さまざまな課題を解決してきた日本の素地
おもてなし、もったいない、KAWAII(かわいい)、そしてオタク文化。言わずと知れずこれらは、日本を世界に発信する最近のキーワード例である。
「おもてなし」や「もったいない」はともかく、KAWAIIやオタクといった日本の現代文化が、ファッション、アニメなどの分野で世界的な価値を持ち始めているのには多少驚きもある。
日本の良さ、ジャパン・クオリティーとは何か。
先日、ラーシュ・ヴァリエ駐日スウェーデン大使と対談する機会があったが、ヴァリエ氏は日本文化を特徴づけるものとして「道」を挙げていた。
日本には、茶道、華道などの芸事や、柔道、剣道などのスポーツ、そして仕事全般にそれぞれの「道」がある。昔、駅員が改札で「チキチキ」と音を立てて連続的に切符を切る所作にも「道」があったという。
この話にはジョークも含まれているが非常に面白い視点だ。私なりに解釈すれば、通底するのは「極める」ということだろう。
この「極める」という能力は、日本をものづくり大国として発展させた要因の1つであることは間違いない。
日本は鎖国によって産業革命に乗り遅れたものの、近代以前には、洗練された文化や近代以降の経済発展の素地となる社会的能力が備わっていた。
江戸時代には、教育、治安、司法、情報などのシステムが発達し、ものづくりの基本技術も蓄積されていたのである。また、鎖国は結果的に極めて洗練された文化をもたらした。
例えば、われわれは「枯枝に烏のとまりけり秋の暮」といった句に感じ入ることができる。
こうした素地があったからこそ、明治以降の日本は工業化を進め、世界の国のほとんどが欧米の植民地と化す中で、欧米以外で最も早く先進国の仲間入りを果たすことができた。また成長過程で日本は多くの課題に遭遇したが、それらを克服してきた。
例えば、戦後の高度成長期には全国各地で過酷な公害を経験したが克服し、またオイルショックという2度にわたる世界的なエネルギー危機も見事に乗り切った。
さらに、世界一の長寿社会を実現している。残された問題もあるが、これらの課題にも「極める」能力を発揮することで、ものづくりだけでなく、省エネや環境、長寿などの分野で世界最高水準の実績を示す国となったのである。
「課題解決先進国」としての日本は21世紀の成長モデル
以上のような発展過程を見ると、日本は、経済、長寿、環境、エネルギーなど、まさに文明が希求するところを成就してきたと言える。つまり、現在の日本の豊かさも課題も、文明の目的を達成した帰結であるということになる。
こうした観点から日本は、近未来の世界が抱える課題を先取りした「課題先進国」と呼ぶことができる。
そして今後は、自らの課題を解決することが21世紀の新しい成長モデルとなる「課題解決先進国」となり得るのである。エネルギー自給、健康長寿、全員参加社会などは世界共通の重要なテーマとなろう。これからのジャパン・クオリティーは、こうした課題の解決を極めるところにも宿るのである。
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