生の素材を投稿したベテラン記者
イスラエルによるパレスチナ暫定自治区ガザ地区への空爆をめぐる報道で、大きな変化が起きている。ベテランの戦場記者が、現場からの目撃証言や、生の写真、ビデオをソーシャルメディアで流し、通常の「報道」とはやや異なる情報を発信しているという現象だ。こうした新しい動きに、メディア界では多くの混乱が起きている。
例えば、米ネットワークテレビ局NBCの戦場記者エイマン・モヒェディン氏(35歳)のケースだ。エジプト生まれの米国人である彼は、中東最大のニュース専門局アルジャジーラからNBCに抜擢されたベテランだ。ガザ地区担当だった同記者は、ホテル近くの海岸で4人の少年とサッカーをしていたところ、イスラエル側からの砲撃に遭い、少年たちの死を目の当たりにした。海岸には、イスラエルがターゲットとしているハマス関連の軍事標的はなかったという。

ガザからリポートするアルジャジーラ時代のモヒェディン記者
この直後、NBCがモヒェディン氏をガザ担当から突然外し、ほかの記者を派遣したことをニュースサイト「ジ・インターセプト」のグレン・グリーンワルド記者がスクープした。グリーンワルド氏は昨年、米情報当局が市民や外国人の通信を大量に傍受しているというピュリツァー賞受賞記事を報じた記者だ。
グリーンワルド氏によると、NBCはモヒェディン氏の「配置換え」について「安全上の懸念」からと説明した。しかし局内では、4人の少年が犠牲になった砲撃について、目撃したモヒェディン氏ではなく別記者が報じたことが疑問視されていた。さらに、グリーンワルド氏は、モヒェディン氏が少年らの死の直後、現場や両親の様子を伝える迫力の写真やビデオを、ツイッターやフェイスブックに掲載していたことを指摘した。米紙ニューヨーク・タイムズによれば、ツイッターの1つには「恐怖」という言葉も含まれていた。だが、これらの掲載はすぐに削除された。
モヒェディン氏がガザからいなくなったことをめぐり、ソーシャルメディアではNBCに対する批判の声が相次いだ。その数日後、モヒェディン氏はガザに復帰し、8月上旬現在、フェイスブックにガザの様子を伝える写真を次々にアップしている。
NBCは声明を発表し、「モヒェディン氏は、過去17日間、ガザでの紛争が激しくなる中、25本ものリポートをものにしてきた類いまれな記者だ。その中には、掛け替えのない、優れた記録となる4人のパレスチナ少年の死亡のリポートもある」とした。しかし同時に、紛争地における記者の配置は常に見直しを行うとも述べている。
モヒェディン氏のケースは、アラビア語も達者で、2008年から09年のガザ紛争以来という飛び抜けた経験がある同記者が、テレビで報道される前の生の素材や率直な感想をソーシャルメディアに発信したことで、混乱を深めたとみられる。
米政権や連邦議会は、イスラエルの政策や立場を政治的に強く支持しており、米国の主要メディアがその方針と異なる報道をするにはジレンマが大きい。したがって、ガザ地区住民の声を強く反映したモヒェディン氏の報道も、体制側の批判対象だったと複数のメディアやブログが明らかにしている。
批判を浴びるメディアの〝中立性〟
もう1つのケースは、英公共放送「チャンネル4」のニュースキャスターによる、YouTubeビデオのアップロードだ。キャスター、ジョン・スノー氏(66歳)はガザ地区での取材を終えて、放送波には載せなかった映像とナレーション「ガザの子どもたち」をYouTubeで発表した。
「ガザ地区で私が見たものは、今でも私の頭を蝕んでいる。住民の平均年齢は17歳で、4分の1が10歳前後。病院で会った2歳半の女の子は、頭蓋骨と背骨の負傷で、両目の周りがパンダのように内出血で赤く腫れていた」と語った。ビデオ撮影は高画質(HD)で、同局スタジオの中で行われたが、「中立性」を欠くとの理由で放送されず、チャンネル4のサイトとYouTubeであえて公開された。
「これはガザで起きている現実で、私たちはこの子たちに対して責任がある。が、国連も英国政府も世界も関心を抱いていない」との意見を展開した。
これについて、放送されなかったことへの批判が起きた。
「優れたキャスターがウェブサイトやYouTubeでしか自分の意見を述べられないのはおかしい」というのが代表的な意見だ。
イスラエルとパレスチナだけでなく、世界中が何らかのかたちで巻き込まれている今回の紛争。戦場記者らの激変がそれを映し出している。
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