欧州議会選挙で欧州懐疑派が躍進
EUが政治の季節を迎えている。閣僚理事会と並ぶEUの立法機関たる欧州議会選挙、執行機関たる欧州委員会委員および委員長交代、最高意思決定機関たる欧州理事会の常任議長(EU大統領)交代、そして英国総選挙と、中・長期的な欧州統合の方向性を左右する重要日程が目白押しだ。
2014年5月には嚆矢となる欧州議会選挙がEU28カ国で行われ、欧州統合に批判的な「欧州懐疑派」が全751議席中約2割と09年の前回選挙から議席を倍増させ、欧州首脳に衝撃を与えた。躍進の背景としては、欧州財政・金融危機を背景に失業率が2桁に高止まりする等、景気低迷が長期化する中で、特に財政危機国を中心にEUの厳しい財政緊縮策と構造改革の強制に対する不満の高まり、また自国民の職を奪っているとして移民への反感の高まり等が指摘できる。
一部には、「欧州統合推進派」の中道右派・左派の議席が合計で過半数を超えていること、欧州懐疑派と総称される極右、極左等の政策面の相違が大きいことなどから、欧州懐疑派の影響力は限定的との楽観論も存在する。
しかし、真のリスクは各国の国内政治およびそれを通じた欧州理事会と閣僚理事会の政策決定への影響であり、欧州統合への悪影響は軽視できない。
主要国で欧州懐疑派の躍進が最も顕著だったのがフランスだ。反EUおよび移民排斥を訴えるFN(国民戦線)が25%と得票率トップで、既存2大政党の中道右派UMP(国民運動連合)の21%と、現与党社会党の14%を圧倒した。
背景には、フランス経済の低迷があり、14年1〜3月までの1年間の成長率は0・7%にとどまり、失業率は5月現在10・1%の高水準にある。これは、硬直的労働市場を背景とした国際競争力の低下という構造的問題により引き起こされており、経常赤字と財政赤字という双子の赤字に苦しむフランスは「欧州の病人」と揶揄されている。
これに対しオランド政権は、法人税減税や中小企業支援、解雇規制緩和、社会保険料の企業負担軽減等からなる構造改革にようやく取り組み始めたところだった。しかし、欧州議会選で国民から突き付けられた不信任を背景に、始まったばかりの改革が実行段階で大幅にスローダウンするのは必至であり、経済の低迷が長期化する懸念が高まっている。
一方、フランスと対照的なのがドイツだ。他国に先駆け00年代前半に労働市場改革や、法人税引き下げ等の構造改革を断行したドイツ経済は、14、15年とも前年比2%程度の堅調な拡大が予想され、これを背景に欧州懐疑派の勢力もほぼ封じ込められている。
メルコジ(メルケル独首相とサルコジ前仏大統領)の例を出すまでもなく、欧州統合はその成り立ちから、「独仏枢軸」により推進されてきた。ドイツの1人勝ちとフランスの凋落はこのパワーバランスを大きく変化させ、欧州統合の深化に大きなブレーキをかける恐れがある。
〝Brexit〟は回避できるか
英国でも、EU離脱や移民規制を訴えるUKIP(英国独立党)が得票率27%と、労働党の25%、現与党保守党の24%を上回りトップとなった。英国は15年5月に総選挙を控えると同時に、キャメロン首相が17年にEU離脱の是非を問う国民投票実施を約束しており、UKIPの躍進は〝Brexit〟(英国のEU離脱)を占う上でも注目される。
ドイツと並んでEU経済を牽引する英国で欧州懐疑派が躍進した背景には、住宅・不動産部門中心に景気が回復する中、景気回復の恩恵が富裕層に偏り、実質賃金の低迷を背景に低・中所得層が十分に回復を実感できていないこと、財政・金融危機後、ユーロ圏諸国が欧州の統合深化を加速させる中で、英国との間で統合の最終的な姿やそこに至るまでのスピードをめぐる対立が先鋭化していること、がある。
UKIPと支持層の重なる保守党政権は、来年の総選挙をにらんで対EU政策でUKIP寄りの厳しい政策をとらざるを得ない立場に追い込まれている。
岐路に立つ欧州統合
欧州議会選挙における欧州懐疑派の躍進は、欧州統合をめぐる、「指導層と一般国民」、「ドイツとフランス」、「英国と大陸諸国」、「南欧と北欧」間に存在する意見の相違を如実にあぶりだした。
欧州の財政・金融危機に対しては、EUが財政・経済・金融面の統合を進めることで対処し、一時のような世界的金融危機につながるリスクは後退したものの、取り組みはまだ道半ばだ。幾重にも絡み合った意見の相違をうまく収束させられなければ、取り組みが滞る可能性もあり、次の世界経済の下降局面において危機が再発する恐れも残る。欧州統合の程度およびそこへ向かうスピードをめぐる模索は中長期的に続くだろう。
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