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「NIPPONを憧れの国から今行きたい国へ」--松山良一(日本政府観光局 理事長)

日本政府観光局 理事長 松山良一氏

 2013年度の訪日外国人観光客数が初めて1千万人を突破した。ただ、政府は20年までに2千万人の誘致を目標に掲げる。諸外国との熾烈な誘致競争が予想されるなかで、どう方向性をつけていくのか。日本政府観光局理事長の松山良一氏に話を聞いた。

「ニッポンに元気を」が観光業界をひとつにした

── 昨年、訪日外国人数が1千万人を突破しました。

松山 震災直後は、日本全体の元気がなくなっていました。その時に観光産業の方々の「観光の力で日本を元気にしたい」という共通の想いが、とかくバラバラな旅行業界をひとつにまとめ、業界を盛り上げることができました。業界が一致団結したことが訪日客数増加の推進力になったと思っています。

松山良一

松山良一(まつやま・りょういち)
1949年鹿児島県生まれ。東京大学卒業後、三井物産に入社。米国三井物産副社長、九州支社長を経て、2008年初代駐ボツワナ日本国特命全権大使に就任。11年より現職。

── ビザ緩和の影響は。

松山 ビザの緩和も追い風になりました。安倍政権になったことで本格的に取り組んでいただき、タイ、マレーシアへのビザが免除され、インドネシアやフィリピンなども1次ビザから数次ビザに緩和されたことで、訪日客も随分増えました。中国に対しては、お隣韓国に比べて数次ビザの条件が厳しいですから、韓国の430万人に対し、日本への訪問者は130万人とまだ開きがありますね。

── インバウンドが他国に比べて少ない理由は。

松山 従来、日本の旅行会社はアウトバウンドを主に行っていました。それは、1980〜90年代ごろは外貨が余っていましたから積極的に海外旅行を奨励していたんです。03年の小泉政権時に、ようやく、「ビジットジャパン」キャンペーンを始めたんです。もうひとつは、他国との激しい競争があります。日本は出遅れていましたが、観光産業が重要な分野だという認識が広がってきました。現在、訪問客は世界で27位ですが、日本の観光ブランド力はイタリアに次いで2位なんです。「いつか行きたい憧れの国」から、これからは「今行きたい国」に変えていくことが重要ですね。

── 目指すべきは世界一の観光大国フランスですか。

松山 フランスは文化を売りにして、そこに行けば何かがあるということをストーリーとして語ることがうまい。一日の長がありますよ。ただ、欧州は陸続きですから、飛行機で来るのは二千数百万人です。一番PRがうまいのはタイだと思いますね。タイのインバウンドは2600万人。「今すぐタイへ行かなきゃ」と欧米人を中心に思わせています。CMやキャンペーンの物量作戦でも積極的で、日本は後れを取っていますね。

東京五輪までに行うべきこと

── 東京五輪、ラグビーワールドカップの影響は。

松山 2019年にラグビーのワールドカップが、20年に東京オリンピック・パラリンピック(五輪)が、そして一般的にはまだ知られていないのですが、21年に関西でワールドマスターズという大会が行われるんです。お金を払えば誰でも参加でき、五輪に比べて、参加者数も倍の2万6千人が日本に来られるんですよ。しかも、お金持ちが多いですから、一族郎党引き連れて経済効果も非常に高い。こういったメガイベントがあるわけですから、経済効果はもちろんのこと、訪日される方と相互理解を深めて日本のファンをつくるということが大事ですね。

世界各国・地域への外国人訪問者数── ロンドンも五輪後、観光客を増やしました。

松山 00年のシドニー大会が初めて五輪と観光をからめた準備をしてきたんです。以前は、オペラハウスくらいしか名所が浮かばなかったのですが、今は人気の観光地になっています。ロンドンも五輪後に観光客を増やしましたが、その大きな理由はイギリスのイメージを変えたことです。イギリスは、ジェントルマンの国ではありますが、一方で、交通機関は遅れる、食事はまずい、気取っているなどネガティブなイメージも多かった。それを、五輪をきっかけに「ウェルカムな国」というイメージに変化できたんです。日本も五輪に合わせレガシー(遺産)をどう生かすか真剣に考えているところです。日本というブランドを売り出すチャンスですからね。また、文化イベントを行うようにIOCからも言われているんですよ。

