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経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「中小企業の事業承継問題が深刻化し本格的なM&Aの時代が到来」--分林保弘(日本M&Aセンター会長)

わけばやし・やすひろ氏

 少子高齢化により、中小企業では後継者不足が深刻となっている。この問題を解決し事業を継続・発展させるために、M&Aのニーズが高まっている。中小企業のM&Aを仲介する日本M&Aセンターの分林保弘会長に、中小企業のM&Aの現状について話を聞いた。

【わけばやし・やすひろ】 1966年立命館大学卒業、同年日本オリベッティに入社。同社会計事務所担当マネージャーを経て、91年日本M&Aセンターを設立、92年同社社長に就任。2008年6月より現職。10年より東京商工会議所議員を務める。著書に『改訂版 中小企業のためのM&A徹底活用法』(PHP研究所)など。

【わけばやし・やすひろ】
1966年立命館大学卒業、同年日本オリベッティに入社。同社会計事務所担当マネージャーを経て、91年日本M&Aセンターを設立、92年同社社長に就任。2008年6月より現職。10年より東京商工会議所議員を務める。著書に『改訂版 中小企業のためのM&A徹底活用法』(PHP研究所)など。

3社に2社が後継者不足で廃業の危機

 毎年、M&Aに対するニーズは高まっている。その最大の要因は人口動態だ。われわれは「2012年問題」と呼んでいたが、団塊の世代の経営者が引退時期に差し掛かっている。中小企業では事業継続に向けた後継者問題が発生している。

 また、人口減少で日本の内需が減り、国内の売り上げが減っていくことが予想される。本当にこれからやっていけるのだろうかという経営の将来性への不安がある。この人口動態にまつわる問題から、中小企業においてM&Aがかなり浸透し、抵抗感がなくなってきた。

 先日、名古屋に支社を開設した際に記念の講演会とパーティーを開催したが、愛知県下の地方銀行の役員ならびに支店長の大半が来られた。地方銀行は中小企業の実情をよく把握しているので、今後はM&Aなしではやっていけないという危機感の表れだと思う。

 後継者不足による事業承継問題については、社長が65歳以上になり引退の時期を迎えながら、後継者がいないという会社が圧倒的に多くなってきた。従来は社長の親族、息子や婿養子を経営者に据え、事業を継続していた。しかし少子化により合計特殊出生率は二十数年前から1・4人前後。男子が生まれる確率はその半分として0・7人、親の仕事を継ぐのはさらに半分程度と考えると、後継者になる期待値は0・35人。65%、つまり3社に2社は後継者たる息子がいないことになる。これは1年前に帝国データバンクが四十数万社を対象に行った実態調査の結果と概ね合致している。

 後継者がいないことを理由に、この4~5年は年間7万社が廃業していた。これを食い止める方法としてM&Aの認識が高まってきた。当社は後継者がいない会社に売却先を紹介している。当社の取扱件数、売り上げが年率20%で伸びている状況からすると、これから本格的なM&Aの時代が来ると思う。

 例えば、社員20~30人で、社長が技術者出身で、技術力に定評のある製造業の中小企業があるとする。社長が引退する年齢になったけれども息子はいない。社員もほとんどが技術者の会社であるため、社内で探しても経営をできる人はいない。また資本金2千万円の会社でも30年近く事業をやっていると3億~5億円の総資産になる。本社の土地や建物、機械などに投資しているので、銀行に借入があり、それに対して社長が個人保証をしているケースが多い。社員がその借入金の個人保証まで引き継いで社長になれるのかと言うと、それは不可能に近い。

 それで関連業界の企業や大手企業にその会社の株を買ってもらって、借入金・個人保証も全部引き継ぐというのが通常のM&Aの形だ。中小企業は独自の技術を持っていても販売力が弱い会社が圧倒的に多い。大手の販売力のある会社に買われた場合、良い技術を持っていた会社ならば、数年後には売り上げが2倍3倍になる例は多い。こういうシナジーが期待できる。

 当社が成約支援したM&Aで、大手の販売力を生かし成功した事例では、高齢者向け宅配弁当のワタミタクショクがある。もともとは長崎にあったタクショクという会社で、売り上げが80億円、経常利益が4~5億円あり、上場準備もしていた。しかし上場すると株主が何千と増え、毎年の売り上げ・利益で1割増、2割増を求められる。その経営が親族だけでできるのかという不安があった。一方、上場しなかった場合、全国レベルで事業を拡大しようとすると膨大な資金とブランド力が必要になる。また、それまでの工場増設で借入金もあった。2代目の息子が会社を継ぐと、借入金を背負わせることになる。こうした判断から、タクショクは08年にワタミに事業を譲渡したが、これが大成功した。5年たった同事業の今年度の売り上げは当時の約7倍である。

M&Aは乗っ取りというイメージは大きな誤解

 今後、為替が円安に振れると、外国企業が日本企業を買収する例が増えるだろう。当社にも海外から多くの照会が来ている。例えば、タイやシンガポールの製造業では、よりコストの安いものはカンボジア辺りに工場を移し、もう少し技術レベルの高い日本の会社を買って、その技術を生かして会社を伸ばしたいというニーズがある。

 M&Aではリストラが不安視されることがあるが、中小企業のM&Aでは心配いらない。

 大手のM&Aは合理化が中心になる。例えば、メガ銀行はかつての都銀13行が現在は数行に集約された。あるいは新日鉄と住友金属が合併した。こういうケースは、重複する支店や海外拠点を集約するなど合理化目的のリストラが起こり得る。

 一方、中小企業を買収する場合は、新しい分野・市場で営業する、売り手の中小企業をもっと伸ばしていこうという関係である。このため、原則的に合併はしないし、重複がないのでリストもなく、社員の雇用や待遇は守られる。グループ内の企業となるが、会社名は少なくとも3年から5年は変えないケースが多い。今までの社長は会長あるいは相談役としてしばらく残って引き継ぎをしっかりしてからリタイヤしていただく。だから表面的には何も変わらない。

 このように買収しても大きくは変更しないというのが大原則。少なくともわれわれが間に入った中小企業のM&Aでは守られる。その点で一般に誤解が生じているし、株式に譲渡制限がある中小企業で乗っ取りなんてあり得ない。それは1千件に1件とか珍しいから注目されるにすぎない。 (談)

 
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