ソーシャルゲーム事業などで飛躍したディー・エヌ・エーの創業者・南場智子さんをお迎えしました。同社は今年創業15年を迎え、新規事業の遺伝子検査サービス「MYCODE」がスタート予定。DeNAがDNA事業に進出と話題になっています。南場さんは2011年に社長を退き、昨年より取締役ファウンダーとして現場復帰。ますます活躍されています。今回は南場さんの幼少期の思い出話や女性の役割についてお聞きしました。
目次
ディー・エヌ・エーの創業者・南場智子の負けず嫌いな性格

南場智子(なんば・ともこ)
新潟市生まれ。1986年、津田塾大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。90年、ハーバード・ビジネス・スクールにてMBAを取得。99年にマッキンゼーを退社してディー・エヌ・エーを設立、社長に就任。2011年、社長兼CEOを退任し、取締役となる(現任)。著書に『不格好経営―チームDeNAの挑戦』(日本経済新聞出版社刊)。
佐藤 南場さんと初めてお会いした時に父親の話題で盛り上がりました。南場さんも絶対的な権力を持った厳しいお父さまのもとで育った少女時代でしたね。
南場 「お互い苦労しましたね」とお話したことを思い出します。
佐藤 頑固親父を持つと娘は大変です(笑)。最近はお父さまの調子はいかがですか。
南場 87歳になりましたが、元気に旅行に出掛けたりしています。野球は横浜DeNAベイスターズを応援してくれています。元気なのはありがたいのですが、今でも父は怖い存在ですから、接点はなるべく最小限にしています(笑)。
佐藤 穏便に過ごせるようにしているのですね。
南場 はい。常に姉と「父にどう言おうか」と作戦会議をしているんですよ。
佐藤 相変わらずの緊張感ですね。南場さんは、どのようなお子さんだったのですか。
南場 父の前では良い子に振る舞っていましたが、外では傍若無人な負けず嫌いな子どもでした。学校でも先生の言うことを聞かず、よく怒られました。ただ文章を書くことが好きで、中学時代はフィンランドにペンフレンドを見つけて文通していました。ピアノの演奏を録音したカセットテープを送ったりして、楽しかったです。
佐藤 すてきな思い出ですね。厳格なお父さまの意向に反して東京の大学に進学。マッキンゼーを経て、ディー・エヌ・エーを創業された当初は、事業が軌道に乗らず苦労されたお話は著書にありましたね。お父さまから励ましの手紙が届いたエピソードには感動しました。
南場 父は厳しかったですが、起業して初めて「父に守られていたのだ」と気付かされました。当社には学生時代にアルバイトをして家族を支えたというたくましい社員がいます。彼らの強さには敵わないと思うことがあります。
佐藤 私も、父の存在が大きな安心感をもたらしていたのだと、父を失ってから分かりました。
南場 大人になるまでは、人権すら認められていないと思っていましたからね。
南場智子が考える美しく尊い女性らしい役割とは
南場 男女関係なく平等に働けることは素晴らしいですが、女性の労働力活用や役員登用ばかりが重要視され、家庭のために頑張る女性が軽んじられてはいけません。私はがむしゃらに働いてきましたが、子どもがいれば間違いなく子育てに専念していたと思います。働く人生も面白いですが、私の母のように家庭を支えた人生も女性らしく、美しくて尊いものです。女性にしかできない役割に感謝し、評価することも大事です。家庭と仕事のバランスは、個人や家庭に意思決定を委ねるべきです。
佐藤 一方で一度家庭に入ると再就職が難しいといった例もあります。企業や社会が働きたい人を応援することが必要ですね。
南場 希望に合う選択肢を整えることは利益を出している企業こそが率先して取り組まなければいけません。男女関係なく、自分の人生に合わせた働き方の選択ができるようにしたいのです。
ディー・エヌ・エーは転換期、遺伝子検査サービスも開始
佐藤 ディー・エヌ・エーは今年で創業15年を迎えられました。
南場 わが社は今転換期で苦労もありますが、面白い時期です。主力のゲーム事業だけでなく、ヘルスケア事業やマンガ雑誌アプリ「マンガボックス」のようなコンテンツ事業に参入し、会社全体で挑戦しています。
佐藤 ヘルスケア事業については驚きました。遺伝子を解析するサービスなのですよね。
南場 MYCODEというサービスで、申し込みをいただくと専用のキットを送付しますので、唾液を採取して返送してもらえば解析できます。学術面は東京大学医科学研究所がサポートしています。自分の遺伝子を解析した「設計図」には、必ず気付きがあって、「この設計図だと雨漏りしやすいですよ」と言われると補強しますよね。検査結果に基づき、病気になる前に行動に移せることは重要です。
夫の病気が遺伝子検査サービスの原点
佐藤 なぜこの事業への参入を決めたのですか。
南場 2011年に夫ががんを発症し、2年間の闘病生活を見守りました。その生活が落ち着いた頃、「なぜ病気にしてしまったのか、発症前にできることはなかったのか」と考えました。私たち夫婦は外食ばかりで睡眠時間も3〜4時間、運動もしない生活で、不健康だと分かりつつ習慣を変えませんでした。それが突然、病気として返ってきてとても後悔したんです。その時の思いが事業参入の原点です。
佐藤 ご自身の体験を無駄になさらず社会貢献につなげるのは素晴らしいですね。
南場 私は事業として永続する仕組みを考えることが好きなのです。医療や教育など社会の課題は多いですが、解決するためには事業が絡まなければ勢いもつきません。かかわった人が得する形ならパワーを持って、自律して回っていきます。そういう意味で、社会善に事業を絡めることに関心があります。
佐藤 そのような南場さんの姿勢を手本とする若い経営者も多いと思います。
南場 私を先輩のように思っていただくことはありがたいですが、若い経営者は私たちとは見えている世界が違います。のびのびと、世代の違う人の言葉に惑わされず、ユーザーの審判を指針に進んでほしいです。
対談を終えて
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