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経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

夜間取引実施をめぐり迷走する証券業界

斉藤 惇氏

 東京証券取引所が、現物株の取引時間の延長について議論するために設置した研究会は、異例の「結論なし」に終わった。迷走ぶりが指摘されただけに、東証や親会社の日本取引所グループ首脳の手腕が問われる。

対面型証券会社に動揺が広がる

 「(委員の)総意はまとまらなかった。東証がどう判断するかについては、われわれの関知するところではない」

 7月末、研究会の座長としての最後のブリーフィングに臨んだ大和総研の川村雄介副理事長はこう語り、特定の結論を出せなかったことに残念そうな表情を見せた。

 もともとは2013年3月に発表された日本取引所グループの中期経営計画に「夜間取引の実施検討」が盛り込まれたことが発端。これに呼応するように、松井証券などインターネット専業の証券会社が個人投資家にアンケートを実施したり、東証に夜間取引の実現を要望したりするなどの動きが加速した。

 驚いたのは、営業マンと店舗を抱える昔ながらの対面型証券会社だ。夜間取引が始まれば「シフト制を導入しなければならなくなる」(幹部)など、勤務体系の大幅な見直しやシステム投資でコスト増は避けられない。

 日本取引所グループの斉藤惇CEOは当初、第三者機関に否定的だったが、結局は今年2月に研究会を設置し、利害の対立する双方の首脳、幹部を委員に入れた。議論の中で方向性を見いだせれば、東証の結論も容易になる。しかし、川村座長が「バトルロイヤル」と呼んだように、全く歩み寄りが見られなかったのは大きな誤算だった。

斉藤 惇

斉藤 惇・日本取引所グループCEO

 研究会では、事務局を務めた東証が夜間取引のコアタイムを午後9〜11時に設定して議論を始めた。しかし、ある証券会社の首脳が夕方に取引を行うことを並行して議論することを主張。これを川村座長が引き取り、午後3時半〜5時の時間帯についても検討することになった。夜間・夕方の両案は、現在行われている現物株市場とは「別市場」とのロジックを使った。反対する取引参加者に参加を強制しないことと、終値はあくまで現行と同じ午後3時として、投資信託の基準価格の算出など、事務への影響を避けることが目的だ。

 このほか、取引時間そのものを午後4時くらいまで延長し、香港やシンガポールの株式市場との重複時間を増やす案も出た。研究会の結論は結局、この3案を併記して終わった。

 迷走の背景には、主要な〝登場人物〟の人間関係もある。日本取引所グループの斉藤CEOは、少なくとも表面上は、議論の行方を明確化するのに、古巣の野村証券の後押しを得られていない。同じく野村出身の稲野和利・日本証券業協会会長も議論の行方を静観するばかりだった。一方の川村座長も、夜間取引に比較的前向きとされる大和証券出身の清田瞭・東証社長と、反対を明言した大和証券グループ本社の日比野隆司社長との板挟みになっていたようだ。

 川村座長は最終報告の発表時、「順序としてはまず、夜間取引を検討すべきだ」と主張した。研究会で行った夜間についての論点を整理し、東証が判断する。

 その際、重要になってくるのが実施した場合の売買代金だ。せっかく始めても取引が少なければ、東証に批判が集まるのは必至だからだ。現に、一部の証券会社が運営するPTS(私設取引所)では、夜間の取引量は15億円程度。東証での1日の売買代金は1兆5千億円と、差はあまりに大きい。東証が実施すれば、信用取引が行える可能性が高いほか、取引所取引の安心感も手伝い、PTSよりは増えるとみられる。ただ、どの程度増えるかは「やってみなければ分からない」(東証幹部)のが現実だ。

 「(東証が1月から実施した)株価の刻み幅縮小のように、流動性の高い100銘柄(TOPIX100)に絞ってやればいい」(市場関係者)との意見もあるが、「取引機会については、銘柄を差別できない」というのが東証の立場だ。

東証に対する批判の声も

 午後9時くらいから始まる夜間であれば、日本取引所の斉藤CEOが繰り返す「現在、多くが午後3時以降に行われる情報開示を踏まえた取引」ができる可能性が高い。現在は開示を踏まえた取引が日本より海外で先に行われており、東証内ではこのことを問題視する空気が強い。

 証券会社などが大株主だった東証だが、昨年1月に大阪証券取引所(現大阪取引所)と経営統合したことで上場。証券会社の意向を過度に聞かなくてもよくなった。10年に取引時間延長を議論した際、東証は反対意見に押される形で、翌年から昼休みを短縮することが精いっぱいだったが、今は状況が変わり、「フリーハンドで決められるようになった」(証券会社関係者)。

 ただ、上場した途端に「国際化」を掲げ、証券会社に負担のかかる株価の刻み幅縮小などに打って出た東証に対して、批判の声も大きい。また、刻み幅縮小も夜間取引もPTSが先行してきただけに「PTSつぶしではないのか」との指摘もある。

 東証は既に、証券会社や投資家からのヒアリングを始めている。決定は今秋までとの観測に対して、斉藤CEOは出張中の台湾で8月、「年内に決めたい」と話した。対面型証券会社の関係者には「皆の意見を聞いて決めた、という体裁を整えたくて時期を延ばしたのではないか」との見方もある。決定までにまだ、波乱が起きる可能性も否定できない。

(文=ジャーナリスト/柳一夫)

 
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