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「ブランドの価値観に共鳴してくれる顧客を増やしたい」--大喜多 寛(アウディジャパン社長)

A3セダン

今年は過去最高となる年間3万2千台の販売を見込むアウディジャパン。日本ではメルセデス・ベンツ、BMWより後発ながら、着実にブランドイメージを定着させ、確固たる地位を築くことに成功している。陣頭指揮を執るのは、マツダ出身で根っからの車好きで知られる大喜多寛社長。顧客の支持を得るためのブランド戦略と、車に対する想いを同氏に聞いた。

 

大喜多 寛・アウディジャパン社長プロフィール

大喜多 寛

大喜多 寛(おおきた・ひろし)1960年生まれ。83年関西学院大学経済学部卒業後、東洋工業(現マツダ)に入社。企画本部、国内営業、販売会社社長などを経て、2002年1月BMW入社、MINIブランドダイレクターを務める。06年アウディジャパンに取締役営業担当として移籍。10年より現職。

大喜多寛氏の戦略 国産車からの乗り換えユーザーを多く獲得

-- 今年は過去最高の販売台数を見込んでいますが、好調の要因は。

大喜多 昨年9月に「A3」のスポーツバックを約10年ぶりにモデルチェンジしたことが効いています。今年の2月に「A3セダン」という全く新しい派生車種を出したことも寄与しています。A3セダンはアウディの中だけでなく、プレミアム輸入車全体で見ても一番コンパクトなセダンになります。

-- どんな層に売れているのですか。

大喜多 50%以上は国産車ユーザーからの代替です。A3はエントリーに近いモデルで、それまで200万〜300万円の価格帯の車に乗っていた方が多い。男女比では8対2くらいでしょうか。コンパクトなので運転しやすいし、プレミアム輸入車は以前と比べてデザインや走りが相当良くなっています。燃費も良くなっているので優遇税制も適用されています。そうした意味では、輸入車の垣根がだんだん下がってきたと感じますね。

-- 国産車のほうが輸入車よりエコというイメージも変わってきましたか。

大喜多 そうですね。エコであることは今や必須です。例えばA3は1400ccでリッター当たり20キロメートルの燃費なので、軽自動車の倍の排気量で3分の2の燃費、それでプレミアムな感覚も楽しめます。世界的に人口が都市に集中する傾向が進んでいて、スペースをいかに大事に使うかを考えると、小さな車が求められるようになっていきます。エコ技術に関しては、ハイブリッドは「A6」と、「A8」と「Q5」に導入していますし、2015年には燃費がリッター60キロメートル以上のプラグインハイブリッド車を投入する予定です。

-- 自動運転技術など、ITとの融合についての方向性は。

大喜多 グーグルが打ち出しているような自動運転車のコンセプトは面白いとは思いますが、そちらは単にA地点からB地点への移動という、一種のコミューターみたいな感覚だと思います。アウディは運転する楽しさがあくまでもメーンで、安全技術として自動制御を入れていくという考え方です。

-- ブランド価値の維持という点を考えると、自動化をどこまでやるかという線引きは難しいですね。

大喜多 結局は、どこに付加価値を置くかだと思います。われわれのようなプレミアムブランドは、低価格と手軽さを前面に出すボリュームセラーとは違います。やはり運転する楽しさというのが、アウディの圧倒的な付加価値なので、それが抜けるとプレミアムとは言えません。移動手段としての車でプレミアム感を出そうとしたら、高級ソファーを置くぐらいしかできませんからね(笑)。

大喜多 寛ステータスより楽しさを重視するユーザーを獲得したい大喜多寛氏

-- 日本でもアウディブランドの認知度は向上していると思いますが、どんな取り組みを行っているのでしょうか。

大喜多 ブランドを浸透させるために行うことは2つあります。ひとつは認知度の向上。シンボルマークの4リングスを見て、すぐにアウディを思い浮かべてもらう人を増やす作業です。そのために、日本サッカー協会(JFA)のスポンサー契約を結んだり、ショールームをつくったりして、お客さまに触れていただく機会、われわれはタッチポイントと呼んでいるのですが、それを増やしてきました。これまで7年連続で販売台数が前年比を上回り、昨年は2万8千台販売しました。それに加えて中古車が7千台売れているので、1年で3万5千台が街中を走っているということです。タッチポイントが増えると車が売れて、売れると多くのアウディ車が街中を走るようになり、認知度が上がるという好循環ができています。

