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経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「ゆるい就職」は雇用改革の起爆剤になるか

話し合う参加者

 大学を卒業し、正社員として就職。定年まで週5日、フルタイムで働く……。日本人の多くが選択する「既存コース」に一石を投じ、新たなワークスタイルを模索するプロジェクト「ゆるい就職」が始まった。果たして、人材不足の解消などにつながるプロジェクトに成長するのだろうか。

週休4日で月収15万円 集まった高学歴の若者

 「ゆるい就職」は、新卒の学生から25歳以下の若者を対象に「週3日勤務で月収15万円」の派遣や契約社員の仕事を紹介、マッチングするサービスだ。この仕掛け人は、構成する全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生による自治体改革ユニット「鯖江市役所JK課」などを企画してきた慶応義塾大学特任助教の若新雄純氏。主婦に特化した人材サービス会社、ビースタイルが運営する。

話し合う参加者

週4日の休日をどのように過ごすか話し合う参加者

 9月2日から始まった「ゆるい就職」の説明会には、ビースタイルが当初想定していた定員の4倍である、求職者約360人が殺到した。同社によれば、参加者は平均年齢が23・5歳、男性が67%、女性33%。学生が60%、既卒が40%で、大学別に見れば東大・京大・一橋・国公立が10・8%、早慶上智、ICUが10・1%を占めており、「比較的高い学歴を持った若者が多く、芸術や音楽活動をしている人や起業準備中の人もいる」という。

 具体的な求人は、現在集めている最中だとするが、こうした若者を採用したいという企業からの問い合わせもある。関心を示している企業はIT業界やベンチャー企業、若手採用が難しい中小企業などで、仕事内容はデスクワークが想定されている。マッチングが成立すれば、早くて11月頃から就業が始まる。

 一方、週3日勤務で若者が高いパフォーマンスを発揮できるのか、という声もある。実際に、説明会でも若新氏は「週休4日を若者が持て余すのではないか」という疑問の声があることを紹介している。しかし、それを受けたグループディスカッションで参加者からは、週4日の休日を「資格取得のための時間に充てる」「起業したが、軌道に乗るまでの生活費を稼ぎたい」といった前向きな意見が多かった。

 それでも、新卒同然の若者が「週3日勤務15万円」に見合う働きができるのか。これをフォローする仕組みがあるのが、ゆるい就職が現行の派遣紹介と違っている点だ。

 まず、就業までの期間にワークショップが開かれる。ここでは週休4日で働くための心構えや受け入れ先の企業に貢献するための働き方を叩き込む。説明会でも「ゆるいのは雇用形態で、仕事内容はゆるくはない」という言葉が強調されていたが、ワークショップをとおしてあらためて求職者を鍛えるという。また「週休4日という働き方」が必要であるという理由についても参加者同士で明確にする場を設ける。こうして、受け入れ先となる企業に理解してもらうだけでなく、「週5日、フルタイム」がスタンダードである社会に対しても、説得材料を作る考えだ。

「仕事は消化試合」価値観の変化に合わせる

 一企業の新サービスをとおして見えてくるのは、日本社会の雇用スタイルに潜む問題点だ。若新氏は説明会で、高度経済成長期には誰もが共通の目標を持ち、「月給取り」になることが魅力的だとされてきたと指摘。一方で、価値観が多様化した現代では、「仕事を頑張れば幸せになれる」という価値観だけでは通用せず、新しいワークスタイルも必要だとする。参加者からも「残業が月に100時間。休日も仕事に影響のないように過ごすしかないことに疑問がある」といった意見もあった。こうした考えを持つ若年層を既存の価値観にはめ込み、生産性を上げることが企業にとって果たして得策なのか。あらためて若年層のマネジメントについて考え直す必要があるとの問題意識がある。

 また、人材難が続き、主婦をパート採用し、家事の合間を有効活用してもらう物流業界の企業や、シニア層を活用する企業なども出てきた。「ゆるい就職」も、能力はあるが、仕事以外にも目標を持つ若年層を有効活用することで人材難を補う選択肢となり得るだろう。

 一方で、若新氏が説明会で繰り返していた「実験的な取り組みであり、やってみなければ分からない」の言葉どおり、どのような成果が出てくるかは未知数だ。プロジェクトに飛び込むことに若者側の不安はないのか。説明会に参加した25歳の男性はこう答えた。

 「起業に向けて勤めていた会社を辞めました。『ゆるい就職』に参加したのは会社が軌道に乗るまでの期間を有効利用したいと思ったから。月収15万円で生活は可能かという質問もありますが、私はシェアハウスで生活しているので家賃などは掛からないし問題ないです」

 また社会保険の一部には加入できないといったこともあるが、将来の不安についても、「今立ち上げた会社を軌道に乗せればいいだけで、将来のことはそこまで不安を感じていません。今は、このプロジェクトに魅力を感じ、期待しています」と飄々としていた。

 そうは言っても、まずは若年層の求職者が週休4日のワークスタイルで実績を出すことが求められる。ある参加者からは「共通の目標もない社会で消化試合のような仕事をするために週5日も費やしたくない」という刺激的な発言もあった。消化試合のような仕事、と若年層に思わせている現実と向き合い、柔軟な雇用スタイルを模索していくべき時なのかもしれない。

(文=本誌・長谷川 愛)

 
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