくことが過誤課税を防ぐポイントだと北沢代表は言う。
「違法評価、過大評価の場合、評価が修正されやすいですが、判断が分かれるところは裁判となり、理論的に評価が間違っていても、過誤課税が認められないこともあります。新築時の評価前に適性・低額評価を指摘しておけば、過誤課税を防ぎやすくなります」
同社では、新築建物コンサルティングも行っており、評価額が適正範囲の下限を狙えるようコンサルティングを行っている。図面や工事内訳書などの資料作成段階からアドバイスを提供することで、確実に低い評価額を実現できるため、近年依頼が急増しているそうだ。既存物件で固定資産評価の是正が困難だった企業が新築時のコンサルティングを依頼するケースもある。
また、新築時の資産台帳作成支援も行っている。
「ゼネコンからの工事内訳書に基づき、国税の減価償却台帳に反映させるだけでなく、建築の専門家としての観点から資産台帳を作成します。将来の修繕、回収、除却、更新を容易にするためのもので、財務・経理部門だけでなく、建築的な視点を取り入れた総合的な資産管理を支援しています」
ほかにも新築建物の事業収支計画策定のための固定資産評価の試算、売買時における買い手側が運用しやすい建物鑑定書の提供、相続税対策としての鑑定書作成など、クライアントの多様なニーズに応える形でサービスを展開している。
理想は過誤課税がなくなり「必要とされない」こと
同社は女性が働きやすい職場でもあり、育休後、復帰して働く女性の実績は多い。業務拡大のため、スタッフは随時募集している。
「分析・鑑定の仕事は机上業務が中心で、残業はほぼありません。自律的に働ける環境では、家庭との両立もしやすく、女性社員も多いです」
総務省に対して簡易で開かれた固定資産評価制度への改善を求める要望書を提出するなど、社会的な働きかけも行っている。
「総務省は3年に1回評価ルールを改定しますが、そのマイナーチェンジが新たな間違いを誘発することもあり、根本的な問題解決には至っていません。現代の建築方式にのっとった法整備もなかなか進まないのが現状です」
創業者の理念は「お客さまのために働く」だ。そのための最終目標は、過誤課税が発生しなくなり、この仕事への依頼がなくなることだという。
「固定資産評価の制度が簡略化され、自治体の担当者がもっと住民のために必要な仕事に時間を使えるようになることが理想です。社会的な使命感も持ちながら、適正な税負担の実現に向けた挑戦を続けていきます」
| 設立 | 2000年7月 |
|---|---|
| 資本金 | 1,000万円 |
| 本社 | 東京都新宿区 |
| 従業員数 | 12人 |
| 事業内容 | 既存家屋固定資産評価の適正業務、新築建物の固定資産評価コンサルティング業務、新築建物の資産台帳作成支援業務 https://tatemonokantei.ne.jp/ |