 もう1つがブランドイメージの浸透です。アウディに対して、スポーティーで知的で先進的なイメージを多くの人に持っていただきたい。このように、知ってもらいつつイメージを合わせていくという作業をずっとやってきました。

 面白いのは、土日に街を歩くとアウディ車を見掛ける回数が、ウチより売れているほかの輸入車ブランドを見かける回数とあまり変わらないことです。ステータスシンボルではなく、運転するのが本当に好きなユーザーが多いというのは、非常にありがたいと思います。

-- 今後の出店計画は。

大喜多 今年は年末までに114店舗ぐらいを目指しています。地域としては東京、名古屋、大阪が中心です。ベンツが200店舗以上、BMWが180店舗ぐらいあるので、まだ数が全然足りません。ただ、ウチは1店舗当たりの規模が大きく展示台数も多いので、各店舗でお客さまの満足度を上げることに注力して、最終的に130店舗程度まで増やしていきたい。

 販売店はエリアごとの存在感を高めていくために非常に重要です。各都道府県で新しいコンセプトの店をつくっていて、現在は110店舗あるうちの80店舗ほどが新しいデザインのお店になっています。そこに実際に来ていただいて、知的、スポーティー、先進的という3つのイメージを体感していただきたい。

「戦国武将のように小国を大きくしたい」と語る大喜多寛氏

-- 大喜多社長はかなりの車好きと聞いていますが、その原点はどこにあるのでしょう。

大喜多 考えてみたら、結局、小学校低学年の頃に見ていた「サンダーバード」だなと(笑)。そこに出てきたピンクのロールス・ロイスを見て、凄い車に乗っているなあと感動したのが最初です。あとは、出身が広島県だったのでマツダのサバンナやRX–7など、車に触れる機会がたくさんあったのも影響したのでしょう。大学時代には、周りにアウディに乗っている友人が結構いて、その辺からアウディが好きになりました。ラリーやF1などのモータースポーツも楽しんで見ていましたね。

-- では、最初から自動車業界に入ろうと思っていた。

大喜多 いえ、そのつもりはなかったんです。就職活動中に本命の会社の面接時間を間違えて早く着いてしまって、時間つぶしに近くにあったマツダのビルに入ってお茶でも飲もうと思ったら、たまたま総務の人に気に入ってもらって面接することになりました。普通の人はちゃんと資料を準備してくるのに、お前は何しに来たんだと言われましたよ(笑)。そこで理由を話したら面白い奴だと気に入ってもらって、役員面接に進むことになりました。

 役員面接では、仕事をする動機を聞かれたので、僕は社長になりたいと言ったんです。当時から歴史小説が好きで、戦国大名が何万人という兵隊を動かすメカニズムにすごく興味があった。それを理解するために、会社をつくって社長になりたいと答えました。すると、面接官として参加されていた、当時の役員の方に「マツダの社長になるのは難しいかもしれないが、ウチには関連会社がいっぱいあるから、そこの社長にはなれる可能性はある」と言われて、それなら面白いかなと。

 その後、販売会社の社長をやって分かったことは、自分だけでは何百人は動かせないけれど、周りの5〜6人に共鳴してもらえれば、そこから広がって大きな組織が動くということ。こちらがきちんと周囲に信用されなければ、誰も動いてはくれません。お店に投資してくれるオーナーさんたちにも、きちんとこちらの考えていることを説明して、信用してもらっているからこそやっていけるんです。そういう信頼関係がベースにあることでお店が出来上がり、そこでお客さんに喜んでもらってブランドが広がり、車が売れるというスパイラルをつくることができる。これが負のスパイラルになると真逆になるから、車のビジネスは怖いんです。

-- マツダとアウディの共通点、相違点は。

大喜多 マツダと同じく、アウディも最初は日本では下位メーカーで、ベンツ、BMWの後塵を拝していました。でも車は素晴らしい。高いエンジニアリング技術を、どううまく説明して、車の良さを伝えていくかが課題でした。さらに、アウディの場合は、プレミアムブランドとして商品の持っている付加価値をどう伝えるかが重要でした。

 戦国武将と同じく、小さい国を大きくしていく。僕はそういうほうが好きなんです。

(聞き手=本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

 
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