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「エンプロイトリガー」で日本一のリモートワーク企業へ 室伏勇二 プログレス

プログレス 代表取締役 室伏勇二

リファラル採用のITエンジニアも多く、入社3年以内の定着率は91・6%を誇るプログレス。出社回帰の企業が増える中、フルリモート×フルフレックスで、帰属意識の高い強いチーム作りに成功したのは、数多くのコミュニケーション施策によるところが大きい。(雑誌『経済界』2025年12月号より)

室伏勇二 プログレスのプロフィール

コミュニケーションを「仕事」として体系化

プログレスはアクセンチュア出身の室伏勇二代表が同僚とともに起業。企業内業務システムの開発支援、自社プロダクトの開発を中心事業とし、創業から5年で社員を4倍以上増やしてきた。

「大企業を中心に『出社回帰』の傾向がありますが、優秀なエンジニアほど通勤を厭う傾向があります。そういった人材がリモートワーク100%の当社に集まってきます」と室伏代表は話す。

昨年の採用実績を見ると、27人中16人がリファラル採用だが報奨金は一切支払っていない。

「当社はエンプロイトリガーという概念を提唱しています。従業員が笑うと家族が笑い、顧客が笑い、協力会社が笑う、循環関係だと考えています。トリガーとなる従業員が働きやすい制度を整えてきたので、『一緒に働こう』と自信を持って知人を誘えるのだと思います」

2024年に全国唯一の「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)優秀賞」を受賞。リモートワークで成果を出すための最大の課題はコミュニケーションだが、細やかなガイドを策定し、バージョンアップを続けてきた。

「コミュニケーションも仕事だと明確に位置付けています。特効薬はないからこそ、トライアンドエラーで取り組んできました。新しい問題にぶつかる度にみんなで話し合い、うまくいったやり方は正式にガイドとして盛り込みます」

たとえばオンライン飲み会はこれまでに50回を数え、毎回30~40人が参加する。オンラインランチ会も開催し、子育て中の女性も参加しやすくなっている。「プログレッシブワーク」という制度では、1週間、好きな場所で働くことができ、交通費と宿泊費を会社が負担する。

「リモートワーク疲れ対策として、たまには自分の部屋から出て働く環境を変えてみたり、チームメンバーで集まるケースもあります」

一方、当初は社員全員の参加が必須だった社内イベントもあったが、従業員からのフィードバックを受けて強制参加を廃止し、オンライン参加も可とした。またオンライン会議ではカメラオンを前提にしようとしたが、こちらも「顔を出したくない」という声を受けて自由にした。

システム開発会社として技術力は不可欠だが、スキルアップも従業員の自主性を重視している。

「この資格を取りたい、この研修を受けたいという要望は100%承認しています。本人がやりたいことこそ、パフォーマンスが発揮できるからです」

自主性を重んじている分、やりたい仕事が見つからず、与えられた仕事だけをしたい社員は悩むこともある。このような社員に向き合うことも欠かせない。

「『頑張ってる人を全力でサポートする』ことが自分のやりたいことだと考えればいい。そういったタイプの人もチームには必要なのです」

心理的安全性を高めメンタルヘルスも重視

同社はフルリモートのみならずフルフレックス制度も採用。1日の労働時間8時間のうち好きな時間帯で勤務できる。

一方、フルリモートで懸念されるのが孤独感やメンタルヘルスの問題だ。そのため多層的なサポート体制を用意し、毎月実施する5分程度の調査では「業務量は適切か」「睡眠は取れているか」などの質問を通じて従業員の状態をチェックしている。これらは人事がクローズドな環境で管理し、一定の数値を下回った場合は即座にヒアリングを実施する。

「オンライン上でもみんなで声をかけ合う文化があります。気になる人がいれば、『今朝、連絡が取れなかった』『元気がなさそうだった』といった情報があがってきます。そこから様子をうかがって、組織全体で従業員をケアする体制を整えています」

1on1コーチングを取り入れ、社員の心理的安全性を高める取り組みも行っている。社内でのハラスメントを禁じているだけではなく、顧客側のハラスメントにより取引を中止した事例もあるという。採用面接では技術力以上に人格面を重視し、カルチャーに合わない人材は一切採用していない。

「メンタルのサポートは、離職率を下げ、生産性を高めて、強いチームづくりをするために欠かせないと考えています」

タイに子会社を設立し海外からも採用

同社は給与面でも業界の高水準を実現し、年収1千万円以上の従業員もいる。

「完全リモートワークを実現しつつ日本一高い給与の会社になるのが目標です」

全国で採用をしている同社だが、面接もリモートで、内定が決まってから入社までの間に代表や役員が地方まで足を運んで社員と顔合わせを行っているのも特徴だ。

昨年はタイに子会社を設立し、海外の採用も進めている。

「日本語でのコミュニケーションがとれる方なら、海外在住でも大歓迎です。法的な整備も進めました」

2030年までに社員を150人まで増やし、平均年収をさらに高めていくと室伏代表は熱を込める。

「インターネットさえあれば世界中どこででも仕事ができる時代です。パンデミックのような不測の事態が起きても、物理的に分散しているわれわれの組織は影響を最小限に抑えられるでしょう。これからも従業員の満足度を高めながら、日本一のリモートワーク企業を目指していきます」

設立2020年12月
資本金1,000万円
売上高16億円
本社東京都千代田区
従業員数124人
事業内容自社サービス「acomo」「シスモリ」の企画開発、システム開発、プロジェクト管理、DX支援、運用・保守サービス、サブスクリプション型サービスなど
https://www.progress-all.co.jp/