── IOCからですか。

松山 16年に行われるリオデジャネイロ五輪が終わった後の4年間で、スポーツだけでなくアートや演劇、音楽祭など日本全国でイベントを行います。次の開催地として各国から注目されるチャンスですから、東京だけでなく地方の情報も発信していければと思っています。そういった意味では、東京五輪ですが日本全体で開催するつもりでいかねばなりません。

── 訪日客数2千万人に向けてやるべきことは。

松山 まずは3つの意識改革が必要です。

 これまでの日本を支えた「ものづくり」頼みを脱却し、観光を農業とともに基幹産業にする意識を持たなければなりません。

 もうひとつは、観光消費額が現在25兆円程あるのですが、そのうち90%以上が内需で、外需は最近ようやく1割程度にまで増えたばかりです。地方に至っては、外需はわずか1%程。ですから、旅館などの周辺産業もいまだ日本だけ見ているといった状況です。諸外国を見てみると、韓国は47%、フランスは34%と外需の割合が多くなっています。ビジネスチャンスは確実にありますからもっと外を向いていただくことが大事ですね。

 3つ目が、日本人は道に迷った観光客に対して言葉は分からないけれど目的地まで連れて行くといった親切な国民性を持っていますが、言葉に対するコンプレックスは強いわけです。こればかりは、教えて直るものでもありません。外国人観光客の多い岐阜県高山市では、小学生が外国人の先生と一緒に観光客をおもてなししています。「習うより、慣れろ」ということですね。

日本の強みは「日本人」

── インフラはどうですか。

松山 首都圏では空港の発着枠もホテルなどの宿泊施設のキャパシティも今のままでは足りません。2千万人にまでインバウンドが増えることを想定すれば、ホテルも増やさなければなりませんし、現在、制限されている都心の上空を飛行機が飛ぶことに関しても緩和して発着枠を増やすことが必要でしょう。

 一方で、地方はまだまだ余裕がありますから、地域の活性化と一緒になって地方へ誘導しなければなりませんね。

 「WiFi」の問題もあります。今は、外国人、日本人を問わず旅行者はネットの情報を頼りに旅をしますし、撮った写真もその場でSNSにアップします。友人や知り合いからの口コミ情報が、一番信頼され、宣伝効果も高いですから、私たちも、ポイント設置を重点課題としてとらえています。

松山良一── ほかにもありますか。

松山 あとは、この10月1日から免税制度が改正され、ショッピングが盛り上がっていますが、クレジットカードが使えないところも少なくありません。そうすると、現金が必要になります。

 海外ですと銀行ATMからクレジットカードで現地通貨を引き出せるのですが、日本のセキュリティー認証のシステムが諸外国と違うので、現在は、ゆうちょ銀行とセブン銀行のATMでしか、クレジットカードを使うことができないんです。

 これは、システムが古いわけでなく逆に振り込みなど高機能なATMだからこそ、セキュリティーシステムも高度になっています。でも、それがガラパゴス化の原因でもあるんです。ゆうちょ銀行とセブン銀行の2つのATMは、自社のセキュリティー認証と同時に、一部海外と共通のシステムを入れて対応しています。こういった現状をメガバンクにもお話をしまして、来年から対応していただけるめどがたっています。

 「いらっしゃい、いらっしゃい」といっても、受け入れ態勢がしっかりしないといけませんからね。海外だと外貨の交換所が多いですが、日本ではあまり見掛けないじゃないですか。まだまだやらねばならぬことは多いということです。

── 日本の素晴らしさをひとつ挙げるとしたら何でしょうか。

松山 日本人、日本人そのものですね。震災の時に見られた日本人の気質などに外国人は感動します。海外でも「10things to learn from japan(日本から学ぶ10のこと)」という震災下での日本人の美徳を綴ったメールが世界中を駆け巡りました。また、モノづくりの世界も微に入り細に入り奥深い。そして、何よりすごいのは日本人の生活です。

 以前、福島県のいわき市で会議を行った時にASEANの方たちと同行したんですが、東京に戻ってきて彼らに何が良かったか聞いてみたんです。そうすると「田園風景が素晴らしい」というんですよ。桃源郷みたいできれいだというわけです。

 一番のポイントは「ありのまま」です。こちらが、これがいいと思うから勧めるのではなく、海外の方の目線を大事にする。きれいな空気とおいしい水が飲めて、安全な国は世界中探してもほかにはありません。

 日本という国に自信と誇りを持っていけば何も心配することはありませんよ。

 
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