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「地域」には大きなポテンシャルがある--高橋広敏(インテリジェンス社長)

高橋広敏氏(インテリジェンス社長)

アサヒビール、インテリジェンス、電通北海道、日本郵便、ヤフーの5社は、2014年5月から10月までの半年間、北海道美瑛町を舞台に異業種コラボレーション研修を実施している。その主旨は、「多様な視点・価値観を持つ人とチームを組み、その違いを乗り越え、強みに変えてゆく人」、「正解のない問いに対して答えを見いだし、カタチにできる人」の育成で、参加者は、近い将来それぞれの企業や町の中核を担う30代前半から40代前半までのリーダー候補である。このユニークな研修について、インテリジェンスの高橋広敏社長に聞いた。

高橋広敏氏は語る 人の流れの逆回転が始まる

 美瑛町を舞台に5社が行う異業種コラボレーション研修の意義は2つあります。

 まずは主目的として、次世代リーダーの育成研修ということです。それぞれの会社から選抜された人たちが、普段とは異なる場所で、異なる課題に対して議論を重ね、ソリューションを出していく。これは人材育成の観点からも非常に興味深く、効果的だと思っています。特に、異業種との他流試合であること、テーマがユニークということがほかにはない点ですね。

高橋広敏

高橋広敏(たかはし・ひろとし)
1969年大分県生まれ。早稲田大学卒業後、インテリジェンスに入社。99年に取締役、2008年に代表取締役兼社長執行役員に就任。現在は、テンプホールディングスの副社長も務める。

 もうひとつは、人材に関するビジネスを行うわれわれにとって「地域」は重要なテーマだということです。

 戦後の復興とともに日本の教育水準も高まり、優秀な人材が育ちました。同時に、工業化が進むことで、優秀な人材は学卒後、主に大企業に集まり、大企業は、その力を生かすことで成長し、日本は競争力を高め、世界と戦える水準に到達しました。その流れは、いわゆる高度成長期として、1960年から80年代後半まで続きました。

 結果、日本企業は世界と戦える力や優位性を手に入れ、日本の国力向上に大いに貢献しましたが、一方で、日本の農業従事者は全体の5%程度まで落ち込みました。さらに、本来地域のリーダーになるべき人たちも都会に出てしまった。こうした構図が一世代半にわたって続いた結果、地域の活性化を推進するリーダーが現地に少ないという状況を生んでしまいました。その状況には私自身、危機感を抱いています。

 一方で現在、大都市圏においては、シニア人材の次の活躍ステージが模索されるなど、課題も生まれています。

 これらのシニア人材をはじめ、大都市に集まり経験を積んだ人材を、各地域に移動する支援をすることで、人材会社は地域活性化に貢献できるのではないか。常々そう考えていました。

 この人材の流動化の観点からも、5年、10年先を見据えた人材を育成できる点で、この研修は非常にユニークで興味深いと感じましたし、さきがけのケースに成り得ると思っています。

 実は、過去にそれを実感した事例があります。オリーブで有名な小豆島の自治体と連携して島の人手不足の問題解決を支援したものです。

 これは、生産から流通、販売までをマネジメントできる人材を募集するというもの。具体的には、例えばネット通販を活用した流通のしくみ構築や、大都市圏への販売促進など、島の人たちにノウハウがない販売促進の知見を持つ人材を広く募集しました。もちろん、一過性ではなく、定住に結び付かなくては本当の課題解決にはなりません。そこで、「本気で定住する意思のある方」を募集し、半年から1年間、まずは単身で住んでもらいました。その後、島に馴染み、この仕事でなら一生やっていけると確信を得てもらってから、家族を呼んで移住してもらうという段階を踏みました。こうした丁寧な支援が功を奏し、実際に人材の定住化に結び付いたのです。

 私自身も、海産物や農産物が豊富に穫れる大分県の出身ですが、小豆島と同じように、クオリティーが高い生産物があっても販路は東京や大阪などの大都市圏に限定されています。しかし、今後の人口構造を考えると、日本だけや大都市圏だけをマーケットとしても先細りすることは目に見えています。そこで兄が地元に商社をつくり、地元で獲れる海産物や農作物を上海や香港など、新たな販路を開拓しています。

 上海は大分を中心に円を描くと東京とほぼ同じ距離なんです。最近では、海産物に加え、地酒も海外で販売するなど、商品も拡大しつつあります。

 同様に、美瑛町のある北海道も九州も、アジアやロシアなどの富裕層をターゲットにしていく必要があり、これを支援できる人材が必須となります。

 このように、農業や漁業も日本の将来を担う貴重な産業として育て、地域活性化を加速させるために、人材会社が提供できることはたくさんあると思っています。

 そうした視点からも、今回の5社連携の研修には期待しています。物流からネット、ビール会社、人材、そして、宣伝に長けた広告会社。これだけ異なるノウハウや実績を持つ会社が集結したからには、面白いことができるはずです。

 もちろん、地元に長くいるからこそ分かることもあります。この視点に、東京で得意な分野の仕事に打ち込むメンバーが加わることで、さまざまなアイデアや事業が生まれるはず。産業界が地元の人々と協力することによって誕生する、新たな事業の形態に期待しています。

「求められる人材が変化している」と語る高橋広敏氏

 研修開始からまだ数カ月ですが、既に人材育成としての成果は出始めています。例えば弊社の参加者に聞くと「他流試合が面白い」と口を揃えて言います。普段と考えるテーマが異なるだけに、使わない部分の脳みそを使いますし、うまくいかないことも多く、もどかしさもある。だからこそ、工夫が生まれ、やりがいを感じているのでしょう。こういう経験こそが、次代を担う人にとって良い影響をもたらすのだと思っています。

 これまでの日本は、ビジネスが成長し続け、裾野が拡大することが前提でした。こうした社会では、会社に忠誠心や愛着を持ち、会社の指揮命令系統の中で最大のパフォーマンスを上げる人が求められました。

 しかし、日々環境が激変する現在では、従来とは違い、自立した人材が求められています。組織に愛着は感じているけれども、一方で、これまでにない次の「何か」を生み出せる人。上司や経営者の言いなりではなく、自分たちの会社が何を行うべきかを考え、新たな付加価値創出にチャレンジできる人です。

 こうした人材を育成する上で忘れてはならないのは、社会人の最初の5年、10年で、「会社の言うことを聞け」と教わったら、どんなに優秀な人材も従順になってしまうということ。従順を良しとしてきて、急に「新たなことにチャレンジせよ」と言われても、できるわけありません。

 今回の研修は、そうした人材を育成する、1つのチャレンジです。参加者は日々、自ら考えることが求められます。どうすれば地元の役に立てるのか、それはビジネスやサービスとして成立するのか。この研修が、新たなものを生み出す人材を育む先例になればと考えています。

 人材会社としても、これまで以上に、市場の変化に合わせた新しい価値を提供する必要があると感じています。

 その中でも、都市部から地方への人材の適正な流動化を支援することは、これから一層注力すべき課題です。まだ小さな市場ではありますが、われわれが提供できる価値は高いと思っていますから、事業としてしっかり育てていきたい。本研修がその第一歩となればと思っています。

(文=本誌・古賀寛明 写真=佐々木伸)

 
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