米大陸全体がオイル純輸出国に
世界の株式相場は、大きく上昇している。リーマンショック後の2009年安値から14年6月末まで、世界の株価(MSCI株価指数)は165%も上昇し、史上最高値を更新中だ。米国経済は好調を維持し、不安視された欧州経済も回復基調にある。フラジャイル5(脆弱な5カ国)と揶揄されたブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカは最悪期を脱し、インド、インドネシア、トルコを中心に新興国も盛り返しつつある。さらに、世界的な金融緩和は長期化している。
このように、世界の株式相場はほとんど死角が見当たらない。しかし、永遠に株価が上がり続けることはなく、どこかで株価は大きく反落することだろう。そのリスクがあるとすれば、経済問題というよりは、むしろ軍事、外交問題に起因するのではないか。
米国の株価好調の要因は数多いが、シェール革命の影響も大きい。シェール革命は、地下3千㍍前後のシェール層にある石油やガスを低コストで採掘する技術の開発が可能になったことで実現した。
シェール革命によって、米国は世界一のオイル(原油、バイオマス、コンデンセートを含む広義の石油)生産国になった。米国のオイル生産は日産1322万バレルと、サウジアラビアの同1161万バレル、ロシアの同1059万バレルを上回って世界最大となっている(今年3月)。このため、米国のオイル輸入量はピークからほぼ半減した。
そして、供給増により、エネルギー価格も抑制されている。特に、石油価格が高止まりしているため、石油生産増がGDPに貢献する度合いが大きくなる。
米国だけではなく、米大陸全体のオイル生産が好調だ。加えて、カナダ、ブラジルのオイル生産量は長期的に増加するとみられる。また、原油埋蔵量が豊富なメキシコ、ベネズエラの資源開発の進展が期待される。
このため、米大陸全体が10年代にオイル純輸出国に転じる可能性が高い。エネルギー生産が増えることは、価格の抑制効果を通じて、米国のみならず、日本を含む世界に大きな好影響をもたらすことだろう。その意味では、シェール革命は大歓迎だ。
ホルムズ海峡封鎖が米国の利益になることも
ただし、何事もプラスの効果とマイナスの効果がある。シェール革命によるマイナスの効果として、環境問題が挙げられるが、これは技術的に解決可能だ。ただし、直接的なマイナス効果は少ないにしても、シェール革命が間接的に世界に悪影響を与えることはあり得る。
シェール革命は、世界のエネルギー供給体制を大きく変えるため、世界の安全保障情勢に大きな影響を与えることが考えられる。オバマ大統領は、「米国は世界の警察官の役割を果たすのをやめる」と宣言している。オバマ大統領の任期は17年1月までだが、16年の米国大統領選挙では、同じ民主党のヒラリー・クリントン元国務長官の優勢が伝えられている。クリントンは第1期オバマ政権の国務長官であり、その外交姿勢は基本的にオバマのそれと大きく変わらないと思われる。しかも、長期にわたるイラク戦争、アフガン戦争の影響で、米国内では厭戦モードが残る。つまり、政治的には、「米国は世界の警察官ではない」という状況が続くと見られる。
このため、よほどのことがない限り、米国が他国に対して強力な軍事介入を実施する可能性は低い。それは、シリア情勢やウクライナ情勢においても確認されている。
とはいえ、現時点でも、米国が世界最大の原油輸入国である。もし、明日、イランとオマーンに挟まれるホルムズ海峡が何者かによって封鎖され、サウジアラビアやクウェートなどの石油の輸出が大きく滞ったら、石油価格の高騰は避けられない。その場合、いくら、米国は世界の警察官ではないと言っても、大規模な軍事介入を実施する可能性は小さくない。
しかし、20年代に、米大陸全体、そして米国自身がオイル純輸出国になるとすれば、事態は大きく変化するだろう。もし、ホルムズ海峡が封鎖され、原油価格が大きく上がれば、石油輸出国には好材料である。つまり、米国経済にとって、ホルムズ海峡封鎖は決して、マイナス材料ではなく、むしろプラス材料になることがあり得るのだ。
仮に、米国が大規模な軍事介入を実施すれば、イラク戦争、アフガン戦争同様、米国の若者の命が多く失われることだろう。「米国は世界の警察官ではない」と宣言したにもかかわらず、大きな犠牲を払って自国の不利益になることをするだろうか。米国はモンロー主義(米大陸孤立主義)の歴史を持つ。自国の利益にならない軍事介入を正当化することは難しい。
シェール革命により米国がエネルギーを自給できるということは、米国に安全保障を、そして中東にエネルギーを大きく依存する日本にとって、大きなリスクが生まれることを意味する。このようにシェール革命の効果はさまざまであることに留意せねばならない。
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