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松井忠三・良品計画会長に聞く「無印ブランドの立て直しと再成長」

良品計画会長 松井忠三氏

 1980年、日本の成熟時代の始まりとともに〝わけあって安い〟というコンセプトで誕生したブランドが無印良品だ。ナショナルブランドの無駄を省き、シンプル、ナチュラルといった時代を先取りするキーワードを体現することで成長してきた。その無印良品もいったんは停滞する時期を迎え、ブランドの継続の難しさを露わにした。ブランドの立て直しと再成長について、松井忠三・良品計画会長に話を聞いた。

 

松井忠三・良品計画会長プロフィール

松井忠三

松井忠三(まつい・ただみつ)1949年生まれ、静岡県出身。73年東京教育大学(現筑波大学)卒業。西友ストアー(現西友)入社。92年良品計画入社、93年取締役総務人事部長、94年取締役無印良品事業部長、2000年ムジ・ネット社長、01年良品計画社長、08年2月より現職。

 

無印ブランド誕生の経緯と成功要因

 

品質と機能を犠牲にせず価格を下げる

-- 無印良品のブランド誕生の背景は。

松井 無印良品は、1980年に西友のプライベートブラント(PB)として、40アイテムで誕生しました。

 背景として、73年の第1次石油ショックで高度成長が終わり、79年の第2次石油ショックで日本は完全に成熟時代に入りました。そこで流通会社の戦略は、ナショナルブランドより3割安く作るPBに向かいました。

 ところが今のように一流メーカーがスーパーのPBを作ってくれる時代ではなく、各社のPBはうまくいっていませんでした。後発のわれわれは、先行する各社の苦戦を見ながら、少し発想を変えなければいけないという意識がありました。そこで、消費者の意見をたくさん聞きながら、ブランドを創り上げていきました。

 具体例として、まず「マッシュルーム」の缶詰があります。荻窪の西友のテストキッチンコアの主婦の意見で、「マッシュルームは10%捨てている」というものがありました。マッシュルームのキノコ型の部分だけを使って、端の部分は業務用に回っていて、要は捨てているのと同じことでした。そういう意味で、素材を見直していこうという発想が生まれました。

 それから「割れしいたけ」の例があります。通常の干ししいたけは大きさを分けて正規品だけが製品になりますが、消費者の意見では、スライスして使うものだから大きさは関係ないと。それなら割れしいたけも含めて売ることができ、価格は非常に安くなります。このように製品の工程の点検も行いました。また、「詰め替えティッシュ」の中身だけを販売するなど、包装の簡略化も行いました。

 こうして、基本的に品質と機能は犠牲にせず値段を安くする「わけあって安い」というコンセプトが生まれました。

 もう1つ、「モノしか見えないモノをつくる」ということが発想の原点にあります。

 例えば、われわれの商品で、「洗いざらしのシャツ」がありますが、これは白色で、綿で、アイロンも糊もかかっていない商品です。つまり、着心地や吸湿性、保温性といった、その商品の中身でしか勝負しないということです。

無印良品ブランドが成功した要因

-- ブランド成功の要因は。

松井 無印は、少し先を見る人たちによって成熟時代のキーワードになるようなことをかなりたくさん取り入れています。

 具体的には、商品を簡素にしていきますから、どんどん「シンプル」になっていきましたし、値段が非常に安く「経済合理性」も高まります。また、自然界にある素材を使いますから、「ナチュラル」な製品になります。そして実際に使う価値として「実利志向」が高まっていきました。

 このように本来持っている根本的な哲学と時代の成熟化をかなり先取りした商品として、無印良品は成長していきました。

 そして83年に青山に1号店をつくりました。商品を単品で売るのではなく、無印だけの環境と売り場をつくって売る。今でいうライフスタイルショップがわれわれの大きな柱になりました。これを機に無印の世界がどんどん広がっていきました。

 ちょうど10年目の89年6月、西友の無印良品事業部が分社し、良品計画としてビジネスを開始しました。初年度は売上高245億円、経常利益1億円でスタートしましたが、99年には売上高が1千億円を超え、経常利益は130億円に拡大し、順風満帆の成長を遂げていきました。

 

松井忠三氏の社長就任とブランド立て直し

 

「これがいい」ではなく「これでいい」のコンセプト

-- ところが一度成長が止まる局面があります。

松井 2000年に初めて経常利益、当期利益がマイナスになり、01年中間期には38億円の赤字になりました。この理由としては慢心やおごりがあり、大企業病にもなっていました。

