モバイルへの選択と集中が実を結ぶ
米シリコンバレーで、一度ナンバーワンから転落すると、立ち直るのは難しい。それを果たした稀有な例がアップルだが、それは、創業者である故スティーブ・ジョブズ氏の強烈な哲学と辣腕があったお陰だ。しかし、今、ヤフーという名門企業も「返り咲き」への着実な歩を進めている。
ヤフーが今年10月に発表した第3四半期決算によると、マーケティング提携企業に支払うトラフィック獲得費用(TAC)を除いた純粋な売上高が10億9千万ドルと、前年同期から1%増加。ロイター通信によると、売上高が伸びたのは過去6四半期で2度目だという。
スマートフォンやタブレット端末の急速な普及で、モバイル部門の売上高は2億ドル強、通期では12億ドル強、つまり1272億円もの収入を見込んでいる。昨年末、ヤフーのサービスをモバイルで利用した月間ユーザー数は4億人を突破していた。
マリッサ・メイヤー最高経営責任者(CEO)は、「当社が実施してきたモバイルへの多大な投資が実を結んでいる」と述べた。

CES 2014の基調講演では、マリッサ・メイヤーCEO(右)と共に、元国際ジャーナリストのケイティー・クーリック氏が登場した(PHOTO:AFP=時事)
純利益は67億7千万ドルと、前年同期の2億9670万ドルから拡大した。中国の電子商取引最大手、阿里巴巴集団(アリババグループ)株の売却益63億ドルが寄与。これらの特別項目を除く純利益は5億4300万ドルだった。
メイヤーCEOは、検索大手としては後発ながら、ヤフーをトップから転落させたライバル、グーグルのサービス開発担当だった。2012年、出産を2カ月後に控えていた中、グーグルからヤフーのトップに抜擢され、以来、「選択と集中」の経営をリードしてきた。
メイヤーCEOは、これまで30社以上のベンチャー企業を買収。その中には、ソーシャルブログサービスで大人気のタンブラーが含まれ、11億ドルという巨額買収も達成した。また、モバイル端末によるサービス利用が拡大する中、モバイルアプリメーカーの買収も急いだ。
ヤフーの株価は一時5ドルを切ったが、現在は40ドルを超えて取り引きされている。
メディア企業への第一歩を踏み出す!?
メイヤー氏の経営は、「モバイル」に集中している。今年1月、米ラスベガスで開かれた世界最大の家電見本市CESで基調講演を行ったメイヤー氏は、スマホ向けアプリのアヴィエイトを買収すると発表した。アヴィエイトは、スマホの画面に並ぶアプリを時間や状況に応じて自動的に並べ替える「スマート・ホームスクリーン」技術を持つ。朝は、よく見る交通情報や天気予報、メールなどのアプリが並び、夕方は、ビデオやテレビ、レストランの検索アプリが表示されるなど、まさにモバイルならではのサービスだ。
「自分で探すことなく、携帯電話がぴったりのタイミングで見たいと思った情報を知らせてくれることを想像してみてください。例えば車内では地図や音楽、ジムではフィットネスのアプリがすぐに使えるようになる」とメイヤー氏は説明する。
このほかにも「目玉」があった。モバイル環境におけるメディア事業の展開だ。CESに先立つ昨年末、ヤフーはベテランジャーナリストのヘッドハンティングを盛んに行った。ヤフーに移籍した1人に、元テレビアンカーで国際ジャーナリストのケイティー・クーリック氏がいる。クーリック氏は、ABCの夕方のニュース番組で唯一の女性アンカーだった。
クーリック氏は、CESの基調講演でメイヤー氏とともに舞台に登場。
「重大なニュースを時間や場所を選ばず、いつでも伝えることができるヤフーは、これまでになく興奮する仕事だ」と話した。
同時に発表した「ヤフー・ニュース・コンテンツ」というアプリは、日本のユーザーが慣れ親しんでいる「ヤフー・ニュース」とはかなり異なるサービスだ。このアプリは、ヤフーが集めてくる提携先のニュースを一覧できる画面を自動的に作成する。さらに、見出しをクリックすると、記事のほか、写真、ビデオ、グラフィックスなどあらゆる報道機関から集めてきたコンテンツを網羅的に見ることができる。
このほか、タブレット端末向けには、「ヤフー・フード」「ヤフー・テック」という2つのマガジンアプリを発表。ヤフー・テックは、ハイテクに詳しくない読者に、最先端技術を分かりやすく説明するデジタルマガジンだ。
こうしてみると、ヤフーは、グーグルとは異なるアプローチで、再び、コンテンツプロバイダー、サービスプロバイダーとして蘇る途上にある。
あとはアップルのように戻ってきたユーザー、あるいは新たなユーザーに熱烈なファンを作ることができるかどうかだ。
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