トラック燃料に使う軽油の需要が鈍っている。天候不順の影響で飲料や農産物などの輸送が減った。機械など工業製品の輸送は堅調なものの、一部で運転手不足の影響が出て荷動きは滞っている。原油安も加わり、スポット(業者間転売)価格は約7カ月ぶりの安値となっている。〈中略〉石油連盟によると、8月3日〜9月6日の出荷量は前年同期と比べ1割程度少ない。(日本経済新聞2014年9月18日)
原油入着価格の高止まりが与える影響
国内のエネルギー価格を測る上で重要な目安となる原油の入着価格が過去最高値圏にある。原油の入着価格とは、ドル建ての原油価格に為替や運賃、保険料を加味して1キロリットル当たりの円建て原油価格を算出したものである。
為替については、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の基本ポートフォリオが変更され外貨建て資産の構成比率が高まることが想定されていることや、来年にかけて日銀の量的緩和継続期待等から円の先安感が強い。一方、米国では10月の連邦公開市場委員会(FOMC)でテーパリングが終了することが規定路線になっており、その後の出口戦略の道筋が提示される期待からドルの先高感も強い。このため、ドバイ原油価格自体は最近下落傾向にあるが、円建て原油価格は高値を維持する可能性がある。
原油入着価格が上がれば、ガソリンをはじめ、軽油や重油等のエネルギー価格も連動する。さらに、原油の入着価格は液化天然ガス(LNG)取引の長期契約の値決め指標にもなっている。このため、原油入着価格が上がればLNGを通じ、電気ガス料金も値上がりを余儀なくされる。
したがって、消費税率引き上げにより負担が高まっている企業や家計の負担は一層重くなり、15年ぶりの賃上げ率により、ようやく動き始めた経済の好循環に水を差しかねない。
そして原油入着価格の高止まりにより、物価の持続的な上昇と経済活動の停滞が共存すれば、スタグフレーションに陥ることになる。そもそもスタグフレーションとは、景気の悪化にもかかわらずインフレ率の上昇により経済が停滞することを意味する。一般的には、雇用・所得環境が悪化するとインフレ率は低下する。しかし、雇用・所得環境が悪化する中でもインフレ率が上昇すれば、実質的な購買力が減ることに加えて預貯金の実質的な価値も下がるため、国民生活の困窮が生じることになる。
スタグフレーションの条件としては、何らかの外的ショックによって生産コストが上昇し、それが販売価格に転嫁されるいわゆるコストプッシュインフレの場合に起こり得る。需要の増加以上に価格が上昇するため取引量も減少し、インフレと経済の停滞の共存が生じるためだ。
英米の経験は日本に当てはまらない
国民生活への影響について過去の事例を踏まえれば、まず1960年代末から70年代の英国でインフレと失業が深刻となった。このため、当時のサッチャー首相はサッチャリズムといわれる改革により規制緩和や民営化、競争促進や福祉削減を実行し、英国経済を立て直した。その後、米国でも79年の第2次オイルショックによりスタグフレーションが深刻化したが、減税や規制緩和を柱とした「レーガノミクス」や当時のボルカーFRB議長による強力な金融引き締め策によってインフレは終息した。
このように、むしろ供給面に問題があった過去の英米では規制緩和等の改革を中心にスタグフレーションを克服してきた。しかし、GDPギャップがまだマイナスの現在の日本には当てはまらないだろう。
需要不足から完全に脱却していない日本では、需要喚起策を縮小することが最も危険である。とりわけ、アベノミクス第1の矢の金融政策は引き続き重要な位置付けを担う。ただ、第2の矢である機動的な財政政策には見直しの余地がある。柱の公共事業が人手不足等によりむしろ民間投資の足を引っ張っているためだ。公共事業や軽減税率導入のための予算を月額1500億円の減税規模となるトリガー条項発動にシフトできれば、ガソリンや軽油価格の低下を通じて消費増税の悪影響を緩和できる可能性が高い。
エネルギー資源の効率的調達にも、本気で取り組む必要がある。米国のシェール革命により天然ガス価格が下がる中、日本は原油価格に連動させた割高なガスを海外から輸入している。こうした資源の高値掴みを抑えるためにも、北米産シェールガスの輸入やロシアからのガスパイプライン敷設をはじめ、資源を安く買うためのあらゆる選択肢を実現する必要がある。さらに、発電コストの安い高効率の石炭火力発電所の新設や電力・ガス事業の地域独占まで踏み込んだ改革も有効と言えよう。
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