松井忠三 また、衣料品は格好が古くてはいけないし、トレンドも追わなければいけません。残念ながらこういうところがなくなっていたので、お客さんが衣料品からどんどん離れてしまいました。

 この時に自分が思ったことは、ブランドができて20年もたつと世の中もお客さまもどんどん変わるということです。また、20年前は時代を先取りしたブランドでしたが、デフレの時代に入った時に、「わけあって安い」という哲学を商品として、当時の企業体質の中でつくれなくなっていました。この時に私は社長になり、改革を始めました。

-- 改革でブランドをどのように立て直したのでしょうか。

松井 「わけあって安い」というコンセプトは哲学ですから変えるわけにはいきません。しかしサブコンセプトは変えていかないと時代に遅れていきます。そこで「WORLD MUJI」や「FOUND MUJI」、「〝これがいい〟ではなくて、〝これでいい〟」といった新しいコンセプトを加えていきました。

 WORLD MUJIは、無印良品が外国で作られたらどんな製品になるかという観点で、商品開発の発想をワールドワイドに変えていきました。そしてデザイナーも世界を代表するクリエイターを起用し、一緒に製品をつくるようにしました。

 また、われわれは、西友時代から世界中を回って素材や製品を探して、無印良品のコンセプトを加えて商品化していました。しかしこの時代には消費者側の情報も多くなり、商品化であまり差がつかなくなっていました。そこで海外に商品開発の専門会社をつくるなど、開発のレベルを上げました。これがFOUND MUJIです。

 〝これがいいで〟はなくて〝これでいい〟については、〝これがいい〟は、例えばシャネルやグッチなど、強い嗜好性を持ち品質も優れた高価なブランドが当てはまります。

 しかしこれは好きな人もいれば、嫌いな人もいます。無印はそういうブランドではなくて、理性的な満足感から〝これでいい〟と感じられるレベルを目指すものです。一方で不安も残りますが、モノづくりのレベルを上げて、その不安を解消していきます。

時代の変化に合わせてサブコンセプトを拡大

-- 衣料品の改善は。

松井 この時にデザイナーのヨウジ・ヤマモトさんと6年間契約しました。彼らと一緒に仕事をすることで、われわれのモノづくりのレベルは格段に上がりました。そうすると最初にお客さんがいなくなっていった衣料品売場にお客さんが戻ってきてプラスになっていきました。

 それから家庭用品について、大学生の独り暮らし用製品の領域は、無印良品は非常に強いです。

 ところが就職して家庭を持つと、無印の家具から卒業していく。この「卒業現象」を変えることができませんでした。しかしWORLD MUJIで世界を代表するハイレベルのクリエイターと一緒に製品開発をすることで、家庭用品も完成度が高まっていきました。

 そうすると、今まで離れて行っていたお客さんが無印のダブルベッドなどを買ってくれるようになり、卒業現象はなくなりました。

 このように時代に合わせて、商品の開発の仕方を変えることで、復活していきました。

 

松井忠三氏が語るブランド発展のために必要なこととは

 

-- 今後の展望は。

松井 われわれがブランドをつくる中で、変えてはいけない部分があります。それは商品の哲学や出店の仕方、宣伝の仕方などですが、この変えてはいけないことが一番大事です。

 例えば、エルメスの工場はすべてフランスにありますし、グッチもイタリアにしか工場がありません。みんな守るべき原則を持ってやっていて、ここがずれるとおかしなことになります。守るべきところと大胆に変えていくところのバランスが非常に難しいですが、無印良品はそこを常に模索しながら続けていきます。そのバランスの中で、われわれのブランドがあります。

 商品開発の手法も、基本はぶらさずにしながら、時代の変化とともに変わっていきます。商品開発の手法が時代の少し先を行っていないと、また00年のような事態を迎えてしまいます。そうならないように、無印の商品開発は、5年、10年単位で少しずつ変わっていきます。

 企業体質が弱くなると、物事を変えられなくなります。したがって常に外に向かってアンテナを構え、異業種の人たちとの交流が非常に大事になってきます。

 また、マーケティングで世の中の変化を常に読み取り、商品に結び付けるためのイノベーションも必要になります。このイノベーションが次々出てくる企業体質でなければ、残念ながら商品開発の仕方は少しずつ遅れて、駄目になる可能性があります。

 ブランドとは伝統と革新の連続です。ブランドを発展させていくためにも、企業体質の強さや革新を続ける社風が重要になります。

(聞き手=本誌・村田晋一郎 写真=佐々木 伸)

 
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