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老舗の手掛けるブランディグ戦略が海外でも高評価--丸山邦治(丸山海苔店社長)

丸山邦治氏

〝プロ〟をも唸らせた高品質

 景気低迷を背景として価格競争に翻弄され続けてきた食品業界。特に国内産は、東南アジアを中心とする低価格商品の台頭が著しく、日本の生産者を脅かしているのは周知のとおり。

 その潮流は日本を代表する食材である海苔業界にも大きな打撃を与えてきた。さらには、国内の海苔メーカーも高級品を扱う老舗から大衆店まで群雄割拠。好況感が漂う消費市場においても依然として予断を許さない状況にある。

 そんな中にあって創業安政元年(1854年)の丸山海苔店は独自のブランディング戦略を展開、業界に新風を吹き込む存在として、業界内外から注目を集めている。市況が厳しい中にあって、思い切った戦略を次々と打ち出せた要因について同社の丸山邦治社長は、次のように語る。

 「これまでわれわれの中心顧客は寿司屋さん、高級ホテルなど言うなればプロの料理人でした。そもそも弊社には、規模を追うというカルチャーが存在しませんでした。それゆえ無理な投資を必要としてこなかったことが最大のアドバンテージとなったのです」

丸山邦治

丸山邦治(まるやま・くにじ)
1961年花王入社。企画部長、国際部長などを経て、80年花王アメリカ副社長、85年ニベア花王常務取締役総支配人。91年より丸山海苔店の5代目社長に就任。

 この言葉を裏付けるように同社の商品をひいきにするプロの料理人は今や3千人を超えるという。また、ミシュランの星を獲得した寿司店の約6割が得意先ということからも、同社商品の実力の程をうかがい知ることができる。

 最高級ブランドは「佐賀のはしり」。「はしり」とは〝旬〟を意味する。鮮度を保つためつくりおきせず、オーダーの状況を注視しながら製造、焼きたての海苔を直送する。同商品は舌の肥えた人々からたちまち高い支持を受け、いまや「瀬戸のはしり」「上総のはしり」とシリーズ化にも成功している。

 また、通常の海苔に青海苔が飛んだ「こんとび」は昔ながらのワイルドな味、海苔本来の高級な味の価値を再発見して提供したことで、今ではプロが好んで使用する商品となっている。

 「弊社が掲げる社是は〝老舗は常に新しい〟。老舗だからといって守りに入れば次の成長は見込めません。そういう意味では私のブランディング戦略の基本にあるのは職人気質を踏襲しながら新境地を開拓することにあります」(丸山社長)

 とはいえ、新規ブランドを立ち上げる以上、顧客層拡大が必要。業績が市況に左右されにくいBtoBだけに依存してばかりもいられなくなる。

 そこで同社では、ここ数年、BtoCの拡大にも注力している。基本としている戦略はダイレクトメール。同社の海苔を使用する寿司屋でファンになった顧客から「贈答用に欲しい」という声が高まったことからヒントを得て、この層を優良顧客として囲い込む。さらに贈答先もファンになったことで、徐々にBtoCは広がりを見せる。

文化の海外発信を担う「寿月堂」

 そんな同社が次代の成長エンジンとして据えているのが「寿月堂」ブランドで販売している日本茶だ。これは約30年前、丸山氏が社長に就任後、本格展開した分野だが、海苔同様、その品質の高さからファン層は拡大している。また、「寿月堂」のお茶は、国内は当然、何よりも海外に向けた日本文化の発信商材としての重要な側面も持っている。

 2008年にパリのサンジェルマンデュプレの1等地にオープンした「寿月堂パリ店」は、地下に茶室を完備するなど、日本文化の発信地としてファション誌の『FIGARO』や『ELLE』や、ニューヨークタイムズ等、メディアにも盛んに登場し、大いに話題となった。

 「パリ店は千利休の提唱した〝茶道と禅道は一味〟という言葉をコンセプトにしています。設計をお願いした隈研吾氏には、この茶道と禅道を一体化した〝茶禅〟実践の場という考えを基本に設計してもらいました」(同)

 同店の評判は、ジョルジュサンク、リッツカールトン、マンダリンといった超一流ホテルやヨーロッパ最大の老舗デパート「ギャラリーラファイエット」を動かし、商品として採用されている。

 さらに国内でも、昨年竣工した新歌舞伎座タワー5階の設計を担当した隈研吾氏に再び依頼「寿月堂 銀座 歌舞伎座店」としてオープンさせるなど〝寿月堂ブランド〟の浸透に注力している。

 それら努力は、公的機関ともいえる日本政策金融公庫の「〝中小企業の海外販路開拓とブランド構築〟に成功している15社」に選出されるなど着実に実を結んでいる。

 「日本の文化外交は遅れているといわれています。文化とは商品を輸出するだけでは駄目で〝場〟を設けることが重要なのです。単に輸出するだけでは本当の文化外交とは言えません。そういう意味で、パリ店はわれわれの文化発信の橋頭保とも言える店舗でもあるのです。顧客の9割は現地の方々で、われわれの狙いは確実に成果を上げていると自負しています」(同)

 丸山海苔店の今後のブランディング戦略の行方を興味深く見守りたい。

(文=本誌・大和賢治 写真=西畑孝則)

 
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