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格安航空会社参入で深刻化するパイロット不足

ニュースレポート

 航空業界で格安航空会社(Low Cost Carrier、LCC)の台頭が目立つ。グローバル時代の「庶民の足」として急成長しており、今後も拡大する見通しだ。だが、航空規制の緩和が遅れた日本は本格LCC時代の到来を前にパイロット不足に苦しんでいる。

コスト削減で急成長

 LCCとは、これまで大手航空会社が行っていたサービスを見直し、運航機材を統一するなどしてコスト削減を徹底し、ユーザーに低価格運賃を提供する航空会社のことだ。

 原型は1977年9月にニューヨークとロンドンを格安チャーター料金で結んだ英レイカー航空とされ、他社より預けられる荷物の重量を減らして燃費向上を図るなどのコスト削減努力で利益を上げた。

 その後、多くのLCCが現れたが、2000年代に入ると世界的な景気後退やイラク戦争による原油価格の上昇が航空会社の経営を圧迫する。スイス航空や米ユナイテッド航空など大手航空会社が破綻し、格安運賃を武器にするLCCが各国のマーケットシェアを奪っていった。

 欧州ではライアンエア、米国ではサウスウエスト航空、オセアニアはジェットスター航空、アジアはエアアジアなどがその代表例だ。各社は使用機材を限定し、エコノミークラスだけに統一し、座席を自由席にして、インターネットでチケットを直販するなどコスト削減に知恵を絞った。各国が相次いで航空規制を緩和したことも後押しして、世界の航空会社の総座席数に占めるLCCのシェアは01年の8%から11年には24%に急増した。

 だが日本では長く続いた国内景気の低迷を理由に、政府がLCCの参入を制限してきた。ジェットスター航空が外資系LCC乗り入れ第1号として日本に参入したのは07年のこと。日系LCCのピーチ・アビエーション、エアアジア・ジャパン、ジェトスター・ジャパンの3社が国内線の運航を始めたのは12年になってからだった。

 そこで、新規参入組のLCC各社が直面したのはパイロット不足だ。路線拡張や増便をしたくても機材を運航するパイロットが足りない。ANA傘下で成田を拠点に1日20便余りを運航するバニラエアは、今年6月に全体の2割に当たる150便の運航を取りやめた。関西国際空港を拠点とするピーチ・アビエーションも、5〜10月で合計約2千便の運航を中止した。

ピーチ・アビエーション

5〜10月で約2千便の運休となったピーチ・アビエーション

 長期にわたり手厚い航空行政に守られていた日本では、新規参入が少ないことを前提にパイロットの基礎教育は航空大学校など一部の機関に限られていた。学校を卒業し、毎年100倍以上という厳しい競争を勝ち抜いてJAL、ANAに入社できた生え抜きだけがパイロットの養成訓練を受けられる。

 一人前のパイロットは一朝一夕には育たない。パイロットの資格を得ても、実際に航空会社で機長として操縦かんを握るまでには10年以上のキャリアと、1億〜3億円の育成費が必要になる。飛行機の機体ごとに覚えなければいけないことも多く、パイロット資格さえあればいいという話ではない。

 そのため、LCCが即戦力になるパイロットを中途採用したくても、かつてJALの経営破綻でリストラされたパイロット以外に応募する人はほとんどいない。JALやANAのパイロットは年収1500万円以上が珍しくないが、LCC各社のパイロットは年収700万〜800万円とされ、収入差が大き過ぎるのも人材の流動性を阻む一因という。

 ならば海外からパイロットを採用すればいいと思えるがこれも難しい。海外で資格を取得していても、日本の航空会社に就職するには新たに資格を取り直す必要がある。しかも日本では飛行時間や適性などパイロット資格の取得基準が海外よりも厳しい。海外ではパイロットの派遣会社があり航空各社は派遣パイロットで人材不足を補うことができるが、日本には派遣会社制度自体が存在しない。

対応策は待ったなし

 参入が遅れたために日本ではLCCに対する認知度がまだ低い。旅行業界の調査によれば実際にLCCを利用したことがあると回答した人はわずか2%未満だ。だが、成田や羽田だけではなく、地方空港も採算割れを回避するためアジア近隣諸国の海外LCCの誘致に力を入れている。LCCを選択する人が増えればパイロット不足に拍車が掛かる。

 日本には「2030年問題」もある。JAL-ANAの機長クラスは40代以上に偏っており20〜30代は訓練生や副機長クラスが目立つ。国土交通省のデータではこのままだと機長クラスが相次いで定年退職する30年ごろには日本の空でパイロットが約8500人必要になるとみられる。世界規模でもビジネスや観光などの航空需要の拡大で、30年には約98万人のパイロットが必要になる。著しい経済成長をみせるアジア太平洋地域では約23万人が必要で、各国の航空会社によるパイロット争奪戦は必至の情勢だ。

 例えば、40歳前後で現役を退く航空自衛隊のパイロットの転職を促す知恵はないか。パイロットの定年を延長するための健康管理や検査の仕組みをつくれないか。私立大学などにパイロットの養成機関を増やせないか。有能な外国人パイロットの導入促進策はないか。パイロット確保に向け、早急な対応策が求められている。

(文=ジャーナリスト/梨元勇俊)

 

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